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2018年 11月 14日 ()

【オンリーワン企業がオンリーワンたる所以を探る Vol.11】目には見えない膨大な積み重ねが生み出す、サンタクロース公認除雪機/フジイコーポレーション(新潟県燕市)社長の藤井大介さんに聞く 取材・写真・文/大草芳江

2018年02月26日公開

目には見えない膨大な積み重ねが生み出す、
サンタクロース公認除雪機

フジイコーポレーション株式会社(新潟県燕市)
代表取締役 藤井 大介 Daisuke Fujii

公益財団法人東北活性化研究センター『"キラリ"東北・新潟のオンリーワン企業』Collaboration連載企画 (Vol.11)
 新潟県燕市に本社を構えるフジイコーポレーション(1865年設立、従業員数145名、資本金1,200万円)は、農機具の製造に始まり152年以上の歴史を持つ機械メーカーである。現在は除雪機や農業機械の製造・販売等といった「グローバルに売れる商品」に絞って事業展開をしており、輸出にも力を入れている。同社の除雪機は、北極から南極まで世界各地で活躍している。2007年にはフィンランドのクリスマス財団よりサンタクロース公認除雪機として認定された。これを機に、会社のマスコットキャラクターをフィンランドのサンタクロースより認定を受けたサンタクロースに決定し、制服等で使用している。本記事のトップ画像も顔写真ではなく、マスコットキャラクターであるサンタクロースのイラストである。2012年「第4回ものづくり日本大賞」優秀賞、2013年「ジャパン・ツバメ・インダストリアル・デザイン・コンテスト」経済産業大臣賞、2014年「ダイバーシティ経営企業100選」、2015年「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員会特別賞等、数々の賞や認定を受けている。そんなオンリーワン企業のフジイコーポレーションがオンリーワンたる所以を探るべく、代表取締役の藤井大介さんに話を聞いた。


オンリーワン企業になるまでの軌跡

◆ 北はサンタクロース村から南は南極基地まで、グローバルに活躍する除雪機

― はじめに、貴社がオンリーワン企業と言われている所以を教えてください。

2007 年にフィンランドのサンタクロース公認除雪機として認定された時の証書(写真上)。これを記念して同社のユニフォームやグッズなど様々な場面でサンタクロースが登場する(写真中央)。同社の輸出相手国の方角を向く本社前に設置された様々な国名の標識。同社がグローバルに活躍していることを物語っている(写真下)。

 「オンリーワン」とは、社外の方が評価して言うものなので、自分たちで言うのは難しいのですが(笑)。弊社の事業は、ダイレスプレス事業、鋼材事業、及び、機械事業の3つです。機械事業のうち、除雪機に絞って言えば、私たちは雪国の人々の生活が少しでも楽になるものを雪国にある企業として一生懸命つくっているだけです。そんな気持ちで、当たり前のことを当たり前に毎日コツコツ積み重ねている結果として、外から「オンリーワン」と言っていただけるなら有り難いことです。

 雪国の生活とともにある我々がつくった除雪機は、豪雪地でも十分に使える雪国にふさわしい除雪機です。日本海側の雪は水分を多く含むため、積もると硬くなり、また湿った雪は飛びにくくなります。重くて硬い雪でも弊社の除雪機は除雪できると自負しています。他社ではできないところまで雪の中を食い込んでいけるのが強みです。北はフィンランドのサンタクロース村から南は南極基地まで、世界各地で使用いただいています。

 今年は、ベルギーの南極越冬隊が弊社の除雪機を導入しました。日本やイギリス、イタリア、アルゼンチンの南極基地で弊社の除雪機を使用しているのを見て、同じものが欲しいと思ったそうです。似たケースがドラマ「冬のソナタ」のロケ地になった韓国ドラゴンバレースキー場です。韓国初のスキーリゾートということで、建設に先立ち、視察に訪れた新潟県のスキー場で、弊社の除雪機が使用されているのを見て購入を決めたそうです。


◆ 豪雪との戦いの歴史が世界に認められる品質を醸成

除雪機は、「オーガ」という螺旋状の回転刃で雪を掻き込み、中央に雪を集めた後、「シュータ」という煙突状の投雪部を通って雪を飛ばす仕組み。同社製品は丈夫さと修理のしやすさを重視して、オールスチール製。鋼材の仕入れから自社一貫生産できる体制も強み。


オーガの拡大写真。オーガに雪が付着すると雪がスムーズに排出されず除雪効率が下がるため、軸にまとわりつく雪を落とす独自の部品「ミラクルオーガ」を今年から新発売。


シュータの拡大写真。シュータの出口の形状を丸型から角型に改良した「ミラクルシュータ」により、最大投雪距離が17mから20mへ大幅アップした。

― 世界で数多ある除雪機の中から、なぜ貴社製品が選ばれているのでしょうか?

