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2024年 11月 21日 (木)

2019年度 産総研東北センターTAIプロジェクトEBISワークショップ「チームの創発力・実現力を引き出すデザインブレインマッピング(新規事業創出に向けて)」レポート 取材・写真・文/大草芳江

2020年01月06日公開

 産業技術総合研究所東北センター(以下、産総研東北センター)が東北地域新産業創出に向けて、産学官金"協奏"による新たな企業支援の試み「Tohoku Advanced Innovation Project(TAIプロジェクト)」を2018年夏からスタートさせた。産業・技術環境の変革の波に乗って企業が大きく発展できるよう、主に経営層を対象に、さまざまな先端技術を体験できる勉強会「EBIS(Expanding Business Innovations for executiveS)ワークショップ」を開催している。2019年度に東北各県で実施されたEBISワークショップの模様をレポートする。

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※ 本インタビューをもとに産業技術総合研究所様「TAIプロジェクト報告書」を作成させていただきました。詳細は、産業技術総合研究所東北センターHP「TAIプロジェクト」をご覧ください。


2019年度 産総研東北センターTAIプロジェクト EBISワークショップ「チームの創発力・実現力を引き出すデザインブレインマッピング(新規事業創出に向けて)」レポート

「チームの創発力・実現力を引き出すデザインブレインマッピング」セミナーのようす=11月13日、岩手県工業技術センター(岩手県盛岡市)

 イノベーションを生み出す方法論として「デザイン思考」が注目されている。「デザイン思考」アクションをチームで起こすために産業技術総合研究所(以下産総研)が開発、公開しているツール「デザインブレインマッピング」(以下DBM)を紹介するセミナーが11月13日、岩手県工業技術センター(岩手県盛岡市)にて開催され、中小企業や支援機関等の担当者ら24名が参加した。

産業技術総合研究所東北センター所長の伊藤日出男さん

 同セミナーは、企業に新たな事業の柱につながる気づきの場を提供しようと、産総研東北センターが昨年度から東北各県で開催している「TAIプロジェクト」勉強会(EBISワークショップ)の一環。中堅・中小企業の経営者等を対象に、講師との議論や新しい技術を体験することに重点を置いた勉強会で、テーマは毎回異なる。セミナーでは、はじめに主催者の産総研東北センター所長の伊藤日出男さんがTAIプロジェクトについて紹介し、「デザインがどのように企業の経営に役立つか、一緒に考えたい」と挨拶した。

 続けて、講師を務めた産総研エレクトロニクス・製造領域製造技術研究部門総括研究主幹の手塚明さんが「チームの創発力・実現力を引き出すデザインブレインマッピング(新規事業創出に向けて)-まずは難しく考えずに試してみよう-」と題したセミナーを行い、簡単なワークを交えながらDBMのポイントを解説。DBMは、背景が異なるチームメンバーが自ら問いを発見し、メンバー同士で創発し、合意形成まで進めるプロセスを、ストレスなく効率化するための方法と道具であることを詳しく解説した。

岩手県工業技術センター理事の小浜恵子さん

 最後に、共同で主催した岩手県工業技術センター理事の小浜恵子さんが挨拶し、「米Apple社のように、産業競争力の高い企業はデザインを重視している。昨年、経済産業省と特許庁が『デザイン経営』宣言を公表し、企業の成長のためにはデザインを考えることが重要といっている。当センターでも、今年4月から岩手県のデザイン支援の拠点となる『IIRI DESIGN LAB』を設置し、デザイン活用の支援強化に取り組んでいる。デザイン思考について、ともに学びながら、岩手県の企業のさらなる成長へつなげたい」と語った。

 11月20日と27日にはDBMのワークショップも行われた。13日に開催されたセミナーの詳細レポートは、以下の通り。

11月20日と27日に開催されたDBMワークショップのようす(写真提供:産業技術総合研究所)


産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域製造技術研究部門
総括研究主幹 手塚 明 さん セミナー レポート
「チームの創発力・実現力を引き出すデザインブレインマッピング
(新規事業創出に向けて)-まずは難しく考えずに試してみよう-」

(1)はじめに

◆ 頭ではわかっているけど、どうアクションしたらよいかわからないあなたへ

本セミナーの講師を務めた、産業技術総合研究所の手塚明さん

 デザイン思考に関して、「デザイン思考でイノベーションを」「経験価値が大切だ」等々、啓蒙書や雑誌、ネット等では「成功事例」をベースにいろいろなことが書かれています。知識は頭に入りますし、一瞬その気にはなりますが、では、自分の仕事を明日からどう変えたらよいか、どうやったら成功事例にたどり着けるかは、どこにも書いてありません。また、これまでの経験による思い込みや呪縛に知らないうちにとらわれているために、踏み出せないのかもしれません。そこで本セミナーでは、難しいことは抜きにして、まずは簡単なワークを体験してもらった後、背景にある考え方のポイントだけを示し、共同研究等の事例を紹介します。頭ではわかっているけど、どうやってよいかわからないあなたが、明日から何かしらのアクションがしてみたくなるよう、まずは腑に落ちてもらうことが本セミナーの目的です。


◆ 皆さんの会社で、こんな大変な状況はありませんか?

