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2024年 03月 30日 (土)

仙台市科学館長に聞く:仙台市科学館って、どんなところ? 取材・写真・文/大草芳江

2009年02月09日公開

 昨年11月から空調設備改修のため休館していた仙台市科学館(青葉区)が2月1日、新たな装いで再開した。ゾウ類標本や日本各地に生息する貝標本、ガラス製の水時計を新たに展示している。とは言え、頻繁に足を運ぶ人にとっては身近な科学館だが、まだ馴染みが薄い人も少なくないだろう。そこで改めて、そもそも仙台市科学館とはどのような存在なのかを、大串秀夫館長に伺った。


大串秀夫仙台市科学館長に聞く

大串秀夫(おおぐしひでお)
1951年生まれ。東京下町出身。77年仙台市役所に勤務、公益的施設の建設に携わってきた。近年は、市施行の再開発事業における建設部門の総括を勤め、2000年せんだいメディアテーク副館長を経て、2007年より現職。

―まずは新しい展示物について教えてください。

 現在の科学館が開館したのは平成2年のこと。来場者からは「冬は外よりも寒い」「夏は背広が汗だく」と言われる程、空調設備が老朽化していましたが、今回は予算が確保できたため、3系統のうち1系統を工事することができました。そこで3ヶ月間お休みを頂くのに、空調設備改修だけでは心苦しいね、ということで、新たな展示物を探しました。

 財団法人齋藤報恩会自然史博物館の閉館に伴い、ナウマンゾウ骨格レプリカ標本1体、アフリカゾウ及びアジアゾウの骨格標本を各1体、日本の原生貝標本を頂き、新たに展示しました。

アフリカゾウ(左)及びアジアゾウ(右奥)の骨格標本

  原生貝標本「日本の貝」

チョウ類標本「八島コレクション」


 八島淳一郎氏が収集・飼育していたチョウ類の標本は、昨年11月に標本箱184箱が寄贈されました。これらのチョウ類は、仙台市近郊だけでなく、北海道から沖縄の離島まで日本各地で収集したもの、台湾や東南アジアのチョウも含まれています。

ガラス製の水時計

 ガラス製の水時計は以前科学館で展示したことがあるのですが、壊れてしまったものを、提供もとの東北大学大学院理学研究科の硝子機器開発・研修室にご協力頂き、修理して頂いたものを展示しています。

 さらに、科学館「サイエンス・インタプリタ」(ボランティア)が工夫した手づくりの作品も、展示していこうということになりました。

―仙台市科学館の特徴とは?

 その沿革に、科学館の特徴が出ていると思います。

沿革
昭和27年 6月サイエンスルーム開設・実験指導開始(科学館学習)
昭和29年 9月第1回仙台市児童生徒理科作品展開催
昭和43年 5月仙台市科学館開館(実験室2、展示室1)
平成2年 9月新仙台市科学館開館
平成3年 4月館内コンピュータネットワークシステム完成
平成8年 4月インターネットホームぺージ開設
平成12~13年度展示室リニューアル(新展示物公開)
平成14年 3月開館50周年記念事業の開催

 昭和27年、錦町公園(青葉区)に「レジャーセンター」という屋内運動場がありました。そこに併設された実験室「サイエンスルーム」が、科学館のはじまりです。

 昭和27年は、各学校に実験室を揃える余裕がありませんでした。そこで中学生をサイエンスルームに呼んで実験を行うことがはじまったのです。当時の写真に「科学館」という文字がありましたから、科学館のサイエンスルームという意識があったのでしょう。当時は展示物はなく、近くにある自然史博物館からものを借りてきて展示していたと聞いています。

 サイエンスルームで実験学習をしていましたが、次第に手狭になったため、昭和43年、青葉通ビル地下に展示室を併設した初代科学館が開館しました。展示と実験学習、二種類の部屋をつくることで、より充実した科学館学習が可能となりました。

 その頃から学校とも連携して、市内の中学生対象に実験学習を行うようになっていましたが、次第に学校にも実験室が整ってきました。そこで科学館では、学校のプラスアルファの実験をやっていこう、ということになったのです。