 技術面での強みなど細かいところは色々ありますが、世界有数の豪雪地帯である新潟県に本社を構える企業だからこそできたことかもしれません。弊社の除雪機は、新潟の雪で何度となく試されることで磨かれてきました。世界には同じような豪雪地帯が数多くありますので、基本的には各国別に開発し直すことはしません。弊社製品を受け入れてくださる場所を世界中から探すという考え方です。

 また、大手企業はスケールメリットを出す必要性がありますが、中小企業だからこそ、尖った技術や商品でニッチな市場に特化しても、採算が合うところがあると思います。弊社の場合、大手企業と競合しない業務用や豪雪地のヘビーユーザー、そして海外市場をターゲットとして、知る人ぞ知る商品をつくり、地球の裏側で一台でも求められれば届けるという営業スタンスです。商売ですから採算度外視というわけにはいきませんが、そのようなところに心意気を感じてください。

 もちろん、他社が全くできないという意味ではなく、程度の差です。その分、弊社の製品は安くはないので、その価格差を納得いただける方からご購入いただいていると私は理解しています。


◆ 雪国の生活を少しでも楽にして、豊かな生活を送ってほしい

― 「当たり前のことを当たり前に、地道に積み重ねる」時、貴社が一番大切にしている中軸は何ですか?

 私どもの目的は、雪国の生活を少しでも楽にして、豊かな生活を送ってほしいということ。それを今はたまたま「除雪機」という商品で具現化しているだけであって、そのために何をするかです。

製造ラインの最終検査工程に製造担当者のみならず営業担当者も参画する仕組みを運用することで、ユーザーに近い立場の視点による検査の実施と、営業担当者の製品安全に対する意識向上を図っている。

 例えば、安全に対しても私どもはいち早く取り組みました。心臓ペースメーカーなど電磁波の影響を受ける医療機器を使用している方が除雪機を安全に使用できるよう、コストはかかりましたが、
電磁波対策を施したエンジンに切り替えました。また、販売後も安全講習会を開いています。単に自社商品が売れればよいのではなく、除雪機を使用している方の人生が豊かになることが目的ですから、安全講習会は弊社製品購入者に限定せず、希望する方ならどなたでも参加できます。他にも事故予防のための安全機能・仕様等の採用にも積極的に取り組んでいます。これらの弊社の製品安全に関する取り組みは、経済産業省「製品安全対策優良企業表彰」で優良賞を受賞しました。

 「これをやったから格段によくなった」というものではなく、重くて硬い雪を飛ばせるか、雪を詰まらせないか、事故を起こさないか、高齢社会でより使いやすくなるか等を考え、設計、製造、管理、営業、それぞれの部門の社員たちが、外からは見えないような改良を少しずつ積み重ねた結果です。ですから弊社152年の歴史を支えているのは、歴代社長ではなく社員です。社員全員が現状に満足することなく「今日よりも明日」、より良くしようと向上心を持ち続ける姿勢が大切なのです。


◆ 事業とは人を幸せにするためのもの

― それでは、貴社を支える社員に対する考え方について教えてください。

 弊社は、経済活動をする場であり、その活動を通じて、社員が豊かな人生を過ごす場です。ですから、ここでは政治と宗教の話は一切タブー、というのが私どもの考え方です。私は社員を採用した瞬間から、社員が心身ともに健康で、健全に現役をリタイアできるまで支えるのが、会社の責務だと考えています。

 事業とは、人を幸せにするためのものです。社員がここで「苦労も多かったけど、よい人生だったな」と現役世代を終えられるのが一番ですよね。その時、「会社や周囲のおかげで自分(社員)はここまでやってこれた」と思う気持ちが50%、「自分のおかげで会社はここまでやってこれた」と思う気持ちが50%で、リタイアの時を迎えられる人生が理想的だと私は思います。

― なぜその割合が理想的だと考えますか?