 はじめに皆さんへ質問です。皆さんの会社で、こんな大変な状況はありませんか?「顧客起点でモノを考えろ」とか「潜在的なニーズを探せ」と上司から言われても、どうすればよいか、やり方がわからない。SWOT(現状の強み弱み)分析を行っても、今後の方向性が議論できない。実施チームが企画チームに意見を言えない。ベテランが若手に知恵を授けようとしても、コミュニケーションがうまくいかない。本日はこれらの悩みの解決のヒントを持ち帰っていただければ幸いです。


◆ 異なる問題類型を同じ流儀で扱おうとしていませんか?

 これからツールをご紹介する前に、まず世の中の問題の類型を行います。こちらのスライドは、新技術の開発から新産業の創出までのプロセスを示したものです。このうち、インプットからアウトプットまでは、技術開発に代表されるように、市場や顧客の反応を気にせず、実施側の努力により計画的に遂行できる性質のもの(問題類型1)です。一方、アウトカムやイノベーションは、実施側の努力でなんとかなるものではなく、市場や顧客の反応で遂行の成否が左右される性質のもの(問題類型2)です。この異なるタイプの問題を同じ流儀で解こうとしていませんか?多くの工学系や研究者は問題類型1で、デザイナーや営業の方は問題類型2ですが、異なるタイプの問題を同じ流儀で扱おうとするから、大抵はうまくいかないのです。


◆ 工学屋が不得意なジャンル?

 世の中の問題は、目的と境界条件が既知と未知の組み合わせに基づき、こちらのスライドに示すように、3通りに類型化されます。クラス1は目的関数と境界条件が明示的であるもの、例えば、顧客の欲しいもの(目的関数)、世の中の市場動向(境界条件)が確定しているような場合です。クラス2は、目的関数が明示的であるが、境界条件が不確定なもの。クラス3は、目的関数も境界条件も不確定なもの。簡単に言えば、安くて質が良ければ売れるのがクラス1で、安くて質が良いけど経済状況が不確定なので売れないのがクラス2、顧客が何を欲しいかも今後経済状況がどうなるかもわからないのがクラス3です。今の時代はクラス3ですね。解が存在するかもわからない中から、観察と対話で解を見つけなければなりません。では、それをどのようにやるのかが、本日のお話です。なお、工学屋がクラス1を解くための論理的思考を「工学的思考」、デザイナーがクラス2・3を解くための対話的・探索的思考を「デザイン思考」と呼ぶことがあります。


◆ たかが対話・連携、されど対話・連携

 本日の話の守備範囲はチームで、組織論や社会論は対象外です。モノが見えていない構想設計段階での連携は難易度が高いですが、チームで連携を組むにはどうすればよいかを愚直にやります。
 大手コンサルティングファーム出身のカレン・フェランの著書『御社を潰したのは私です』の中でも「私が自分のやっている仕事をありのままに話せないのは、『貴社の関係者の連携を強化するお手伝いをします』なんて言っても、誰もコンサルティングの仕事を頼んでくれないからだ』とあるように、たかが連携、されど連携で、対話と連携が大事なのです。


◆ AIとデザイン思考の関係

 デザイン思考に入る前に、最近ちょっと気になるAIとの関係についても触れておきます。ディープラーニング等、近年の第三次ブームのAIは、過去の大量データを用いて学習する点が特徴です。そのため、問題のフレームは依然として供給する必要があり、例えば、自動運転で、交通ルールを守らずに横断した人をひいてしまった話がありましたが、これは規則を守らない人がいることをAIに教えていなかったためです。このフレーム問題は未解決であり、AIを活用したビジネスや新製品開発には限界があると思います。また、AIの弱点は「まるで意味がわかっていないこと」です。むしろ、問題のフレームワークを考えたり、種々の情報の意味を考え、チームとして納得感のあるものを自分たちの解としていったりする活動は今後ますます重要になっていくでしょう。


(2)デザイン思考とは?デザインブレインマッピングとは?

◆ 「デザイン思考」に関わる3つの質問

 続いて「デザイン思考」に関し、皆さんに3つの質問があります。「デザイン思考とは、モノのプロトタイピングを繰り返す方法」だと思っていませんか?「デザイン思考とは格好つけたデザイナーの領域だ」と思っていませんか?「デザイン思考、成功事例はわかるが、自分たちはどうすればよいかがわからない」と思っていませんか?デザイン思考とは、モノのプロトタイピングを繰り返す方法だと思っている方は多いですが、「モノ」ではなく「思考」のプロトタイピングで、デザイナーが行っているやり方を参考にした、非デザイナーのための方法論です。


◆ 「デザイン思考」とは?

 「デザイン思考」とは、米Appleのデザイン担当だったIDEO社のティム・ブラウンが、「人々が生活のなかで何を欲し、何を必要とするか。製造、包装、マーケティング、販売、アフターサービスの方法について、人々が何を好み、何を嫌うのか。これらについて、直接観察し、徹底的に理解し、それらのデザインによってイノベーションに活力を与えること」と2006年のダボス会議(世界経済フォーラム)で提唱し、広く広まった、非デザイナーのための方法論です。


◆ いわゆる「デザイン思考」への率直な疑問

 しかし一方で、我々の率直な疑問として、「観察して共感する対象」とは誰なのか?製品やサービスを見た瞬間に「欲しい」と思うものもあれば、未来の人々のニーズをどのように把握するのかは、既存の顧客観察では不十分ですよね。「デザイン思考」イコール「顧客を観察せよ、されば道は拓ける」と言われているようですが、しかしながら果たしてそんなことはできるのでしょうか?


