iCAN'13世界大会、郡山北工高のロボットが世界2位/来年は仙台で開催
2013年9月20日公開
【写真1】「第4回国際ナノ・マイクロアプリケーションコンテスト」世界大会のようす=スペイン・バルセロナ(6月)
未来を担うものづくり人材を育てようと、学生向け国際コンテスト「第4回国際ナノ・マイクロアプリケーションコンテスト」(iCAN'13)世界大会が6月16日から19日までの4日間、スペインのバルセロナで行われた。日本からは、4月の国内予選を、山形大学や京都大学など並み居る強豪を抑えて勝ち抜いた、福島県立郡山北工業高校と宮城県工業高校が出場した。
同コンテストは、微小電気機械システム(MEMS)を用いて高付加価値なものづくりを提案するもので、世界11ヶ国から5000人以上の学生が応募。このうち、各国内予選を通過した中国・シンガポール・日本・スイス・香港・米国・ドイツ・ニュージーランド・台湾から、若い頭脳18チームがバルセロナに集結し、その技術やアイディアを競い合った。
【写真2】専門審査員へのプレゼンテーションのようす
日本代表の2チームは、出場チームで唯一の高校生ながら、自ら試作した作品を英語で堂々とアピール。展示での一般来場者の投票と、プレゼンテーションでの専門審査員による審査の結果、郡山北工業高校が世界2位、宮城県工業高校が敢闘賞を、それぞれ受賞した。バルセロナ大学で開催された表彰式では、主催者から賞状が手渡され、入賞者には賞金が授与された。
【写真3】福島県立郡山北工業高校が提案した「Sma ROBO REAL Smart ROBOT-」
◆人の動きで操縦できる災害用ロボ/郡山北工高
このうち、郡山北工業高校は、人の動きを検知する超小型センサを用いて、人の動きで操縦できるスーツ型のコントローラとロボットを提案。操縦者が足踏みすると前進したり、手と足の組み合わせであらゆる方向に移動できる。ロボット搭載カメラから無線で送られる映像を見ながら操縦者が遠隔操作でき、赤外線による障害物衝突防止機能もある。将来的には、災害現場や宇宙探査での応用が期待される。
【写真4】宮城県工業高校が提案した「Date Copter ver. 2.05」
◆声や手の動きでラジコンを操縦/宮城県工
宮城県工業高校は、超小型マイク(シリコンマイク)や超音波センサを用いて、「上がれ」「下がれ」の音声や、手を上げ下げする動きだけで、ラジコンヘリを直感的に操縦できる新しいタイプのコントローラを提案。二台のヘリを、別の動きをさせながら、同時に操縦もできる。予選後は、世界大会のために、日本語だけでなく英語でも操縦できるよう改良した。
【写真5】バルセロナ大学にて開催された表彰式のようす
◆来年は初の日本開催/「防災」テーマに東北大で
同コンテストは、MEMSの研究や普及を行う世界11の大学や機関でつくる実行委員会の主催。来年度の世界大会は、初めて日本で開催される。開催日時は14年7月19日から22日までの4日間で、会場は東北大学(仙台市)を予定。テーマは、「防災」。このうち、20日の展示は、『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2014』と同時開催予定で、地域住民からの投票も歓迎している。
出場チーム・インタビュー
◆誰でも簡単に操縦できる災害用ロボットをつくりたい
/郡山北工高(高畑悠さん、鈴木祐太さん、橋元佑真さん、関根悠太さん)
―どんなアプリケーションをつくりましたか?
今回、僕たちが提案したのは、人間の体の動きを使ってロボットを操縦する、スーツ型コントローラです。「加速度センサ」という、角度などを検知するセンサをスーツに取り付けました。人間が腕を上げたら、その方向にロボットが移動したり、人間が足踏みしたら、ロボットが前進する、といった感じで操縦できます。
―なぜ、このアプリケーションをつくろうと思ったのですか?
