取材・写真・文/大草芳江
2012年3月7日公開
小惑星探査機「はやぶさ」の贈り物
~太陽系の惑星はどのように誕生したのか~
中村 智樹 Tomoki Nakamura
(東北大学大学院理学研究科地学専攻 教授)
1966年生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科鉱物学専攻修士課程修了。東京大学理学部で地球外物質研究室に進学し、太陽系始原物質の物質科学的研究を始める。九州大学の宇宙化学研究室に赴任し、米航空宇宙局・太陽系探査部門、独マックスプランク研究所・宇宙化学部門に留学、2001年より九州大助教授を務め、2010年に東北大准教授、2012年から東北大学教授に就任。
一般的に「科学」と言うと、「客観的で完成された体系」というイメージが先行しがちである。
しかしながら、それは科学の一部で、全体ではない。科学に関する様々な立場の「人」が
それぞれリアルに感じる科学を聞くことで、そもそも科学とは何かを探るインタビュー特集。
我々の太陽系は、いつどのように誕生したのか?
それを調べるために我々は、太陽系が誕生した当時の姿を残している
小惑星や彗星などの小天体から、物質を手に入れなければならない。
2010年6月、日本の小惑星探査機「はやぶさ」は、
小惑星から物質を持ち帰ることに世界で初めて成功した。
その「はやぶさ」のカプセルを一番最初に開封し、
カプセルから微粒子を取り出して分析・解析したのが、
東北大学大学院理学研究科教授の中村智樹さんだ。
中村さんらが小惑星の物質を分析・解析した結果、
小惑星が太陽系の生い立ちを記録していることや、
その小惑星の生涯が明らかになってきた。
「はやぶさ」の贈り物とは何か?
中村さんに研究の背景やプロセスも含めて聞いた。
<目次>
・なぜ「はやぶさ」は小惑星に行ったのか?
・「はやぶさ」の微粒子の取扱いには非常に苦労した
・小惑星イトカワ微粒子を分析してわかったこと
結論1:隕石は小惑星から飛んできた
結論2:小惑星イトカワは現在の10倍以上の大きさだったが、強い衝突で小さくなった
結論3:小惑星は日焼けする
・小惑星の形成モデルが明らかに
・新しい技術で、惑星科学の新しい時代に入った
惑星科学者の中村智樹さん(東北大学大学院理学研究科地学専攻 教授)に聞く
なぜ「はやぶさ」は小惑星に行ったのか?
―そもそもなぜ中村さんはこの研究をしているのですか?まずは、モチベーションや研究背景などから教えてください。
我々の太陽系はいつどのように誕生したのか?私は以前から、太陽系誕生の謎に興味を持ち、ずっと研究を続けてきました。太陽系は今から45億年前に生まれましたが、最初の約1千万年の間で、大事な出来事のほとんどは終わっていると考えられています。
私は特に、この太陽系初期にどんなことが起きたのか?を解明したいと思っています。そのための情報は、太陽系が誕生して間もない当時から太陽系にあった、小さな天体にしか残っていないのですよ。
―なぜ、小さな天体だけなのですか?
【図1】太陽系形成の標準モデル(提供:東北大学中村智樹教授)
図1をご覧ください。上の図は、45億年前の太陽系です。中心には原始太陽があり、まわりにはガス円盤があります。ガス円盤の中には、約1000分の1mmの小さな塵(ちり)が浮かんでいます。
ガス円盤の中でいろいろな現象が起こった後、最終的には直径約10~100kmの小天体が、太陽系の中にたくさんできたと考えられています(図1の中央)。
この小天体は、円盤の中を浮かんでいた小さな塵が集まってできたものです。そのため小天体の物質を研究することで、この円盤の中で何が起こったかや、どのようにして天体ができたかが、わかってくるわけです。
このような小天体が45億年前の太陽系にはたくさんありましたが、その大部分は衝突・合体を繰り返すことで、現在の地球や火星などの惑星になりました(図1の下)。つまり小天体を研究することで、大きな惑星がどうやってできるのか、その最初の段階がわかる、ということですね。
ところが、理由はよくわからないのですが、小天体がほぼそのままの状態で太陽系に残っている領域があるのです。その一つが、例えば、火星と木星の間にある「小惑星帯」です。ここには今知られているだけで、60万個もの小さな天体が密集しています。
もう一つは、海王星や天王星の向こう側にある「カイパーベルト」と呼ばれる領域です。ここにも今確認されているだけで、数千個の小天体があります。この領域の天体は非常に暗いので、これから(観測技術の向上によって)どんどん発見されていくでしょう。
つまり、小惑星帯には太陽系で最初に生まれた天体が、ほぼそのままの姿で残っているというわけです。そして昔から、地球に飛来する隕石は、この小惑星帯からやって来たものだと考えられてきました。
そのため、隕石を研究することで、太陽系の昔のことがわかると考えられ、実際にいろいろなことがわかってきました。もともと私の専門も、宇宙から地球に飛来する隕石や宇宙の塵(ちり)の研究です。
ところが、一つだけ問題がありました。本当に隕石が小惑星から来ているという確証が、実はなかったのです。
―そもそもなぜ、今まで隕石は小惑星から来ていると考えられていたのですか?