◆ ふたつの「デザイン思考」

 実は、その解は外になく、自分たちの中にある。そんなスタンスを取るのが、今回ご紹介する「デザインブレインマッピング(DBM)」です。デザイン思考は大きく分けると、通常の「顧客のニーズの観察をベースとするもの」と、「開発チーム内の専門性の違いによる思考バイアスを活用するもの」の2種類があります。後者は、顧客の観察自体が不可能な場合でも、専門性の違いによってチームメンバーごとに思考のバイアスが異なることを利用することで、自分たちで決めたものに自信を持つという思考です。ビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、前者を「Design Thinking driven by needs」、後者を「Design Thinking driven by frameworks」と呼んでいます。


◆ 「思考バイアス」とは?

 一般的にバイアスというとネガティブに捉えられることが多いですが、ここでの意味合いは違います。思考バイアスの有名な事例が、「invisible gorilla」です。この画像は、CTスキャン画像に合成的にゴリラのイメージを入れたフィルムです。これをX線医師に見せたところ、ほとんどの医師がゴジラに気づかなかった、という話です。起こり得ないと思ったパターンは認知機能として外すことで脳を効率よく使うわけですが、違う言い方をすると、思考バイアス、つまり、先入観や既成概念はこれを見逃してしまうのです。


◆ バイアスの構造化と破壊による強制発想

 この図は、invisible gorillaに関する思考バイアスの構造化と強制発想を示したものです。横軸を「出現希少度」、縦軸を「見落とし度」で取ると、invisible gorillaは右上あたりで、先入観があると、これを見逃してしまう。この思考バイアスは専門性によってかなり異なりますが、皆さんは同じだと思っています。それが個々人で異なっていることをワークで体験してもらいますが、その違いこそ実はチャンスですよ、というのが、本日のメッセージです。


◆ 思考バイアスを活用した新桃太郎

 こちらはビジネスデザイナーの濱口秀司氏の図ですが、童話『桃太郎』は「チーム」で行動し、弱きを助け、悪を退治する「勧善懲悪」の物語ですが、この思考バイアスを構造化して破壊してみます。「チーム」に対して「ひとり」、「勧善懲悪」に対して善人か悪人かわからない「グレー」を定義し、「桃太郎」とは真逆のキャラクターを強制発想すると、ひとりで行動し正義か悪か不明な「新・桃太郎」が発想できます。思考バイアスの構造を可視化し、その構造に基づいて強制発想するのがポイントです。


◆ 私たちの解決イメージ

 「考える専門家」と「つくる専門家」と「使う専門家」の間には、ギャップがあります。各人の思考過程が異なることを利用することで、共創を促す構想設計の環境を提供しましょう、というのが私たちの解決イメージです。


◆ 個々人の主観が出発点

 また、やっかいな思い込みとして、「人と意見が違っているとまずい」「主観や感覚、経験値は言う価値がない」「知識が足りないかもと思うと、意見が言いにくい」と言う人が多いですが、それがDBMのチャンスです。「知というものは客観的であり、主観や身体感覚とは無関係あるいは真逆」という印象を持たれている方も多いと思いますが、経営学者の野中郁次郎氏らも提唱しているように、まず個々人の主観が出発点で、主観と主観がぶつかり合うことで、客観が生まれるという考え方があります。「そうは言っても、意見を言うと喧嘩になったり、議論がまとまらなかったりするのでは」と心配な方、そうならないスマートな方法を教えましょう。


(3)ワークを体験してみましょう

◆ 平日の時間の使い方:現状と理想

 DBMの特徴を説明する前に、まずは簡単なワークを体験してみましょう。お手元の資料に、「睡眠」「風呂」「仕事」「家族」「趣味」の5つについて、現状の平日のスケジュールを円グラフで書いてください。同じく、理想について円グラフで書いてください。次に、なぜ理想の時間の使い方ができないのか、阻害要因を5つ書いてください。書いたものは途中で消さないでください。


【写真】平日の時間の使い方の現状と理想、理想への阻害要因5つを記入する参加者


◆ 隣の人に見せて、説明してください。

 次に、隣の人に見せて、現状と理想の時間配分と、理想への阻害要因を説明し合ってください。お互いに説明し終わったら、二人で共通の阻害要因を3つ決めてください。その3つの阻害要因を付箋に書いて、それぞれご用意ください。


【写真】現状と理想の時間配分と、理想への阻害要因を説明し合う参加者たち


◆ 重要度-実現容易度

 3つの阻害要因の付箋紙を、「重要度」-「実現容易度」の軸に配置してみてください。隣を見ずに貼ってください。配置が終わったら、隣の人と見せ合って、なぜその位置に置いたか等の背景や理由を交換してみてください。


【写真】共通する3つの阻害要因を、「重要度」-「実現容易度」の軸に配置した理由をそれぞれ説明し合う参加者たち


(4)ワークの背景にある考え方

◆ デザインブレインマッピングの提案

 実は、皆さんに体験していただいたワークには、DBMのキーポイントが含まれています。

● 言葉は案外伝わらない。例えば、同じ「顧客」という言葉を使っても、人によって異なる「顧客」を考えていることも多いので、それを位置関係問題やポジション問題にする方法を体験してもらいました。
● 目で読む方が、耳で聞くより早い。理由や背景無しで、人は納得しない。一方で、「なぜ?」と聞くと、詰問になってしまい、謝る人がいますから、「なぜ?」は聞きにくい。経験上、位置問題は聞きやすいです。
●事前宿題を出すことができるので、事前に参加者の問題意識やレベルを把握でき、各人の思考構造を踏まえたワークメニューが可能です。
●今回のワークでは触れませんでしたが、言語記述には限界があるため、ビジュアルランゲージを活用することで、より伝わります。


◆ 意外と未来を考えていない?共有していない?