東日本大震災で、福島は原発問題を抱えました。原発の復旧作業のために、いろいろな災害ロボットが現場に入りましたが、それらは日本製ではなく米国などの外国製でした。日本は高いロボット技術を持っていますが、災害現場などで迅速に対応でき、実際に活躍できるロボットの開発は遅れていることに、課題と問題を感じました。そこで、誰でも簡単に操縦でき、災害現場でも使えるものをつくりたい。そう考えたのがきっかけです。
―世界大会に挑戦した感想は、いかがでしたか?
展示では、いろいろな来場者(併催の国際会議に参加した研究者ら)に自分たちが開発したアプリケーションを紹介しました。最初は英語が全く聞き取れず、話しかけてよいものか戸惑い、相手から質問が来るのを待っていました。
けれども他国の出場者たちは、自分から「どうだい、これ?」と話しかけていました。そこで、相手が気になって立ち止まったら、自分たちから紹介するよう心がけました。すると次第に慣れて、冗談や表情もつくれるようになり、後半はうまく伝えられるようになったと変化を感じています。
専門審査員への発表では、質疑応答のつまづきはありましたが、これまで自分たちが練習してきたことは全て出し切れたと思います。国内予選とは、中身も構成も、大きく変えました。なぜならば、日本と海外では、プレゼンテーション方法が全く異なるからです。
海外では、大きな概要で、シンプルに説明することが大切です。寸劇も入れるなど工夫して、審査員からは拍手もいただき、努力が実を結んだと感じています。
今回のデータを来年に引き継ぎつつ、後輩にはアイディアもプレゼンテーションも自分たちの手で塗り替えてもらいたいですね。今年以上の成果を期待したいです。
とはいえ、英語の聞き取りは難しいですね。いざ、自分で開発したものを発表しようとすると、英語の大事さを痛感します。ぜひ中学生にも「This is a pen を、ばかにするなよ」と言いたいです。
―では、読者の後輩たちへ、メッセージをお願いします。
このような世界大会に出場できる機会が多いのは、工業高校ならではだと思います。工業高校など専門の学校に行きたい人は、進路を「入学してから決めよう」ではなく、中学生のうちから「将来こんなことをやりたい」と考えて、目的をつくることが大切です。
実は、僕も「入学したら、全部教えてもらえるものだ」と思っていました。ところが、まわりを見たら、まだ学校で習っていないことも皆、できています。基礎の予習が本当に大事です。高校入って「何とかなる」とは、なりません。
逆に言えば、入学前から「自分の好きなこと」として取組んでいるような好奇心旺盛な人が、工業高校には合っていると思います。すると、高校生活も良いスタートを切れると思いますよ。
◆日本人・福島県人として、工業の世界で活躍できる社会人に
/深澤剛さん(福島県立郡山北工業高等学校 情報技術科 教諭)
正直あまり触れたくはありませんが、今回出場した生徒たちは、東日本大震災の年に入学した生徒たちです。日本の福島から世界に挑戦している工業高校生がいることを、ぜひ見ていただきたい。そんな強い思いがあり、昨年度からiCANに取り組んでいます。
生徒たちも「俺達がやるんだ」という意識で、非常に一生懸命取り組んでくれています。ターゲットを絞り、きちんと目標設定して、国内予選通過後も、改良を毎日のように重ねてきました。プレゼンテーションも全てを出し切ってくれました。いや、それ以上のことができたと思います。
福島は原発事故の問題を抱えています。事故の収束には、たとえ新しい技術が開発されたとしても、40年以上かかると言われています。今の生徒たちが58歳になっても、収束できるかは、まだまだわかりません。
よって彼らは、次世代につなげる役割も担っているのです。生徒には、その意識もぜひ持って取り組んでもらいたい。そして、日本人として、福島県人として、工業の世界で活躍できるような社会人になってもらいたいのです。
就職や進学を目前にした生徒たちは、今も目標を持って取り組んでいますが、この大会で学んだことを活かし、それぞれの分野で根幹を忘れずに、「やればできる」という熱い信念を持ってやってほしいと大変期待しています。
勝ち・負けで言えば、もちろん負けて得るものもありますが、勝って得たものの方が大きいと考えています。自信は勝たなければ、絶対に持てません。自信がつけば、積極的に外に出ていけます。ぜひ、そんな人間になってもらいたいと思います。
とはいえ、楽しむことが一番大切です。高校生になると、ある程度の知識をつけて、逆に「できないよ」とあきらめる子も多いです。けれども、大学生メインのコンテストに、高校生が挑戦する意識だけでもすごいですし、実際に世界に来て、英語でプレゼンするところまできました。
よくやったな、と思います。すごく嬉しくて、涙が出ます。月並みな表現ですが、教師冥利に尽きます。
◆日常を疑い、アイディアを考え、実際に挑んでつくり、人を説得する。
/宮城県工(佐伯駿介さん、松木光さん、伊藤煕さん、鈴木博信さん)
―どんなアプリケーションをつくりましたか?なぜ、このアプリケーションをつくろうと思ったのですか?