【図2】隕石と小惑星の反射スペクトルの比較(提供:東北大学中村智樹教授)
間接的な理由ですが、一つは反射スペクトルです。簡単に言うと、小惑星の色と隕石の色を比べてみましょう、というわけです。
図2をご覧ください。「普通コンドライド」は、地球上に落下する最も多い隕石です。「S型小惑星」は、小惑星帯に多く存在する小惑星で、イトカワもS型小惑星に属します。グラフの横軸が波長で、縦軸が反射率です。
下の曲線は、小惑星が太陽からの光を反射し、地球にやって来た光を分光することで得た、小惑星の反射スペクトルです。上の曲線は、実験室で隕石に太陽光と同じような光を当て、隕石の表面から反射した光を分光することで得た、隕石の反射スペクトルです。
両者の反射スペクトルを比べると、ここが低いとかここは高いとか、凸凹した感じはよく似ていますね。しかし、そもそもの絶対的な反射率は違って、隕石の方が明るいですね。一方、小惑星の反射スペクトルは、暗くて右上がりです。
もし隕石と小惑星が同じものならば、同じ反射スペクトルを示すはずですが、このように、何かが違うのですね。ですから、本当に隕石が小惑星から来たのかどうか、確証はなかったわけです。
―では、どうすれば良いのですか?
じゃあ、どうすれば良いかと言えば、実際に小惑星の物質を地球に持ち返って、隕石と比べれば良いわけです。地上でいくら実験や分析をしてもわからないことも、物的証拠を手に入れることができれば、一発でわかるわけですね。だから、「はやぶさ」は小惑星に行ったのです。
「はやぶさ」の微粒子の取扱いには非常に苦労した
―中村さんは「はやぶさ」分析担当ですが、どのように分析は進みましたか?苦労された点はありましたか?
【図3】小惑星イトカワ微粒子。その多くは直径約0.01mmだったが、図3は比較的大きな粒子で、約0.05~0.1mm(提供:東北大学中村智樹教授)
「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」から地球に持ち帰ってきたカプセルの中から微粒子を取り出して特定する担当が僕なのですが、カプセルのふたを一番最初に開ける担当も僕だったのです。
微粒子を紛失しないようにどうやってカプセルのふたを開けるかや、カプセルの中からどうやって微粒子を見つけるかは、「はやぶさ」が帰ってくる2年くらい前から、ずっと宇宙科学研究所に通い、何度も練習を繰り返しました。この時は「はやぶさ」が本当に無事地球に帰還できるかわからなかったので、結構きつかったですね(笑)。
そして、2010年6月に「はやぶさ」が無事帰還してから、カプセルの中の微粒子が実際に小惑星イトカワのものだったことを特定し、記者会見を開くまで、(予定よりも遅れて)約6ヶ月間もかかったわけです。微粒子の取扱いには、非常に苦労しました。
―どのようなところが一番苦労しましたか?
カプセルのふたを開ける時も死ぬほど緊張しましたが、開封に無事成功し、中を見ると、あるはずの粒子が見えなかったのですよ、何も。その中から目では見えない粒子を取り出し、それが小惑星のものかを判別する必要があり、そこに時間がかかったのです。
―どのようにして目で見えない粒子を取り出し、それを小惑星由来と特定したのですか?