 「SWOT(現状の強み弱み)分析をしても、今後の方向性の議論がうまくいかない」という組織現場の悩みがありました。この問題も大体は「理想のグラフ」を書いていないためです。円グラフの現状だけを分析しても意味がなく、理想論のメニューを組めばよいだけです。SWOTも理想を個々人で書いてみて、それをお互いに学びつつ進めると、「リーダーはこんなことを考えていたのだな」ということが他のメンバーにも伝わります。


◆ 「書いたものを消さないでください」と言った意味→外在化

 ワーク中、「書いたものを消さないでください」と言いました。工学系の人は最適解と思った対象だけを書く傾向があり、一般の人は書いた意見を途中で消してしまうことが多いのですが、全体の中から選ぶと、まわりの人が「そんなことを考えていたのか」と気付くので、無駄だと思わず、書いたものは消さないでください。
 一般的にデザイナーは自分の思うイメージを描いてどんどん並べて、その中でどれがよいか、並べたものと自分との考えとの対話を行います。これを「思考の外在化」と呼びます。思考の外在化では、「これはないかも」と思っても、可能性のあるものを考えられるだけ描いて、とにかく並べてみるというのがポイントです。例えば、デザイナーは「このTシャツの色、ショッキングピンクは絶対に売れないだろう」と思っても、一通り色を並べておいて、「やはりブルーがよい」と確認するために使うそうです。


◆ 話す・聞くコミュニケーションの限界

 「話す・聞く」ベースのコミュニケーションの問題のひとつに、相手の思考構造がとらえにくいという欠点があります。例えば「顧客起点」とキーワードで話す人もいますが、意図や背景は伝わりにくいですし、伝えにくい。そもそも「顧客」がマーケットによって異なりますし、「価値」も異なります。「話す・聞く」コミュニケーションには限界があります。


◆ Whyは聞きにくい!(詰問となる)

 サイモン・シネック氏の「WHYから始めよ!-インスパイア型リーダーはここが違う!」からの引用です。人を動かす偉大な人のコミュニケーション方法には共通点があり、他の人とは正反対だ。人を納得させ行動を促すには、What(何を)-How(どうやって)-Why(どうして)の順番ではなく、Why-How-Whatの順序で思考し説明せよ、それは大脳生理学的にも理にかなっている、というのがその要約です。何の目的で行動しているのか、納得感がなければ人は動きません。しかし、メンバーにWhyを聞けば、詰問と受け取られ、謝られてしまう。Whyを聞くプロセスは、この啓蒙書には書かれていません。そこで先程のワークでは、「話す・聞く」コミュニケーションでは聞きにくい・話しにくい問題も、ノード間の距離問題や座標に対するポジション問題として可視化することで、なぜそこに置いたのか、その背景や理由、想い等を、詰問にならず対話することができることをワークで体験してもらいました。


◆ 実は思考のプロトタイピングを経験してもらいました

 デザイナーは、開発の初期段階で、ダンボールやスケッチのようなもので、作っては壊しを繰り返す「"思考"のプロトタイピング」を行っています。一方、工学屋のそれは「"モノ"のプロトタイピング」で、量産前の試作品といった位置づけです。同じ「プロトタイピング」という言葉を使っていますが、工学屋とデザイナーでは意識が異なるのです。デザイン思考は「思考のプロトタイピング」を目指しており、それをワークで体験してもらいました。


◆ デザインブレインマッピングの特徴

 それでは、DBMの特徴とは何か。一般的なブレストは、付箋紙を貼っている時、人間に興味はなく、アイディアばかりを見ています。要するに思考の結果の「What」の外在化ですね。しかし、それは氷山の一角で、相手の頭の中の構造、Why-How-Whatを外在化する意識が重要です。それがなければ、アイデアコンテストならともかく、共創や合意形成まで持っていくことは難しいでしょう。DBMは、人間を中心とし、各人の思考構造を可視化して交換しようという仕組みになっているのが特徴です。


◆ 価値は意味から生じる、意味は関係性から生じる

 モノそのものに価値があるのではなく、価値は意味から生じる、意味は関係性から生じる。その考え方から、私たちは「関係性デザイン」を重要なキーワードのひとつとしています。そもそも価値は人によって感じ方が違いますし、価値をブレイクダウンすると、意味のあるものが、価値があると言えそうです。その意味とは、モノ自体に宿るものではなく、使う人とモノの関係で生じるものでしょう。価値は個々人で異なるためにわかりませんが、関係性であれば可視化できるので、関係性まで持ってくることをやっています。つまり、モノではなく関係性に命があると見続けることによって、違った解き方ができるのです。


◆ DBMとUX(ユーザー経験)デザイン- 中は外との関係で決まる

 我々の考える「関係性デザイン」について、周囲(ユーザー体験や使用シーン)との関係性で真ん中(仕様)が決まることを表した図です。例えば、掃除機の開発であれば、工学屋はモノに付随する性能やスペック(図の真ん中)を中心に考えがちですが、「どんな使い方をするか」「どこで使うか」といった人やシーン(図の外側)からモノ(図の真ん中)を眺めると、いろいろなことが見えてきます。


(5)手法と道具「デザインブレインマッピング」って何?