私達は、ヘリコプターの新しいコントローラを提案しました。ヘリコプターのコントローラは、今までずっとレバー式で、操作方法は何も変わりませんでした。
ヒントは、携帯電話がスマートフォン化し、大きな変革をもたらしたこと。その時、「ヘリコプターのコントローラだって、このまま変わらないのはおかしいのでは?」と思ったのが、きっかけです。コンセプトは、新しいアイディアの提案です。
一つ目のアイディアは、自分の声で飛ばせるコントローラです。「飛べ」と言えば、ヘリコプターが飛び、「右」と言えば、右に回り、「前に進め」と言えば、前に進みます。
もう一つは、手の動きに対して、そのまま手を上げれば、ヘリコプターも上がるし、下げれば下がる、という単純なシステムです。いずれのアイディアも、直感的にコントロールできる点がポイントです。
技術的には、声を認識するために約3ミリの超小型マイクを使いました。手の上げ下げで動かすタイプの方は、耳には聞こえない超音波という音を拾う特殊な超小型マイクを使用しています。
―世界大会に挑戦した感想は、いかがでしたか?
まず、世界では日本語が通じないので、英語を話すしかありません。日本語とは文法も発音も違うので、自分の頭の中で考えていることを、英語に変換することが難しかったです。
また、他国のブースも、それぞれ国柄が表れていて、「こういう考え方もあるんだ」と、自分たちとは違う発想や文化に触れられ、とても面白かったです。
英語には自信がありましたが、ここまで英語力が大切かという驚きと、現時点での自分の英語力は底辺でしかないことに気づき、ショックを受けました。話せても発音が悪ければ伝わらないし、発音が良くても話せなければ伝わりません。英語力を向上させなければと痛感しました。
―読者の後輩たちへメッセージをお願いします。
携帯電話がスマートフォンに変わったように、身近にある日常的なものをまわりと比べて「ここが何か変えられないかな」と疑ってみる。そして、「もっとこんなアイディアがある」と考えてみると、自分のアイディアがどれだけ幅広いか、わかります。
さらに、実際に挑んでつくり、人を説得する力を向上させれば、必ず将来的にも、社会に出ても、十分に人に伝わるものになると思います。あなたも、世界に行きたいのなら、ぜひ県工に入学してください。
◆生徒たちの人生の糧に
/三浦信也さん(宮城県工業高等学校 電子機械科 教諭)
生徒たちの人生の糧になってほしい、それが本大会に出場した一番の目的です。初海外の生徒が大半な中、知らない土地で、日本とは全く異なる条件下で、どうやって自分の力を100%出し切れるか、その出し方が大事です。
失敗してもいいから、思い切ってやってもらいたかった。緊張する場面でも自分の力を出せるよう日々指導していますが、今回それができたので、高く評価できます。彼らがこれから人生を振り返った時、この経験が非常にプラスになるでしょう。
もちろん技術も大切ですが、これから自分がどうあるべきかを探すことと、両立させなければいけない場所が工業高校です。それに、様々なことを最も吸収できる年代でもあります。
ですから、放課後の時間も、大事にして欲しいですね。授業が終わって帰るのではなく、部活に励んだり任意の集まりをつくったり、もちろん、それは学校以外の場かもしれません。放課後から家に帰るまで、どんな時間を過ごすかが、人生にとって大事なことだと思います。
コラボレーション
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