次の100年にむけて決意新たに 東北大学理学部開講100周年
2011年10月1日公開
東北大学理学部の前身、東北帝国大学理科大学の開講100周年を記念した行事が先月、東北大学理学部や仙台市内のホテルで催された。記念行事には、大学と同窓会関係者、学生らが参加し、理学部ならびに同大の一層の発展を期した。
◆東北帝大学理科大学初代学長・小川教授の胸像除幕式
小川正孝教授の胸像除幕式のようす=東北大学理学部広場で
記念行事に先駆け、東北帝国大学理科大学初代学長で、同大第4代総長の小川正孝教授(1865~1930年)の胸像除幕式が、同大理学部広場で行われた。
旧財団法人東北大学研究教育振興財団(2010年3月解散)が寄贈した。胸像は青銅製で、宮城県出身の彫刻家・佐藤忠良さん(1912~2011年)の監修で、弟子の笹戸千津子さんが制作した。
小川教授は、新元素「ニッポニウム」の発見で脚光を浴びたが、追試が成功せず、その研究業績は忘れ去られていた。しかし、実はニッポニウムは43番元素ではなく75番元素のレニウムだったことが判明し、小川教授の新元素発見者としての名誉は回復した。
除幕式には、大学と同窓会関係者、学生ら約40人が出席。財団元理事長の西澤潤一上智大特任教授が井上明久同大総長に目録を贈呈した後、理学部広場の化学棟近くに設置された胸像を関係者らが除幕した。
記念撮影をした後、同大の福村裕史理学部長が「小川教授の胸像をシンボルに今後も研究に邁進したい」と謝辞を述べ、次の100年にむけての決意を新たにした。
◆理学部開講100周年記念行事
記念式典で祝辞を述べる福村裕史理学部長=仙台市青葉区のホテルメトロポリタン仙台で
除幕式の後、仙台市青葉区のホテルメトロポリタン仙台で、式典や講演会などの記念行事が開催された。式典では、福村理学部長から式辞があった後、磯田文雄文部科学省高等教育局長、井上同大総長、東京大学の山形俊男理学部長が祝辞を述べた。
あいさつにたった福村理学部長は、「自由な基礎科学の安定維持が難しい現状や東日本大震災による被害など、21世紀における理学部の前途は厳しい。しかし、いかなる困難な状況であっても、最先端研究に没頭することでしか道は開けない。この難局を乗り越え、数百年の歴史をつくるべく努力していく」と述べた。
東北帝国大学理科大学は、東京、京都に次いで三番目の帝国大学として1907年に創設され、1911年9月から授業を開始した。初期は、数学・物理学・化学・地質学の4学科のほか、外国語や科学概論・哲学・倫理の共通学科も設けられた。
花輪公雄前理学 部長による「東北大学理学部の百年の歴史を振り返る」
最先端研究こそが真の大学教育になると考える「研究第一主義」、入学を希望する優秀な人材を地域や性別の区別なく受け入れる「門戸開放」の伝統のもと、独創的な学術研究とともに人材育成に取り組み、知の拠点としての役割を果たしてきた。
同大の花輪公雄前理学部長は100年の歴史を振り返り、「大学は知の継承・創出の拠点。引き続き研究と教育に邁進し、その結果として人類に貢献する。良き伝統を継承しつつ、改めるべきところは改めて、これからの100年の歴史を刻みたい」と語った。
飯島澄男名城大学教授による講演会のようす
次いで、飯島澄男名城大学教授と鈴木厚人高エネルギー加速器研究機構長の両氏による講演会があった。飯島教授の「カーボンナノチューブ科学と応用」、鈴木機構長の「基礎科学と大学と社会」と題した講演に、大学と同窓会関係者、学生ら約290人が聞き入った。
講演会後は祝賀会もあった。同大の福村理学部長のあいさつに続き、財団元理事長の西澤潤一上智大特任教授、同大の武田暁元理学部長と櫻井英樹元理学部長、野家啓一東北大学理事・図書館長の祝辞が続いた。同大の田中正之元理学部長から乾杯のあいさつがあった後、大学と同窓会関係者らで開講100周年の節目を祝って懇談した。
インタビュー
【問】「東北大学理学部のこれまでの100年、これからの100年をどう思いますか?」
◆何かの創造を目指して、常に前進し続けることは人間の運命
/福村裕史さん(東北大学理学部長)
福村裕史さん(東北大学理学部長)