◆ デザインブレインマッピング(手法と道具)の意味

 DBMは、ユーザー経験デザインに基づいて開発した手法と道具です。協働のために各人の頭の中(ブレイン)をマッピング(重ね合わせ)、思考バイアス等の気付きや価値軸、主体性をもデザインします。対象とするのは、リーダーと多様なメンバーからなるチームで、問題自体や範囲が未確定というシーンに有効です。そもそも問題解決は、問題設定さえできれば解けたも同然ですが、その問題設定が難しいと、皆さん悩んでいます。問題意識自体がわからない時や、コミュニケーションしにくい場面に、DBMをぜひ活用してください。


◆ DBMを用いた問題解決のプロセス

 次に、DBMを用いた問題解決のプロセスのイメージを示します。最終的に欲しいものは問題の定式化(モノ)でも、問題の定式化や問題を解くためには未知数が多いので、目標の意味や現状の課題認識、問題意識に対するメンバーの認識をお互いに確認し合うことから始める必要があります。問題意識はお互いの暗黙知なので、それをDBMの思考の外在化、関係性マッピング、思考軸の変換等で、お互いの思考構造を把握し合いながら形式知化し、「このような方向で問題解決を行おう」という合意形成まで持っていきます。


◆ メソッド中心主義からメンバー中心主義へ

 リーダーの仕事とは、メンバーにメソッドのテンプレートを埋めさせることだと勘違いしている人もいます。しかし、メソッドのテンプレートに気を取られ、チーム内の意見把握や対話が十分でないのでは本末転倒です。リーダーの役割は、メンバー個々の思考を活性化し、チーム内の対話やモチベーション、納得感を高めるために、我々は「フレーム」と呼びますが、ある関係性に思考を集中させるための「フレーム」をデザインすることです。つまり、リーダーシップも人的リソースの経営デザイン、従業員の経験デザインをすることなのです。


◆ チーム議論でのDBM使用方法の概略

 DBMでは、リーダーはワークフレームをファイルで供給し、メンバーからの関係性記述をファイルとして回収することができます。DBMは複数起動でき、他のパソコンで作業した個人ワークを取りまとめるためにファイル間でコピー&ペーストが可能で、入力者情報は保持されます。議論プロセスの履歴を記録し、参加できるため、欠席者や遅刻者も経過を把握して参加可能です。なお、ユースケースをきちんと見て、使わない機能は入れないようにしているので、シンプルなソフトです。カスタマイズも可能です。


◆ 他の手法との違い

 DBMは既存の手法とどのような点が違うのでしょうか。例えば、思考発散法のひとつとして有名な「マインドマップ」は、基本的にツリー構造を発展させながら、思考を発散するものです。発展形の議論をするには楽しいですが、収束はしないため、チームで最後にひとつにまとめる時には使いにくい手法です。

 また、「構造化フォーマットベースの管理手法」は、指定された構造化フォーマットや表に書き入れていく方式です。表をどのように埋めるかのプロセスがないので難しいですし、表だけ残しても、どんな議論のプロセスかがわかりづらいです。

 ブレインストーミングに代表される「ランダム性依存ベースの発想手法」は、思いつくままランダムに発生させたアイディアをグルーピング等で構造化・概念化していく手法です。つまり、抽象化することで、実行とは逆方向に行くため、抽象化から戻すプロセスが必要になります。個々人の思考の構造や問題意識を共有できるかは、ファシリテーターのスキルに依存してしまいます。

 「思考バイアスベースの創発手法」がDBMです。ツリー構造や特定のフォーマット、表形式等は規定せず、メンバーを反応させるフレームを繰り出すことで、メンバーがきちんと自分で考えて自分の色を出し、それをメンバー間で交換させる環境を提供します。メンバー個々人がきちんと考える方が、クリエイティビティは上がるのです。

 また、通常の会議や付箋紙を用いたアイディア出しとの比較で、DBMの特徴やメリットを下図にまとめました。


◆ デザインブレインマッピングの要約

 つまり、DBMとは、メンバーが自ら問いを発見し、メンバー同士で創発し、リーダーが合意形成まで持っていくプロセスをストレスなく効率化することを目的とする手法です。本人たちが「やった」と実感できる、強くも弱くもない道具です。「主体性をデザインする」「自分事にする」という啓蒙書は多いですが、自然とそうなる環境をつくります。DBMを使うことで、そんな非日常を日常にします。繰り返しになりますが、DBMは「発想」ではなく、「思考バイアスの破壊協業」「外在化による距離感把握」「アイディア出し・創発から選択決定の合意形成まで」、最後に実行可能なひとつに決めることを意識しています。


(6)DBMワークショップの全体像

◆ DBMワークショップとは?