 慢心している人を見て素敵とは誰も思わないでしょう。けれども謙虚さも度が過ぎて卑屈になるのもいささかどうでしょうか。何より「会社の犠牲になった」だなんて、自分自身が惨めでしょう。自分の子どもや孫に語れるものがひとつもない人生なんて寂しいですよね。「これは私がつくった。そして生きた」という証が残り、そういう気持ちになれるのが半分。けれども、それができたのは会社や同僚、取引先、地域の人など周囲からの助けのおかげだと思うのが半分。それが人間として一番素敵ではないかと私は思うのです。難しいことですが、難しいからこそ挑戦しています。

 つい先日も、社員OBが小学生対象の弊社工場での仕事体験会にお孫さんを送ってくれました。「あの溶接職場は俺がつくったんだ、ビクビクしないで行って来い」と話していたことを聞いて嬉しかったですね。その方は「会社にお世話になったから」と色々な場面で協力してくださいます。そんな形が理想ですね。オンリーワンと言えば、弊社社員の15%強が大臣表彰を受けています。それは家族に自慢できることだと思います。会社も応援しますが、自ら挑戦したいと望む社員が多く、会社の応援と社員の努力がマッチした結果だと思います。

― 単に売れることだけ、コストだけを考えるのではなく、人間というものを大切にした中軸があるのですね。

 そうですね。今の時代、例えば1,000円コストダウンすれば、その分、製品価格を下げる企業が多いと思います。弊社の場合は、「その分、よい部品を買って性能を上げろ」と社員に指示する方が多いです。第一、「コストダウンだけしろ」と言われ続けたら、技術者は嫌になります。世間をあっと言わせるような新機能を開発して、一生のうち一回でも自分の技量を世に問いたいと願うのが技術者魂だと思います。弊社はその欲求を実現させてあげたいと思うのです。その結果、雪国の人の生活をより豊かにすることができます。


◆ 能力ではなく意識の問題

― 技術者の内発的動機付を基軸とした社風が根付いているのですね。それを社員全体まで根付かせることは現実なかなか難しい面も多いと思いますが、経営者としてどのような点を意識していますか?

 自然に成り立っていた社風です。創業時からこんな社風だったのではないでしょうか。ただ、それが実際に100%形になって、うまくいっているかと言えば、まだまだやることはたくさんあります。社員には常に「次はさらによくしよう」という、謙虚な気持ちになってもらう必要があります。簡単なことほど難しいのですよ。

少量多品種の生産体制を実現した工場内のようす。同社では人の注意力に頼らない安全性の追求により、多様な人材を受け入れるシステムを築いている。部品の供給エリアでは、部品の受入と払出しは1台セットで行い各エリアへ。フォークリフト等の資格が必要なものは、「資格が要る=過去に何か危険なことがあった」という考えから同社では極力使用していない。代わりに荷台や作業台等にキャスターを取り付け、高年齢者や女性など力が弱い人でも楽に運べるようにしている。工場内の高さ制限は140 cmで、どこに誰がいるか一目でわかり、万が一物が落下しても頭に当たらない。工場内をフルフラット化するために、床の段差や柱は一切設けず、天井に配線している。


電動ドライバー等の重い工具は天井から吊り下げ、作業負荷を軽減。工具を吊り下げるおもりが砂入りのペットボトルなのは、万が一紐が切れたとしても身体に当たった時の衝撃が小さくて済むようにとの配慮から。赤い紐はカツオの一本釣り用の丈夫な釣り糸を使用している(写真では、わかりやすいように、赤い紐を赤色で強調している)。

 優秀なのに自分の能力に気づかない人が多いと感じます。新潟県はそれなりに仕事をすればそれなりに食べていける恵まれた地域です。それは、上を目指すという意味ではマイナスです。ですから、社員に自身の能力に気づいてもらうためには、社員が「それはできない」と言いそうなことを、「やってみて」とやらせてみて、それを積み重ねるうちに「できていた」と気付いてもらう過程が必要です。

 弊社の工場も、昔は同一の製品を大量に流れ作業で製造するロット生産システムでした。それをブランドのシールを交互に張り替えるところから始めて、約25年たった今、気付けば、多品種少量生産に対応できるフレキシブルな生産システムを構築するところまで来ました。最初は「多品種少量生産対応型の生産システムだなんて、大手企業のやることで、まさか自分たちができることじゃない」と社員たちは思っていました。少しずつ色々なものを直していくうちに「できる」と思うようになりました。今では「このシステムじゃないと生産できない」と言っています(笑)。

