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2016年 07月 24日 (日)

成田 晋也さん(岩手大学工学部教授)に聞く:宇宙の成り立ちを解き明かす 取材・写真・文/大草芳江

2015年12月18日公開

宇宙の成り立ちを解き明かす
~高校生の頃からの夢を叶えるILC~

成田 晋也 SHINYA NARITA
(岩手大学工学部 教授)

1968年、青森県生まれ。岩手大学工学部電気電子・情報システム工学科教授。研究分野は、高エネルギー物理学、凝集系核科学、粒子計測。1992年東北大学理学部卒。1997年東北大学大学院理学研究科にて博士号(理学)を取得。国際リニアコライダーでは、測定器開発の他、計画推進に関わる様々な活動に携わる。

東北ILC推進協議会×「宮城の新聞」コラボレーション連載企画

ノーベル物理学賞「小林・益川理論」の検証に大きく貢献した素粒子実験「Belle実験」に携わった後、
電子工学的な観点から素粒子物理学の研究に関わる成田晋也さん(岩手大学教授)。
地元の北上山地が建設候補地となった最先端の素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の
実現に向けて活動している成田さんに、ILCに対する想いや期待を聞きました。


成田 晋也さん(岩手大学工学部教授)に聞く


【1】自然の本質を解き明かしたい

■高校生の頃からの夢を叶えるILC

―成田先生は、どんなことがおもしろいと思って、研究をしているのですか?

 高校生の頃に「自然の本質を解き明かしたい」と思い、大学では物理学を専攻しました。自然の本質を突き詰めるとなれば、物質や宇宙の成り立ちを研究したいと思い、物理学の中でも素粒子物理学を選びました。
 宇宙の始まりは極めて高エネルギーな世界です。高エネルギーで宇宙を再現することにより、宇宙の成り立ちを調べることに非常に興味があります。その実験こそ、国際リニアコライダー(ILC)計画です。まさにILCは私の高校生の頃からの夢を叶える装置です(笑)。
 大学院修士課程では、今年のノーベル物理学賞受賞で話題の、ニュートリノを観測するための装置(光電子増倍管)をハワイ島沖の海底に設置する実験に携わり、私は光電子増倍管を含む光検出器の制御プログラムの開発を担当しました。大学院博士課程では、米国スタンフォード線形加速器センターでの偏極電子・陽電子衝突実験に参加し、素粒子物理学の基本的な枠組みである「標準理論」を検証するテーマで博士号を取得しました。
 その当時、素粒子物理学の最も重要なテーマのひとつが、「粒子」と「反粒子」(質量が等しく、電荷の符号が反対の粒子)の性質の違いを調べることでした。その謎を解き明かすための実験が、日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)における「Bファクトリー」(KEKB加速器)での「Belle実験」でした。この実験に私も携わり、準備を進めていた検出器の開発を担当しました。Belle実験は1999年から開始され成果を挙げ、小林・益川先生のノーベル物理学賞受賞に貢献したのです。

【写真1】将来のニュートリノ実験用に開発を進めている液体アルゴン測定器

 岩手大学着任後は工学部電気電子工学科(のちに電気電子・情報システム工学科)の一員として、電子工学的な観点から素粒子物理学の研究に関わってきました。もともと素粒子物理の実験屋として行っていた測定装置やソフトウェアの開発に軸足をより置いて、しばらく粒子測定器や測定器用の電子デバイス材料を中心に研究をしてきました。
 その間も常に素粒子物理学の動向について情報を集めていました。そして2010年頃、研究者仲間から声をかけられ、新しいニュートリノ実験の測定器開発に携わることになりました(写真1)。そんな中、ILCの動きが活発化してきたのが2011年頃です。もともとILCに興味がありましたが、特に、建設候補地が地元・岩手ということもあり、自然とその中に入った感じです。まさに運命的なこともあるものですね(笑)。


【2】世界最先端の加速器がもたらすもの

―もしILCが北上山地に建設された場合、どのような拡がりが期待されるでしょうか?

【図】北上山地での建設を目指し計画が進むILC(イメージ)

 物理に関しては、ヒッグス粒子や暗黒物質の謎の解決が非常に興味深いですね。私のような物理学者のみならず、誰もが関心を持つ「宇宙はどうやって生まれたのか」という問いに答えを与えるものですから、ILCで生まれる物理的成果は、間違いなく世界中の人々に夢を与える結果になると思います。
 また、工学的な観点から言えば、ILCに関わる様々な技術は世界最先端の要素で構成されるため、そこでひとつ一つの要素技術が進歩することで、様々な波及効果が生まれるでしょう。岩手発・日本発の新しい技術が生まれることへの期待があります。


■日本の技術力の高さ

―日本や東北の加速器科学技術のレベルは、国際的に見て如何でしょうか?

 世界中に優秀な物理学者や技術者がいますが、素粒子実験を進めるには、様々な技術が必要です。特に日本の場合、研究者に限らず企業も、日本の素粒子実験の活躍を後押ししていると思います。素粒子分野は様々な要素技術で構成されるため、それが余計に際立つのかもしれませんが、どの分野においても、大きな企業から町工場まで日本の企業の技術力の高さが、科学の発展を支えています。ILCが北上にできれば、日本の技術力を発揮するチャンスですし、東北には高い技術を持つ企業が数多くありますので、ILC実験を支えてくれると期待しています。


■最先端技術の応用展開

―加速器の要素技術の発達によって生まれる波及効果とは?