 企業などで課題を抱える当事者チームが、問題解決の方法を自ら考え、彼らが腹落ちする問いと答えに到達できるように、DBMワークショップを用いた問題解決デザインに関わる支援を産総研で行っています。腹落ちする問いと答えに到達できるよう、事前宿題を出しながら、合計3回程度のワークショップを、1~2週間おきに実施します。ファシリテーターである私は答えを押し付けません。本人たちが見つけた答えが解ですから、それを見つけるお手伝いをするのが私の役割です。


◆ 問題意識のセンシング

 ワークショップの設計をする前に、メンバーの現状認識・問題把握・理想状況等を把握することが必要です。ここで紹介するのは、効率よく問題認識を「センシング」するフレームの一例です。このフレームは、新商品・サービスを開発する際の投入リソースと波及効果に関して6項目をあらかじめ設定し、メンバーそれぞれの現状と理想を、30個のおはじきの配分で可視化するものです。その阻害要因と環境要因、さらには波及効果も聞いていきます。「どのように割り当てますか?」。「環境要因は?」「波及効果は?」も聞いていくのです。このフレーム1を使うことで、わりとすんなり現状の問題点や阻害要因を拾えるケースが多いです。意外とメンバーの本音が出てきますよ。


◆ 思考軸の変換促し

 フレーム1の「阻害要因・環境要因の把握」では、阻害要因を書けない場合が多く見られ、例えば「時間がない」等、単なる言い訳が書かれる場合が多いです。このような場合、言い訳でもよいのでまずは書いてもらい、問題点をプロセスと結果に整理させた上で、原因への思考を促す、という軸設定が考えられます。因果関係推論が十分でないケースの場合、「それでは、時間があればできますか?」と聞いて「できません」と気づかせる反事実チェックを用いて思考を深化させていきましょう。


◆ 軸の設定のノウハウ

 軸の設定については、安易な二項対立を煽ったり、一方の軸の優位性を暗黙のうちに仮定するのではなく、対立する軸がともに成立するか否かを検討したり、相手の主張を認識・許容する範囲、チームや組織としての多様性を広げるといった、マインドセットが重要です。どちらも重要な軸を取るのが、実は適切です。


◆ 思考の促し

 顧客や外部機関と関わるイメージが少ないケースでは、フレームを用いて顧客や外部機関との関係性を考えさせるワークと行うことも可能です。


◆ ベテランから若手への知見伝承問題

 ベテランが教えたい内容と、若者が教わりたい内容が異なるというのは、当たり前です。このフレームでは、もう一歩踏み込んで、若手が「ベテランが教えたいと思っている内容」を想定して書き、ベテランが「若手が教わりたいと思っている内容」を想定して書くと、実はお互いの想定内容が違っていることがわかります。お互いに相手を思い合っているのに、誤解が生じていることが原因で、知見伝承がうまくいっていないわけです。このワークを実施すると、それまで遠慮していた若手がベテランに堂々と聞けるようになります。ワークを通してフラットな関係で対話してもらうという方法です。


◆ 距離感の把握

 問題が明らかになっても、人によってはいつまで経っても実行に移さないケースがあります。理由を聞いてみると、リーダーは「実現は容易なため早く進めて」とメンバーに指令したのに、メンバーは「重要度が低い割に実現は困難で二の足を踏んでいた」ということがよくあります。これは、リーダーとメンバーの重要度と実現容易度の認識の違いに気づいていないことが原因です。これは実際のデータですが、各人の置き場所が違うのが対話のチャンスで、意図を聞くことで、暗黙の仮定や背景、理由を共有することが簡単にできます。


◆ 中心変換で意識を変える

 UX(ユーザー体験)デザインを実際に行う時に有効なフレーム事例を紹介します。DBMでは、中心ノードを簡単に変えられます。顧客を中心に置けば顧客起点での思考が容易になり、ライバル企業を中心に持ってくればライバル企業の目線での対策が容易になるでしょう。「フレーム16:起点変換によるUXデザイン」では、例えば、掃除機の設計仕様を決める際に、掃除機を中心にユースケースを考え、次にゴミ箱を中心に持ってきて、その視点から掃除機を見てノードを書き換えた事例です。ユースケースを真ん中に置いたり、掃除後の片付け仕事を中心に置いたり、ある生活パターンの人を真ん中に置くことによって、自然とUXデザインの思考に導かれる効果が期待できます。


◆ DBMワークショップメニューのイメージ例

 今まで紹介してきたフレームを組み合わせることでワークショップデザインはできますが、はじめに全体のデザインを決めてしまうのはおすすめしません。最初と最後は大抵同じですが、その間のメニューは、リーダーがきちんとチームの反応を見ながら、状況に応じて適宜、組んでください。大体は最初に「問題意識のセンシング」を行ってから因果関係推論を行い、最後に、現状から目的地までの道筋と達成後の波及効果を議論させるフレーム「ジャーニーマップ」まで行くと、提案書を作成できるところまで到達できます。一方ですべてのフレームをやらないと効果が無いと言うことはなく、どれから始めても効果がありますので、役立ちそうなフレームをまず使ってみてください


◆ 構想設計の道具:もっとスゴイ道具もできています!

 さらに産総研では、DBMをベースに、チーム以外の組織内外のステークホルダーの知恵を獲得するための「構想設計の手法と道具」の開発も行っています。例えば、掃除機を開発する際、実際に掃除をする方からの意見を、DBMを使わずに収集したいと思い、シャワーのように降ってくるイメージを選択する仕組みもつくりました。


◆ 構想設計コンソーシアム:鋭意募集中です

 日本の製造力の競争力強化には、顧客価値の高い製品・システムの開発のための設計能力の飛躍的な向上が必要であり、設計仕様を決めるまでの設計上流である構想設計が重要です。その想いを共にする産学官の有志の集まりで、「構想設計コンソーシアム」も設立しています。


◆ まとめ

 つまり、デザイン思考とは、イコール対話的手法であると覚えてもらえれば、難しいことではありません。対話的に、試行錯誤を怖がらず行うこと、ここでいう試行錯誤とは、モノのプロトタイピングではなく、思考を試し、共有する、ということです。対話的手法で不完全問題を処理する方法であり、最適解は狙わず、フィジブルな妥当解を狙いつつ、バージョンアップしていく方法だと考えてください。デザイン思考は、最適解を狙うこととは対極な方法だと思います。


(7)質疑応答

Q.1 DBMのソフトウェアは、どのようにすれば入手できますか?