 どの会社さんでも同じだと思いますが、優秀な職人ほど「これをやって」と言うと、「できない理由」が瞬時に出てきます。ですから、そのできない原因を潰せばできる、ということになります。つまり能力ではなく意識の問題です。「できない理由」が出てきたら、それをひとつずつ潰していく。すると気が付けば富士山の8合目まで登っていて景色が開けていた、ということです。


◆ 簡単なことほど難しい

― 「当たり前のことを当たり前に積み重ねる」ことを目指すが、「簡単なことほど難しい」と仰っていたことについて、他にも象徴的な例はありますか?

 基礎・基本は大切ですが、ややもすると、おざなりになります。例えば除雪機も、最近は電子制御に頼ろうとします。そもそもの機体設計が悪ければ、どんなにいじくりまわしても駄目なわけですよね。高度なハイテクの生産設備も、ローテクの知識があるからこそ活かせるのです。

業界では実現不可能と言われていた多品種少量生産対応型の溶接システムを、若手とベテランの協同によって実現した、革新的な溶接ロボットシステム。「ものづくり日本大賞」優秀賞を受賞。

 弊社でも、おそらくこれから徐々に深刻な問題になるであろう課題のひとつは、経済産業省「ものづくり日本大賞」優秀賞を受賞した溶接ロボットシステムから生じてくるものです。導入以降、人間が溶接するところが極端に減りました。その結果、溶接工が昔は1年で経験していたような溶接技術の習得に、今では5、10年もかかるようになりました。それだけ社員の熟練に歳月が必要となりました。

 やはり20歳で覚えたものと30歳で覚えたものでは身体への染み込み方が違います。それだけでもハンデです。さらに基礎となるノウハウがなければ、いくらロボット化しても最後に誰がロボットに教えるのか? という問題が生じます。若い人はロボットの操作は上手です。しかし、どんな角度で溶接したらいいか、複雑なものをどの順番でどう溶接すれば、ひずみが最小になるのか等は、現時点では人間の経験と熟練技に敵うものはありません。今後登場すると言われるAIも、最初に誰かがプログラミングするわけですから、人間の基本知識が必要ですよね。

― 基本となる技術や知識の問題について、貴社ではどんな対策を行っていますか?

 ひとつは「ものづくり道場」をつくりました。これは新入社員全員が対象で、総務の女性でも皆が受けます。私も一期生で受けました(笑)。もうひとつは資格です。技術・技能のベースとなる要素技術の国家資格取得を推奨しており、ボーナスや昇給の加点ポイントとして評価しています。


◆ 豊かな社会人人生を送れるかどうかは、その人次第

― オンリーワン企業をつくる要は、"人"なのですね。三方よしで豊かな人生を送るために「今日より明日」の意識変革がオンリーワンをつくる鍵だと感じました。他にも社員の方に心がけて伝えていることは何ですか?

 社員には「よそでやっていないことをやれ」と言うことを心がけてきました。特に、若手社員が勉強する時には「あなた方のライバルは同僚ではなく後世の人間だ。後世に新しさを感じさせるものを研究しなさい」とよく言います。それに、「常識や定説は疑ってかかれ」とも言います。越後出雲崎生まれの良寛和尚(江戸後期の僧)が「何必(かひつ)」という言葉を残しました。定説を「何ぞ必ずしも」と疑い、もっと自由な心で物事を見て人生を過ごしなさい、という意味です。人は常識というものに縛られて、誰も不思議だと思いません。少し立ち止まってみて自由な発想で考えみると、ユニークな商品や仕事のやり方につながるヒントがあるかもしれません。

 また、「どんな仕事にも一流、二流、三流がある」ともよく言います。最近は一緒に行く機会は少なくなりましたが、昔は海外出張に行った時に時間があると、社員を一流レストラン等に連れて行き、「ドアマンだってボーイさんだって、一流レストランは違うだろう。どんな仕事でも、それをつまらなくするのもおもしろくするのも自分次第だ」と話します。自分がその仕事で世界一になろうと思えば、やることがたくさんあって楽しいと思います。一流を目指すのです。自分がやりたい理想と現実との差があるから、「今日よりも明日」の仕事があるわけで、一致してしまえば、もうやることなんてないですよね。

