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2024年 03月 19日 (火)

産総研東北センターが新たに掲げた看板研究テーマ「資源循環技術」とは?(1/2)<産総研東北センター所長の伊藤日出男さんに聞く> 取材・写真・文/大草芳江、資料提供/伊藤日出男(産業技術総合研究所東北センター ※)

2021年05月25日公開

東北発の地域イノベーションに向けて

伊藤 日出男 Hideo ITOH
(国立研究開発法人産業技術総合研究所東北センター所長 ※)

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)東北センターは、2020年4月から開始した第5期中長期計画で、看板研究テーマとして新たに「資源循環技術」を掲げた。その狙いや背景とは何か。また、従来の看板研究テーマである「化学ものづくり」からは何が変わるのか。東北センター所長の伊藤日出男さんに聞いた。

※ 本記事の所属・役職は取材当時(2021年2月)のものです。
※ 本インタビューをもとに「産総研東北ニュースレターNo.49」電子版ならびにインタビュー動画を作成させていただきました。詳細は、産総研東北センターHPをご覧ください。

【関連記事】
産総研東北センターが新たに掲げた看板研究テーマ「資源循環技術」とは?(2/2)<産総研 資源循環利用技術研究 ラボ長の佐々木毅さんに聞く>


◆ 産総研の総合力を生かし、エネルギー等の社会課題を解決

― 産総研東北センターは、看板研究テーマとして、これまで「化学ものづくり」を掲げてきましたが、2020年度からの第5期中長期計画で新たに「資源循環技術」を掲げました。

 産業技術総合研究所(産総研)は、2001年に複数の国立研究機関が統合・再編されて独立行政法人として発足し、2015年より法改正に伴って国立研究開発法人となり、現在に至ります。産総研では、中長期計画を5年に一度更新しており、2020年度からの第5期では、「世界に先駆けた社会課題の解決と経済成長・産業競争力の強化に貢献するイノベーションの創出」をミッションに掲げ、産総研の総合力を生かした、国や社会の要請に対応する世界最高水準の研究機関を目指しています。

 このうち東北センターでは、第5期中長期目標の柱のひとつである「社会課題の解決に貢献する戦略的研究開発の推進」の中でも「エネルギー・環境制約への対応」と、第4期に強化した「橋渡し」(※1)機能を拡充した「地域イノベーションの推進」、このふたつの観点から、新たに「資源循環技術」を看板研究テーマとして掲げました。

※1 「橋渡し」:革新的な技術シーズを事業化に結びつける(産業界に「橋渡し」する)こと


◆ 東北センターが「資源循環技術」を看板研究テーマに掲げた背景

― 数ある技術の中で、なぜ「資源循環技術」を看板研究テーマとして東北センターは選んだのですか?その背景や理由について教えてください。

 日本の中でも東北地方は、たくさんの資源に恵まれていました。例えば、秋田県等で産出される「黒鉱」と呼ばれる鉱石は、当時(1960年代)の日本の非鉄金属資源の大半を占めていました。産総研東北センターの前身である東北工業技術試験所(1967年~)は、その高度利用技術に関する研究の一環として、黒鉱の選鉱自動化のプラント実証を行っていました。現在ではコストの問題もあり国内の大半の鉱山は閉山していますが、その敷地や施設を利用し、例えば、「都市鉱山」と呼ばれる携帯電話等から有用な金属を取り出す研究や、鉱山の地下水や土壌等の浄化を行う施設が数多く存在しています。また、秋田大学や東北大学をはじめ、東北地域は産学官の資源技術研究開発組織が結集している地域でもあります。

 また、東北地方で豊富に産する「スメクタイト」と呼ばれる粘土鉱物は、西日本の粘土とは異なり、薄い紙のような板状の粘土結晶を特徴としています。東北工業技術研究所(1993年に改称)は、透明で均質な材料として、合成スメクタイトの量産技術を確立し、塗料や化粧品、触媒やファインケミカルなど、多分野に貢献してきました。その研究成果は、「Clayteam(クレイチーム)」という産総研東北センターのコンソーシアムにより、様々な企業にソリューションを提供する形で結実しています。Clayteam会長の蛯名武雄首席研究員は、その功績によって平成30年度の「河北文化賞」を受賞しています。

 さらに、国連が提唱する「SDGs(持続可能な開発目標)」でも掲げられている通り、社会の持続可能性を高めるためには、資源を掘って使って捨てるだけでなく、資源を循環させる点に着目する必要があります。

 以上のように、東北センターの歴史的な背景と現在の研究分野、そして産総研全体としての基本方針やサステナビリティに対する社会や世界からの要求、これらを総合的に考える中で、東北センターとして新たに「資源循環技術」を看板研究テーマとして掲げることにいたしました。産総研全体あるいは経済産業省で行っている資源循環技術全体のポータル(窓口)として、また各支援機関と共に環境配慮型のオープンイノベーションを推進することで、東北の産業競争力の強化を支援させていただこうと考えています。


◆ オール産総研の「資源循環技術」窓口

― 具体的にはどのような活動を行うのですか?