A.1 本日テキストとして使用している書籍『デザインブレインマッピング(丸善出版)』の153ページに、DBMのダウンロード方法を記載しています。フリーで使用できます。最初に操作説明ムービーをご覧いただければ、すぐに使える状態にしています。

Q.2 先程体験した、3つの阻害要因を「重要度」-「実現容易度」の軸にそれぞれの人でマッピングするワークについて、実現しやすいものから並べる、ということですか?

A.2 大体「重要なことは、すなわち、実現が難しい」と思い込んでいる傾向があるため、まずはそれを分けてあげるとよいということです。要は、順列を決めることより、個々人の認識の違いを可視化し、その違いをもとに声(Why)を聞いて、コミュニケーションするのが狙いです。

Q.3 結果や売上を求められ、このような取り組みは「時間がかかるからやらない」となる場合が多いですが、それを「やろう」と思われた経営者の事例を教えてください。

A.3 従来の付箋紙を用いるブレスト等に比べて、実は、DBMは効率がよいのです。合計3回程度のワークショップで、最後の21番目のフレームまで行うことが多く、皆さん驚きます。約15のフレームを解くだけで、最終的に150ページ程度のレポートができます。同じようなことをやる他の手法では約半年間かかるとも聞きますので、かなり効率がよいのです。DBMでは事前宿題が行える点も重要で、会議が始まった瞬間から頭ができています。事務局側もまとめるのが楽です。

Q.4 フレーム1の「阻害要因・環境要因の把握」で、「まずは言い訳でもよいから書く」という話がありました。「時間がない」は社内でも頻出する言い訳ですが、「なぜ時間がないの?」と聞いても、「早く帰らないといけないから」「仕事が忙しいから」といった現象しか答えてもらえません。皆で「なぜ時間がないの?」と話し合えばよい、ということですか?

A.4 私の場合、「それは言い訳だよね。時間がないなら、どうつくる?」と言いながら、「時間がないプロセスって何?」と、結果ばかり言う人にはプロセスを、プロセスばかり言う人には結果を、何度かチェックして、落とし込んでいきます。仰る通り、因果関係推論は難しいのですよ。けれども繰り返すうちに、すごい意見が出てきます。相手は生き物ですから「これをやれば絶対にできる」という保証はできませんが、出てくる確率は高くなるでしょう。因果関係推論ができなかったところは、宿題を出して次回確認することも行います。ここはやはり、ひとつの山場ですね。

Q.5 ワークで「書いた意見を途中で消さないでください」と言ったのは、今の話に通じるところがありますか?「これは話しては駄目だよな」と、これまで消していた情報が表に出ることで気づきを得られる、というイメージですか?

A.5 「書いた意見は消さないで」と言うのは、「恥ずかしい」「適切でない」と思わずに、横に放っておけばよい、途中で横から拾って「これがあるじゃないか」となったりもしますので、ということです。そして、若手とベテラン、バブルの前後で見えている風景は異なりますので、若手の萎縮をうまく取ること。これらが運営上の肝です。

Q.6 ワークショップは、ファシリテーターの良し悪しで決まると聞きます。ファシリテーターから誘導されて、何となく結果は出たけども、実現に結びつかないという話もよく聞きます。DBMは、それを自分たちで考えるところが、既存のワークショップとの違いですね。

A.6 例えば、書籍129ページの「フレーム11:分布バイアスの認識」(分布の偏りを認識させることで気づきを起こさせ、解決に導くためのフレーム)のワークを行うと、部署によって分布が全く違うという結果が得られます。我々は「絶対に偏るだろう」と企み、「ワーク時にこんな反応が出るだろう」と予想をしていますが、それを言ってはいけませんし、結果が「だめ」とも一言も言いません。すると自然に「自分たちは同じ会社なのに、なぜ阻害要因が部署によって偏っているのだろう?営業と製造の阻害要因に関係があるのでは?」などと自分たちで気づくようになります。つまり、ファシリテーターの役割とは、メンバーに気づいてもらうよう、「フレームをデザインする」ことです。そのために事前にフレームワークデザインを行い、絶えずメンバーの顔を思い浮かべながら、メンバーたちがどんな結果を出し、その結果に対してどう感じてくれるのだろうと、常に頭を動かすことを行います。

Q.7 我々も社内で課題があった時、付箋紙に意見を書いて貼るブレストを行っていますが、どのようにして共通のものとしてまとめ、今後に活かしていくかは、うまくできないと思っていました。DBMをそのような状況に活用できるということでしょうか?

A.7 ブレストは付箋紙を貼った後に軸を置きますが、DBMの場合は最初に軸を置く、という違いがあります。ランダムなブレストとは異なり、予めDBMでは「この軸で考えてください」と言ってあるので、大体そこに収まります。その軸をどんどん変えながら、進めていきます。要するに、強制的に問題意識を持たせるわけです。ランダムでなく思考バイアスで攻める方がダイバーシティは取れると個人的には思います。ただ、付箋紙を使う方法も否定しているわけではなく、瞬時に意見を出すのには向いています。ブレストはランダム性の世界ですので、使い分けてください。

Q.8 DBMの最初の軸の決め方は、「問題意識のセンシング」にあたるのですか?