 モチベーションだって、自分の人生ですから、自ら出すべきものだと思います。「上司が悪いからやる気が出ない」と文句を言う人には、「嫌いな人のためにあなたの人生の大切な一日を駄目にするなんて、馬鹿げている。好きな人のために地球の裏側まで追いかけていく話はよく聞くけど...(笑)」と言います。毎日「嫌だ、嫌だ」と仕事をするのも一生です。一見つまらなそうな仕事でも、自分が世界一になろうと思えば、「今日は何をやろうかな」と色々な工夫や技の磨き方があり、楽しい一日になる。残念ながら、私はその域に達していませんが、そうありたいと常に思っています。

 人材育成も突き詰めれば、人が人を「育てられる」わけがないと思っています。人は「育つ」ものです。他人はチャンスという水際まで連れていけますが、その水を飲むかどうかは、その人次第。社会人人生という白いキャンパスにどんな色を塗るかは、その人次第です。


社長が二十歳だった頃

― 次に、藤井さんが二十歳だった頃について、教えてください。

◆ 人とは違うことをやりたい

 二十代の頃に考えていたことは、今やっていることとあまりに真逆です(笑)。まず新潟に帰って家を継ごうという気は全くありませんでした。当時と今の共通点は、「人とは違うことをしたい」という気持ちだけ。当時の常識は「よい会社に入って、終身雇用で会社に残り、できれば役員になりたい」というのが、一般的な大卒者の人生設計でした。そんな時代に、転職を重ねながら自分のキャリアを磨き、世界と渡り合いたいと本気で思っていました。実は国際金融に興味があり、卒業後は政府系金融機関でODAに関わる仕事をしていました。将来は、国際通貨基金や世界銀行で活躍することを夢見ていたのです。「自分の知識と腕だけで勝負し、自分の力量を世に試すんだ」と、裸一貫、自分の実力だけで自分の人生を歩みたいと思っていました。

 それが今では、70歳までの再雇用制度を整備して、5代目社長として4代目までの諸先輩方が残したものを引き継ぎ、後世に伝えることを一生懸命考えているわけです。全く真逆でしょう?(笑)。もちろん継ぐことは非常に難しいことですし、元手があることも恵まれていることです。これとは全く違う生き方を、若い頃は夢見ていました。自分で稼いだものなら自分のせいで失っても仕方がありませんが、諸先輩方や社員たちが得たものを自分の代で無くしてしまったら...と考えていたら、つまらない常識人になったと思います(笑)。

― その後、どのような経緯で、会社を継ぐことになったのですか?

 就職してからわずか半年後、父の見舞いのため新潟に戻ると、父は亡くなっていました。突然のことで考える暇もなく、また、新潟から帰してくれそうな雰囲気でもありませんでした。私が勤めていた会社に、勝手に退職届を出した社員がいるのですよ...。今になれば、そのことに文句を言うよりも、「この状況で今日は何をやろう」と思うのも、ワクワク・ドキドキの楽しい一瞬です。その方が自分にとっても幸せな人生だったと思うように、敢えて心掛けています。ただ、今でも海外に行くと、国際金融の世界で仕事をしたかった気持ちが疼くことはありますよ(笑)。若い頃の夢って、そういうものです。

― 「人と違うことをやりたい」気持ちは、今もずっと続いているのですね。なぜ「人とは違うことをやりたい」と思うのですか?

 学部で経済学を学んだ後、MBA(Master of Business Administration)を取得するために大学院に進学しました。今でこそMBAという学位は一般的ですが、当時、日本での認知度は低く、また文系の大学院進学者は教員志望者しかいない時代でした。それだけ世の中の極一部の人しか知らないことを勉強していると思うと知的興奮を覚え、2年間、寝食を忘れて勉強しました。人と違うことをやることは、こんなにおもしろいのかと思いましたよ。

― 先程の技術者魂を尊重する話とつながりますね。

 そうですね。ただ、これでも今は随分と丸くなったんですよ(笑)。ですから今の弊社社員は真面目なんです。この程度の私で驚いていたら、二十歳の頃の私を見てどう思うのだろうと...(笑)。

 うちの社員は、社長の意見に黙って「わかりました」と100%従う人は少ないのですよ(笑)。最後にちらっと自分の個性を出すんですよね。私が言ったこと100%その通りにはせず、「素直じゃないな」と思います(笑)。そういう反骨精神があるからいいと思うのです。