「マニュピレータ」という特殊な装置を使って、針先を帯電し、その静電気で微粒子をひっつけることで、カプセルの中から微粒子を取り出しました。取り出した微粒子が本物かどうかは、電子顕微鏡を使って特定するのですが、それもまた大変でした。
その後、特定した微粒子の一部を使って初期分析を行いました。先ほどお話したように、小惑星の微粒子が隕石と同じものかどうかなどを調べたわけですね。
―どのようにして、小惑星の微粒子と隕石が同じかどうか、調べたのですか?
【図4】X線回折技術による分析(提供:東北大学中村智樹教授)
私の分析方法は「放射光」と言って、高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)にある放射光施設にこの微粒子を持ち込み、強力なX線を照射することで、微粒子を構成する結晶の種類や元素の存在度を調べました(図4)。
微粒子を構成する結晶の種類や元素の存在度を特定した後、ダイヤモンドの刃を使って微粒子を輪切りにし、その断面を電子顕微鏡でさらに細かく分析して、微粒子を構成する結晶の成分を測定しました(図5)。各結晶の成分は微粒子の形成温度などを記録しています。
【図5】電子顕微鏡による分析(提供:東北大学中村智樹教授)
―微粒子は0.01~0.1mmという小ささですが、その断面をつくるのに苦労はありませんでしたか?
もともと私の専門は、最初にもお話したように、地球に飛来する隕石や宇宙塵(うちゅうじん)の研究です。イトカワの微粒子は、これまで私が研究していた宇宙塵よりも少し大きいくらいなので、分析における技術的な苦労はなかったと思います。
小惑星イトカワ微粒子を分析してわかったこと
―それでは、中村さんらの初期分析でわかったことは、どんなことでしたか?
「はやぶさ」が世界で初めて持ち帰った小惑星の微粒子を分析した結果、大きな成果が2つありました。一つは、小惑星が太陽系の生い立ちを記録していることを証明した点。もう一つは、小惑星の生涯がわかった点です。
◆結論1:隕石は小惑星から飛んできた
まず、「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰った微粒子は、地球に最も多く飛来する普通コンドライド隕石の成分と、全く同じであることがわかりました。
先ほどもお話しましたが、電子顕微鏡とX線回折技術の2つの分析方法を使って、微粒子を構成する鉱物の詳しい化学組成を調べました。
その結果、微粒子は、カンラン石、Caに乏しい輝石、Caに富む輝石、斜長石、トロイライト(硫化鉄)、テーナイト(鉄ニッケル金属)、クローマイトなどの鉱物で構成されていることがわかりました。この鉱物の組み合わせは地球の岩石にはなく、普通コンドライト隕石特有のものです(図6)。
【図6】結論1:小惑星は原始天体であった(提供:東北大学中村智樹教授)
ですから、小惑星は隕石の母天体であり、一言で言えば「小惑星イトカワは太陽系の原始的な天体である」、つまり、小惑星は太陽系初期の記録を残している天体であることが、まず証明されたのです。
したがって、イトカワ微粒子を研究すると、太陽系誕生時の天体形成やその進化過程が解明されます。
◆結論2:小惑星イトカワは現在の10倍以上の大きさだったが、強い衝突で小さくなった
次に、小惑星イトカワは変な形をしているんです。白黒があって、岩がゴツゴツしていて。それが実は、最初からこんな形をしていたのではなく、後からこんな形になったことが、僕らの分析でわかったのです。
―どのようにして、それがわかったのですか?
【図7】結論2:イトカワ微粒子は天体内部で加熱されたものとそうでないものがある(提供:東北大学中村智樹教授)
図7は、微粒子の断面写真です。よく観察すると、右側の粒子は、結晶内部の元素組成が非常に均一なんですよ。これは何を意味しているかと言うと、これらの微粒子は、もともと今よりもっと大きな岩体で、それが大変長い時間加熱されたことにより、結晶中の元素組成が均一になったことを示しています。
そして結晶の成分から、大部分の微粒子は、温度で言うと、摂氏800度くらいで非常に長時間、加熱されたものであるということがわかりました。一方で約2割は、800度までは加熱されていない、結晶中の元素組成が不均一なものも見つかりました。
―なぜ今よりもっと大きな岩体であることがわかるのですか?