 これまでも地域の企業の皆様や大学等各機関と連携を進めてきました。「資源循環技術」を新たな看板研究テーマに掲げ、この分野についてより力を入れた形での連携構築を推進していきます。

 本部である東京、つくばに加え、全国10箇所に研究拠点がある産総研全体では、資源循環技術研究を行う拠点がいくつかあります。例えば、社会課題の解決に貢献する研究開発を領域融合で推進するために第5期から始まった「融合研究ラボ」の一つ「資源循環利用技術研究ラボ」では、炭素や窒素、リン等の物質循環の研究を進めています。また、気候変動問題の解決にむけてエネルギー・環境の技術開発を行うために令和2年1月に設立された「ゼロエミッション国際共同研究センター」にも、資源循環をテーマに研究している研究者がいます。他にも、先程お話した水を浄化する研究や「都市鉱山」から有用な金属を取り出す研究等、産総研の様々な部署で資源循環技術に関する研究が進められています。一方で、産総研全体として「資源循環」で括った物理的な組織はなかった状況がありました。

 そこで東北センターが、東北・全国の企業の皆様からご相談を受けた際、全国あちこちの資源循環に関する最も適した研究者をご紹介できる、「資源循環技術」に関する窓口として、対応させていただきたいと考えています。


◆ 「資源循環」を切り口に、産総研の研究者を仮想的に束ねて見える化

― ということは、これまで東北センターが看板研究テーマとして掲げていた「化学ものづくり」をやめて全国から資源循環関連の研究者を東北センターに集め資源循環に関する研究のみを行う、という意味ではないのですね?

 はい。「資源循環」という新たな看板を掲げることで、産総研の資源循環関係の研究者が東北センターに集まるという意味ではありません。例えるならば、東北センターのみならず、全国の産総研にある満天の星の中から、キラキラと「資源循環」色に輝く星たちを束ねて、「資源循環」の星座をつくる、プラネタリウムのナビゲーターのような役割を東北センターが担うというイメージです。企業の皆様が満天の星の中から資源循環の星を探し出すのは大変な作業ですので、我々東北センターが翻訳しながら仲立ちをするということです。

 例えば、「この部署のこの研究者はこんな資源循環の研究をしています」といったデータベースをつくり、わかりやすく整備していくことも含めて対応します。産総研のみならず、資源循環に関する研究を行っている大学や関連事業を行っている企業の皆様も含め、まず東北から調べ始め、全国の資源循環関係の研究を上手にわかりやすくまとめていきたいと考えています。

 つまり、「資源循環」という角度から仮想的に産総研の研究者を束ねて、見える化する、ということです。当然のことながら、東北センターのこれまでの化学プロセス研究部門の研究を蔑ろにするつもりは全くありません。東北センターの特徴である化学ものづくり研究の中にも資源循環技術に関する研究がいくつかありますので、「スポットライトの当て方が少し変わった」とご理解いただければよいと思います。もちろん、引き続き、産総研全体の他分野の技術に関するご相談も喜んで受けますし、地元の研究組織である化学ものづくり研究についてのご相談あるいは連携構築も変わらず推進して参ります。


◆ "よってたかって"企業の発展を支援

― 最後に、東北センターとして目指すビジョンと、読者へのメッセージをお願いします。

 我々産総研が最終的に何を目指すかと言いますと、企業の皆様が我々を頼ってくださり、我々が相談に乗ったり共同で研究したりするわけですが、それ自体が目的ではなく、それを基に、企業の皆様が新たな製品や業態を開発して大儲けしていただくことが最終目的です。そのためにはまず我々を知っていただき、ぜひ使い倒していただきたい。そして我々なしでも企業の皆様に大儲けをして大発展していただき、卒業生として同窓生をバックアップしていただくところまでつながれば、一番の幸せです。

 産業を発展させる一番の大本は、企業の皆様です。そのために必要な技術は、我々産総研だけでなく地方自治体の公設試や、各地域の大学や産業支援機関の皆様、そして金融機関の皆様と一緒に"よってたかって"支援していくことで、企業の皆様に発展していただき、ひいては産業の発展を目指していきたいと考えています。ですから、まずは遠慮なくご連絡をいただきご活用いただければ幸いです。

― 伊藤さん、ありがとうございました。

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