A.8 軸にはいろいろなメニューがあります。「軸の設定は難しい」と思う人もいると思いますので、パターンをたくさん書籍に記載しておきました。一回で軸を決めるのではなく、いろいろ試しながら、メンバーに反応させるために軸を決めていってください。

Q.9 DBMを利用して商品開発に取り組んだ事例はありますか?

A.9 DBMは、新製品の開発でも使われますが、社内のコミュニケーションを円滑にするためや、匠の技の伝承、方針決め等にも使われています。

Q.10 DBMは、どこまで無料で、どこからが有料ですか?

A.10 カスタマイズしないところまでは無料で、カスタマイズする場合は技術コンサルのため有償、知財なら共同研究となります。


(8)参加者インタビュー

「異業種参入にむけてDBMに期待」
株式会社佐原 田中 義之 さん

 新規事業創出にむけたきっかけになればと思い、参加しました。これまでブレストは社内で行っていましたが、アイディアのまとめ方がうまくできませんでした。DBMは、予め軸を決めてからアイディアをまとめていく方法のため、効率的に今後の展開につなげていけそうだと感じました。この後のワークショップでDBMの使い方を学び、最終的には当社の課題である異業種への新規参入にDBMを活用できればと考えています。


「デザインがコミュニケーションツールになることに驚き」
フィンガルリンク株式会社 伊藤 克也 さん

 私はデザイナーで、実は今回、モノのデザインに関するセミナーだと思って参加しました(笑)。実際に聞いてみると、コミュニケーションのデザインがテーマで、コミュニケーションツールとして、デザインでいろいろなことができることに驚きました。今後、社内でコミュニケーションを取りながらモノをつくる時、DBMを活用できるのではと期待しています。


「会社全体のチームワーク向上に活用したい」
株式会社アイカムス・ラボ 須藤 詩乃 さん

 会社全体のチームワークの大切さは日頃から感じているので、よりよい環境づくりのきっかけになればと思い、参加しました。座学では難しく感じることも少なくありませんでしたが、ワークショップにも参加することによって、使い方や考え方の違いによる新たな発見などを体感することができました。引き続きワークショップで理解を深めながら、今後、実際に社内でどのように展開し活用できるかを検討したいと思います。


「異なる角度からの問題解決に期待」
株式会社東光舎 佐藤 昭 さん

 色々な問題解決方法を調べたいという動機と、上司やベテランに気を遣って意見をなかなか言えない若手などの意見をうまく引き出してやりたいとの思いで、参加しました。DBMはメンバーから集めた体験やアイディアの切り取り方が既存のツールと異なるため、通常とは異なる角度から解決方法を見つけることができるのではないかと期待しています。


「社内活性化にDBMを活用したい」
東北資材工業株式会社 高谷 泰光 さん

 DBMのテキストの副題「自ら問いを発見、創発、合意形成。」に心を掴まれ参加しました。手塚先生のフレーズひとつひとつが腑に落ち、共感できることも多く、非常にわくわくしたセミナーでした。時代が変わり、最適解が見つけられなくなる中、巷にあふれるハウツー本を読んでもどこか腑に落ちず、自分の理解力不足を嘆いていました。手塚先生の「解は外ではなく中にある」「そもそも解は存在しないかもしれない」とのお話に、目の覚めるような想いでした。会社の業績が低迷すると、社員の顔も暗くなります。そんな状況に対し上司が最適な指示を出せればいいのですが、共感できるきっかけを与えることで社員自らが合意形成を進め、皆が同じ方向を向ける枠組みを造るためのツールとして、DBMを活用できるのではないかと期待しています。


「アイディア出しに活用したい」
株式会社イーアールアイ 荒屋敷 智也 さん

 会社として現在、要素技術のアイディア出しに取り組んでいます。DBMを利用することで、新しいアイディア出しができるのではと期待し、参加しました。当社は「話す・聞く」コミュニケーションによってアイディア出しを行っていましたが、今回のセミナーで、「書く・読む」コミュニケーションによる新しいツールを教えていただきました。この後のワークショップでも実際にDBMを体験し理解を深めながら、アイディア出しに活用したいと考えています。


「デザイン思考を活用し、県内企業の商品開発を支援したい」
岩手県工業技術センター デザイン部 部長 菊池 仁 さん

 岩手県工業技術センターでは、今年4月に『IIRI DESIGN LAB』を開設し、県内ものづくり企業にデザイン思考を活用した商品開発にも取り組んでもらうような活動に取り組んでいます。以前から手塚さんのDBMをぜひ岩手で教えていただきたいと思っていたところ、産総研からTAIプロジェクトの一環として実現可能と伺い、このたび共同開催させていただいた次第です。
 今回のセミナーで、手塚さんから直接説明を聞くことができました。参加した企業にも関心を持っていただき、工業技術センター職員も理解が深まりました。『IIRI DESIGN LAB』が県内企業の事業展開に役立つ拠点となるよう、我々も様々な相談に対応できる力を身につけていきたいと考えています。
 少人数の中小企業経営者等を対象に、新しい事業へのチャレンジを支援する、TAIプロジェクトはよい仕組みだと思います。セミナーで情報を得るだけでなく、次のステップへ進む段階でも様々なフォロー体制があることも、企業にとって有り難いことだと思います。ぜひ継続して取り組みを進めていただきたいと思います。

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