少し難しい説明になりますが、太陽系が生まれた時にできた天体は、だんだん大きくなるわけですね。だんだん大きくなる過程で、天体内部は、放射性元素が壊変することによって、発熱するのです。
放射性元素は天体内部にほぼ均質に存在し、また熱は天体表面から逃げていくため、天体中心の温度が最も上昇します。そして天体が大きければ大きいほど熱がこもるため、(天体の)温度は高くなるわけです。
【図8】太陽系形成期の天体加熱。縦軸は時間(百万年)、縦軸は絶対温度(K)(提供:東北大学中村智樹教授)
イトカワ内部が摂氏800度(絶対温度で約1200K)まで上がるには、ある程度以上、天体が大きくなければいけません。それは、計算で求めることができ、シミュレーションの結果、イトカワの直径は20㎞くらいなければいけないことがわかりました(図8)。
一方、現在のイトカワは変な形をしていて、大きさが500×300×200mくらいしかなく、直径20㎞よりも全然小さいですね。ですから、もともと直径20㎞だった天体が、砕けて小さくなったと考えられるわけです。
天体が砕けるわけですから、砕ける瞬間、非常に大きな衝突現象があったと考えられます。その証拠がどこかに残っていないかなと調べたら、結構たくさん残っていたのですよ。
【図9】結論3:イトカワ微粒子の多くは強い衝撃を受けている(提供:東北大学中村智樹教授)
図9は、イトカワの微粒子をさらに拡大した画像です。泡のような粒々が見えるでしょう?これは、衝突現象によって一気に温度が上昇し、結晶の一部がどろどろに溶けて、お湯が沸騰するように結晶が液体化して沸騰した状態が、そのまま固まったものです。衝撃で温度が上がった場合、温度が上がるのも早いですが、下がるのも早いのです。
以上のことから、小惑星イトカワは、もともとは直径20㎞くらいあったけれども、あとで砕けて小さくなった、とわかるわけですね。
◆結論3:小惑星は日焼けする
もう一つ、おもしろい結果がありましてね。「小惑星は日焼けする」というものです。インタビューの冒頭で、隕石と小惑星の反射スペクトルを比べた時、小惑星の方が暗いとお話しましたが、この原因は日焼けであることがわかったのです。これは茨城大学の野口高明先生らによって解明することができました。
―「小惑星の日焼け」とは何ですか?
宇宙での日焼けを「宇宙風化作用」と言います。これは、太陽から来る放射線が小惑星表面に当たることで、小惑星表面にある砂の一番表面の部分が化学反応を起こし、ナノサイズの微小な金属鉄(ナノ粒子)ができるために起こります。この微小金属鉄は、赤黒い色をしています。
野口先生は電子顕微鏡の名手で、微粒子の表面を電子顕微鏡で分析し、表面の透明な結晶の上にこれらナノ粒子が存在することを、綺麗に撮影することに成功しました。それはもともと綺麗な結晶に赤黒いパウダーをまぶすようなものなので、それで暗くなる、つまり日焼けするわけですね。
地球に飛来するような隕石は、小惑星が大きく砕けた時、小惑星の中からやって来るので、色は白いのです。例えば、イトカワの表面が白く見えている部分は、外から隕石が衝突したため、表面の物質がずれて中身が見えている部分です。
要するに、前々から地球で観測していた小惑星の表面と、隕石の反射スペクトルが違う原因は、この宇宙空間の日焼けということもわかったわけですね。このように最も大事だと思っていたテーマを、我々初期分析チーム全体の成果として解明できたことは、非常に良かったと思います。
小惑星の形成モデルが明らかに
以上の分析結果をまとめることで、小惑星イトカワがたどった歴史が明らかになってきました。
45億年前、太陽系のガス円盤で約20㎞の小天体ができた後、その天体に含まれる放射性元素が壊変し、温度が上昇していきます。図10(2)をご覧ください。中心の赤色の部分が一番温度が高く、約800度あります。その外側の緑色や黄色の部分はそれほど温度が上昇していません。
【図10】小惑星イトカワの形成史(提供:東北大学中村智樹教授)
温度が上がった状態から冷えるまで、大体数千万年くらいかかるので、ゆっくり冷えた後、図10(3)(4)のように、他の天体が衝突し、もともとのイトカワ小惑星がバラバラになったと考えられます。
そして、大部分の欠片は宇宙空間に飛び散りましたが、一部の同じ方向に飛び散った欠片が、図10(5)のように、もう一度重力で集まり、現在のイトカワになったと考えられます。
一度バラバラになった欠片が集まっているため、本来なら天体中心にしか無い加熱された赤い物質が、天体の表層にたくさんあるのです。そこに探査機「はやぶさ」が訪れて、砂を採取してきたわけですね。
―衝突して欠けた小惑星の一部とも考えられると思うのですが、なぜ一度バラバラになったとわかるのですか?