 素粒子の測定器は、目に見えないものを捕まえる装置です。素粒子がどこをどのように飛んだか、どのような粒子が飛んだかなどを調べるのが役割です。それを、mmやμmの精度で正確に位置を調べるのが非常に重要です。それができれば、粒子線を用いる様々な分野で応用できます。
 例えば、医療で体内を診断する時、粒子をぶつけ、それがどう跳ね返るかを調べます。その位置の精度が非常に良い測定器ができれば、非常に狭い範囲で病気の原因が特定できるなどの応用が期待できます。環境分野でも、紫外線や放射線の高感度な測定器を低価格で開発できると考えています。
 また、素粒子物理実験では、高頻度で粒子と粒子を衝突し、粒子が発生します。その際、粒子測定器から発生する大量の電気信号を高速で処理し、そのデータを蓄積して、解析することになります。そのため、高速信号処理技術や情報通信技術も深く関係します。有名な例は、World Wide Web(WWW)ですね。WWWはスイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)で、世界中の大学・研究機関で働く素粒子物理学者たちが情報を共有できるようにするために考案されたものです。
 それに、素粒子実験では、反応によって生成される粒子を長期間安定して捕まえるための測定器材料が必要になります。例えば、粒子の衝突点近くには半導体による粒子測定器が置かれますが、長く実験を続けていると、粒子線による半導体の劣化が問題になります。そのため、素粒子実験では、劣化に強い材料や構造を工夫した半導体測定器の開発が行われています。この研究開発成果は、同じく粒子線の大量照射を考慮する必要がある衛星技術などにも応用できる可能性があります。実は私も、新しい材料による半導体測定器の開発に取り組んでいます。

―加速器科学はハイレベルな要素技術から成り立つからこそ、様々な周辺領域に応用展開が可能なのですね。

 そうですね。やや観点が異なりますが、素粒子物理で学位を取得した研究者は、例えば、ソフトウェアやデータ通信、医療用機器など、様々な分野で活躍しています。素粒子実験をやっていると、知らぬ間に手に職がついている感じですね(笑)。


■想像できない新技術につながる可能性

 とはいえ、ILCや素粒子の技術が将来何につながるかは、わからないことの方が多いと思います。電子が見つかったのは、今から約100年前のこと。今でこそ電子という言葉は、中高生でも知っていますが、電子が発見された当時、その電子の発見が将来何につながるかは、おそらく誰もわからなかったと思います。けれども、電子が発見され、その素性がわかったおかげで、電子をコントロールできるようになり、様々なはたらきを持つ電子回路が実現しました。それが今日のパソコンや携帯電話の基礎を築いたわけです。電子の発見がなければ、今の情報通信社会はなかったでしょう。
 では何がそうさせたかと言うと、「これがあれば何か新しいことができるのではないか」と考えた人がいるからです。よく研究室の学生に、「ただ結果を持ってくるだけでは、何を考えているかわからないから、自分の考えを入れろ」と言っています。常に目の前にあることから、何かを考える姿勢が大切です。すると、世の中はもっと良くなると思うのです。


【3】次世代へのメッセージ

■わからない自然をできるだけ知りたい

―成田先生の今後の抱負についてお聞かせいただけますか?

 新しいものを見ることは、前提よりも目の前のものが全てで、目の前に現れている現象に正直に向き合わなければいけません。もちろん、それが正しくやって出た結果かどうかは、きちんと考える必要があります。けれども自分がやってきたことが間違いなく、今までに無いものが出てきたら、もっと謙虚に受け入れて考える必要があると意識しています。やはり、自然が一番正直です。正直な自然に対して、正しく情報を得て、正しく理解することが、自然科学には大事で、それが自然を理解することだと思います。
 人間の一生なんて自然から見れば短いものです。その限られた中で、わからない自然をできるだけ多く知りたいのです。ですから自分ができることはチャレンジしたいと思います。そのひとつの有力な方法が、ILCであることは間違いありません。自分が知りたいことを知るために、ILCをぜひ実現させたいです。特に地元・岩手の大学におりますので、若い力にも参加してもらいながら、ぜひ成功させたいと思っています。


好奇心を失わずに自分の頭で考えて

―最後に、中高生たち若い世代へのメッセージをお願いします。

 まずは、色々なものごとに関心を持って、好奇心を失わず、身のまわりのちょっとしたことにも興味を持つ心を無くさないでもらいたいですね。もうひとつは、誰かから何かの情報をもらった時、常に好奇心を持って、自分の頭で「なぜだろう?」と考える気持ちを、若いうちだけでなく歳をとっても、大事にしてもらいたいと思います。これは自分自身にも、常に言い聞かせていることですけど(笑)。

―ちなみに、成田さんの研究以外での楽しみは何ですか?

 毎日の楽しみは犬の散歩です。気分転換になって元気が出ます。あとは鉄道好きです。最近は、時刻表を見るくらいしかやっていませんが、時刻表は年中見ています。時間があれば色々な鉄道に乗ってみたいですね。それと、時刻表を見て楽しいのは、出張で会議が連続してある日、「これにこう乗り継げば、この日この時間に出ても間に合うぞ」とか(笑)。でも最近は便利なアプリがあって、それであっという間に検索できちゃうのが、ちょっと寂しいですけどね(笑)。

―成田先生、本日はありがとうございました。

取材先: 岩手大学      (タグ: , ,

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