地学の実験学習「地球を測る」のようす

物理の実験学習「光がさぐる」のようす


展示物を利用したマークシート方式の展示学習


生物の実験学習「植物は何色が好き?」のようす。光合成で発生した酸素の定量化にコンピュータを利用している。

 科学館では、物理、地学、生物、化学の4分野の実験室をつくっています。仙台市立のみに限らず、市内の全中学校の2年生全員を対象に、実験学習と展示学習を実施しています。昨年は1万名近い中学2年生が科学館学習を行いました(平成20年度は、対象学校数71校、対象生徒約9,500名を予定)。このような学校との連携は全国的にも珍しく、仙台市科学館の特色だと思います。

 実験学習は、生物、地学、物理、化学の4分野について、4年毎に新しいテーマを開発しています。テーマの選択は、生徒の希望を取り入れる体制をとっています。実験室で90分間実験を行った後は、展示物を利用してマークシート方式で勉強できる展示学習も併せて行います。こちらも常設展示の中から設定したテーマを、生徒が選択する方式をとっています。

 最近は、単に現象だけの実験ではなく、コンピュータを活用した実験を行っています。これからはコンピュータを利用して色々な作業を行う時代ですからね。ですから科学館では、実験学習にあったプログラムやソフトの開発も行っているのですよ。

―科学館と言うと展示のイメージが強かったのですが、実験学習のコンテンツ開発・実施が、むしろ仙台市科学館の原点なのですね。

 実は、私自身もここに来る前(大串館長は2007年より現職)までは、科学館は展示学習の場だと思っていたのです。けれども、中にいるのと外にいるのでは、大違いでしてね。ここに来てから、実験学習のコンテンツ開発・実施や、学校教育との連携が深いことを知り、私自身、科学館に対する認識が変わりました。ですから外部の方へこうやってお話する機会がある度に、必ずこの話をするようにしているのです。

―他にも、新たに認識したことは?

 科学館は子どものためのものと思っていましたが、大人でも楽しめるものが案外ありますよ。企画展に限らず常設展示についても、大人でも新しい発見があります。ですから大人の方にも是非、来ていただけると良いですね。

 また、中学生向けの実験学習も、内容的にも充実した授業ですよ。私は開発からその様子を見ているので、先生方のご苦労や開発の意図を考えると、素晴らしいことをしているなぁと思います。

―他にも、仙台市科学館ならではの特徴はありますか?

 科学館の運営は21名の職員の他に、「サイエンス・インタプリタ」というボランティアもたくさんいます(現在、63名が交代で活動)。インタプリタとは、科学館とお客さんの間に入るつなぎ役のことを指します。職員を含めて全員が、インタプリタという意識でお客さんと接しています。

 科学館では、ボランティアの活動が活発なのですよ。今回新たに頂いたゾウ標本がありますが、ナウマンゾウ骨格レプリカ標本については、「自分たちでやろう」とボランティアの方が中心となって、組み立て、据付を行い、NHK仙台放送局のニュースでも報道されました。本職の方から見ると、少々驚かれたことだったかもしれませんが、かなりたくさんの方が集まりましたので、皆の意欲でやり遂げたという感じですね。

サイエンス・インタプリタのユニフォーム

 ボランティアの方々は、土曜日・日曜日・祝日の"ガイドツアー(展示物の解説)"等にも積極的に参加されていて、自分らの工夫を持ち寄り解説をして頂いています。年齢層は18歳から80歳代と幅広く、学生、元教授、元NHKカメラマン、主婦等と、様々な方々が活動されています。

 先ほどもご紹介しましたが、今回新たな展示として、ボランティアの皆さんの手づくり作品も展示しています。パイプをつなぎ、長さの違うパイプで聞こえる音程が若干違うオルガンパイプなど。色々と動きのあるものを工夫して頂いています。

―そもそも科学館とはなんですか?