小惑星イトカワは、大きさ数mm~数mのいろいろな岩石が寄り集まっただけの岩の塊で、中はスカスカなんです。探査機「はやぶさ」が近づいて、イトカワの密度を測った結果、中身の30%が空洞であることがわかりました。
一回砕けたもので集まらなければ、中は空洞にならないですよね。もしこれが欠けた一部の欠片なら、中が詰まっているはずなので、一度バラバラになったと考えられるのです。
このように欠片が集まった小惑星を「ラブルパイル型」と言います。ラブルパイル型の小惑星は、小惑星帯に多く存在しています。一方、誕生した頃の小惑星は皆、図10(2)のような「オニオンシェル型」です。なかにはオニオンシェル型のまま残っている小惑星もありますが、その多くは途中で砕け、ラブルパイプ型になっているのです。
小惑星がオニオンシェル型からラブルパイル型になるのは、小惑星の一生なんですよね。ですから、イトカワは年をとった小惑星というわけです。
最終的には、このイトカワですら破壊され、さらに小さくなります。粉くらい小さくなると、あとはもう、ゆっくりゆっくり太陽の方に落ちて行くだけなので、最後はなくなるのです。このような小惑星の一生が、確固とした証拠をもって明らかになりました。
―これまでは証拠を直接持って返ってくることができなかったから、小惑星の生涯を明らかにできなかったという意味ですか?
これまで隕石はたくさんありましたが、どの小惑星から来たものかはわかりませんでした。一方、「はやぶさ」の場合、この小惑星から採取した砂だとわかります。
その前提で、その砂が実はもっと大きな天体の一部だったと分析でわかり、じゃあ今のサイズはもともとのものから砕けたものだ、という議論ができるわけですね。今まではそういうことができなかったので、そこが決定的に違うと思います。要するに、このような小惑星の形成モデルを具体的に示すことができたことが、大きな成果ですね。
―小惑星の生涯がわかる意味を、どのように感じていますか?
我々はどこから来てどこへ行くのか。我々をつくる元素も、もとを正せば、このガス円盤の中に浮いていた約1000分の1mmの塵に含まれていた元素なのです。そのような塵が集まり、小さな天体ができて、その小さな天体が、さらには地球などの惑星になって、その上で進化した我々がいる。そのような我々の存在自体の大元の部分を理解するという感じですね。
新しい技術で、惑星科学の新しい時代に入った
―最後に、今までのお話を踏まえて、高校生を含めた読者にメッセージをお願いします。
我々の地球や太陽系はいつどのようにできたのか?を調べるために、我々はその物的証拠として、いろいろな惑星の物質や小惑星の物質、彗星の物質などを手に入れなければいけません。
今までは無理だと思われていましたが、ここ約5年間で、人類は彗星や小惑星の物質を相次いで手に入れることができました。それは、惑星科学の大転換です。新しい技術で、新しい時代に入ったのです。
「はやぶさ2」も2014年に打上げ予定で、2020年の地球帰還を予定しています。今度も小惑星に行くのですが、有機物や水を含むタイプの小惑星に行くんですよ。ですから、我々の生命の起源や海の起源などが解明されるのではないかと期待できるわけですね。
特に高校生の皆さんが大学生や大学院生になる頃は、自分が欲しい天体の物質を、探査機を飛ばして直接取りに行って研究できる新しい時代です。このような研究に興味のある方は、ぜひ新しい技術の成果を楽しんでもらえたら、と思います。
―中村さん、本日はありがとうございました。
2012年3月15日(木)、せんだいメディアテーク(仙台市青葉区)にて開催される「東北大学理学部開講100周年記念公開シンポジウム」では、中村智樹先生の講演やサイエンスカフェなども行われます。ご興味のある方は、公式サイトをご覧ください。
コラボレーション
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