我が社の環境自慢

― 続いて、貴社の環境自慢を教えてください。

◆ 多様性を尊重

 多様性を重んじる会社です。それを可能にするのは、先ほどお話した通り、宗教と政治は一切タブーという考え方です。ですから、弊社には高齢者の方や外国人の方、イスラム教の方もいます。自分の人生と会社のために一生懸命頑張る人ならば誰でも受け入れる点は、我が社の良い点だと思っています。

 もちろん何でもOKというわけではなく、社長の言うことには当然、従ってもらいます。その範囲で社員は自己実現をするわけです。「船頭多くして船山に上る」では困ります。この方向に行くと指示を出すのは社長の仕事です。それをどんな航海にするか、航海中どんな食事を出すかは、それぞれの船員たちの仕事でしょう。そこに創意工夫があると思うのです。

 組織ですから、それぞれの立場に範囲があるわけで、自分の持ち場の中におもしろさを見つけることが、その人の幸せではないでしょうか。「青い鳥」ではないですが、幸せは自分の気持ちの中にあると思うのです。そういう意味では私も「新潟に閉じ込められた人生」という言い方もありますが、ここにはここのおもしろい仕事があるから、おもしろい人生だと思います(笑)。


若者へのメッセージ

―最後に、今までのお話を踏まえ、若い世代にメッセージをお願いします。

 リベラルアーツ(教養)をもっと勉強してください。大学を含めて今の学校は就職予備校化していると感じます。小手先の技能や知識だけでは世界に通用しません。ものづくりも研究開発も、そこには、その人の哲学や価値観が必要です。そして、それを勉強でき、体得できるのは、若い時だけです。商品販売の前に自分を売らないといけないのですから、魅力のある人間になるためにはどうすればいいかを考えてください。それこそが本当の王道だと思います。

― 藤井さん、ありがとうございました。


社員に聞く、我が社の環境自慢

◆ 色々な人がいて、おもしろい会社
/須藤綾さん(入社2年目、福島県いわき市出身)

 ものづくりに携わりたいと漠然とですが思っており、大学まで説明に来てくれた同社の話を聞いて入社を決めました。今は部品の仕入れや納期管理等を担当しています。文系出身のため、わからない言葉も多くて仕事を覚えるのは大変ですが、新しいことなのでおもしろいです。これから色々勉強して、自分で考えてどんどん仕事を進めていけるようになりたいです。

 弊社の環境自慢は、高齢者や外国人の方など、色々な人たちと一緒に働けること。色々な人と話す中で、自分が「当たり前だ」と思っていることが全く違うことに気付くことが一番おもしろいです。また、弊社には独自の変わったルールがたくさんあります。色々なこだわりがあって、おもしろい会社だと思います。


◆ 会社の支援で博士号取得。挑戦する人を積極的に支援してくれる環境が自慢。
/栗原 信さん(入社10年目、大阪府出身)

 新潟大学大学院修士課程を修了後、弊社に入社しました。大学・大学院では工学部に在籍していました。大学3年生の時、副専攻制度を利用して農学部の農業機械に関する授業を受けたことをきっかけに、人間にとって無くてはならないものは、車やパソコン等より、生きるために必要な農作物だと考えるようになりました。そこで、自分の一生をかけて社会に貢献できる仕事として、農業機械メーカーへの就職を希望し、農業県である新潟県内で、自分の専門と希望を活かせる唯一の会社だった弊社1社のみを志望し、無事採用いただきました。

 現在は、商品開発部の制御グループで、主に弊社で製造している除雪機、草刈機、高所作業機等の制御ユニットの設計・開発をしています。これまで世の中になかった新しい機能を自分で考えて開発し、それが製品となって、お客さんに喜んでいただいた瞬間が、最もやりがいを感じる時です。

 弊社の環境自慢は、皆が仲良く仕事をしているので、人間関係のストレスがなく、仕事がやりやすいアットホームな雰囲気です。また、私のような若手にも、重要な仕事をどんどん任せてくれ、挑戦する人を積極的に支援して育ててくれる環境も自慢です。今から6年前に、会社から「博士号をとらないか」と、学費を出していただいて新潟大学の社会人博士課程に進学し、今年9月に無事、博士号を取得しました。博士課程で勉強した最先端の画像処理やAIなどの技術を弊社にも取り入れ、よりよい製品を他社に先がけて開発したいです。

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