 来館者が「じかに見て、手をふれ、動かして」確かめることを通して、事象の内に潜む原理・法則を理解できるよう、なるべく本物を見せていくという考え方で、科学・技術に関する知識の普及啓発を図ることを、科学館の目的としています。

 科学館で体験したことが、学校で「こういうことなのか」とわかってもらえれば良いですね。あるいは学校で習ったことが科学館に来て、「そういうことだったのか」と連携できるものがあったら良いと思います。

 ただし、なかなか最先端のものは置きにくいですね。最先端を狙うと、どうしても陳腐化してしまいます。最先端ばかりを追っていくと予算もキリがないですしね。

「じかに見て、手をふれ、動かして」確かめることを通して原理・法則を理解できるよう工夫された展示

 ですから科学館では最先端を追うのではなく、原理・原則の部分が中心です。実験学習も展示学習も、原理・原則をわかりやすく、じかにふれながら、「何でだろう」と思わせる工夫を凝らしていく、という考え方です。

 その一方で、もちろん時代の特色を新たに取り込んでいく場合もあります。例えば実験学習のテーマに「エネルギー」を取り入れたのも、現在、環境学習がクローズアップされていますね。その原理・原則をわかってもらえるように、という意図があります。

―科学館で大串館長が感じることは?

 最近、子ども達の科学離れ問題が叫ばれていますが、小学生の子ども達を見ていると、決してそんなことはないと感じています。けれどもそれが中学生になると、興味を失ってしまう。そこで科学への興味が持続するためには何が必要なのかを考えています。

 ゲームの影響なのでしょうか、何でもかんでもはじめからつくられていて、何でもできてしまうと思いがちなところに原因があるのかな。例えば箱ひとつをつくるのも、ゲームなら簡単ですが、実際にのこぎりや板を使ってみると、釘一本でも、どの長さのどんなものを使うかが、重要になってきますね。けれども最近は、「面倒だから」と、そういう部分が投げ捨てられている気がします。そこで努力を厭わないような環境づくりが、科学離れに対しては必要なのかなと思っています。

 最近、模型関係のイベントを見に行ったんです。きっと模型の部品がたくさん集まっているのかなと思っていたのですが、違うんですね。既に出来上がったものに色を塗るものはあるけれども、部品一個一個はあまり置いていないんです。私が子どもの頃とは、違うなぁと思いました。

 面倒なものは嫌われちゃうのかな。けれども、すごく面倒臭いけれども、精巧に出来ていて、組み上げるときちんと動く。そこに発展していく何かの基礎があるように思うのですがね。

ボランティアによる手づくり感溢れた展示作品

 そのような意味で、ボランティアの方々が作った作品は非常に面白いですね。「私でもつくれるかな」という手作りの展示物があるので、そういうものを見て頂きたいですね。

 最近は修繕費があまりないので、自分たちの手で出来るようなものは自分たちでやっていこう、という方針です。ボランティアの方々に随分とやって頂いています。

 例えば、今回新たに展示したガラス製の水時計の修復も、必要なものはDIYセンターで買ってきて、社会教育指導員に指導して頂いて、自分たちでやれるものはやりました。そうするうちにボランティアの方々も、自然に愛着が湧いてくるところがあるのではないでしょうか。

―いわゆる「科学離れ」に対しては、どのように考えていますか?

 科学離れは、ひとつの団体がどうこうという問題ではないでしょう。一人ひとりが本質を追求するような社会全体の風潮、社会全体の流れというものが必要だと思います。けれどもそれが決してないわけではないですよね。

 例えば、中小企業や零細企業の技術が、最近話題になっています。大企業ではできないことを、街中の工場がやっている。各個人ができることを追求していくと、街中の零細企業でも花開かせることができるのです。

 また、本を読まない風潮があるとこれまで言われてきましたが、最近は読む人が増えてきたと聞きます。このように、修正をかけていくのが人間だと思います。そういう流れがあると思うのですよ。

 こういう悪い面があると指摘されれば、では良い面に行くにはどうすれば良いかと考えるのが人間ですし、日本人は勤勉で技術力が高く繊細という側面を持っていると思います。ですからこれからの新しい技術、新しい科学に対応して頂ける人が、これからも出てくるのではないかと、私は思っています。

―大串館長、どうもありがとうございました。

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