何かの創造を目指さなければ、人間の心の幸福が満たされることはない。常に前進し続けることが人間の運命。その基礎研究に従事するのが理学部の使命である。これまでの100年もこれからの100年も、そのような研究者や学生らの気持ちは恐らく変わらないだろう。ただし時代というものは、これまでの100年とこれからの100年で変わってくる。そのことは前進し続けながら考える必要があるだろう。
◆難しいことも、実用性の可能性は絶えず逃してはならない
/西澤潤一さん(上智大特任教授、元東北大学総長、旧財団法人東北大学研究教育振興財団理事長)
西澤潤一さん(上智大特任教授、元東北大学総長、旧財団法人東北大学研究教育振興財団理事長)
科学には、役に立つことと難しいことの、二つの面がある。難しいことは、すぐに役に立つことは無理でも、いずれ実用性はきちんと出てくる。しかし、そのことを知らずに中途半端で終わっている人たちが大勢いる。だから、難しいこともどんどん取り入れつつ、実用性の可能性は絶えず逃してはならない。
◆まだ揺籃期(ようらんき)と見るべき
/武田暁さん(元東北大学理学部長)
武田暁さん(元東北大学理学部長)
一言で言えば、まだ揺籃期(ようらんき)と思ったほうが良い。ハーバード大学など欧米の大きな大学は、創立から400年を過ぎている。これからの100年は、如何に世の中の雑事を避けて、自由な研究環境をつくるか。そのためには、理学部の人は考え方を変えなければいけないだろう。
◆研究大学として世界をリードする大学に
/櫻井英樹さん(元東北大学理学部長)
櫻井英樹さん(元東北大学理学部長)
東京大学は「官僚を養成する大学」、京都大学は「学問をやる大学」と標榜する中、東北大学は「研究第一主義」を掲げる研究大学と標榜して、創立当時の先生方が多大なる努力をされた。その努力が実り、様々なところで大いなる成果をあげてきた。これからの100年は、その上に立ち、日本はもちろん世界をリードする大学として、ますますの発展を願っている。
◆基礎学の伝統、今後も堅持して発展を
/野家啓一さん(東北大学理事・図書館長)
野家啓一さん(東北大学理事・図書館長)
東北大学は、どちらかと言えば工学部や医学部など実学が強い大学だが、理学部は基礎学の面で非常に大きな役割を果たしてきた。理学部には目先の利益にとらわれず基礎学を大事にする伝統、つまり、いつ役に立つかわからないようなことを無償の情熱を込めて研究する伝統がある。もちろん時代により研究のテーマは変わるが、真理の探求という目標は変わらない。その原点を忘れず、今後の発展を祈念している。
◆科学の基礎をなす理学ますますしっかりと
/田中正之さん(元東北大学理学部長)
田中正之さん(元東北大学理学部長)
本来、理学とは理工系科学の基礎。東北大学は、工学や医学など実学が強い大学だが、理学が本来の存在感を高めることをしなければ、やはり応用の幅は狭くなる。資源のない日本は科学技術立国を標榜しているが、それしか日本の生きる道はない。その意味でも、理学部がますます立派な研究をし本来の役割を果たすことが、これからの100年も大切だ。
◆基礎研究が非常に重要
/飯島澄男さん(名城大学教授)
飯島澄男さん(名城大学教授)
一言で言えば、基礎が非常に重要だ。今の日本ではあまりに短い期間で成果を問う。しかし基礎研究とは、10年、20年単位でじっくり問題を定め、それを解決するもの。「これが何になるのか?」といった出口思考ではなく、枠が全くない自由な中で、自分で考える。そのような基本が重要であり、まさに理学部はそれをやらなくてはいけない。
東北大学は歴史的にも自由な雰囲気の中で、例えば、本多光太郎先生は、非常に重要な物理もやると同時に、その出口で実際的な非常に強い電磁石をつくった。基本をしっかりやりつつ、その先に何かおもしろいことがあるかもしれない。しかし、それはあくまで量的な基礎研究を行った結果であって、初めからそれに向かってやるものではない。
◆無我夢中になることが大切
/鈴木厚人さん(高エネルギー加速器研究機構長)
鈴木厚人さん(高エネルギー加速器研究機構長)
無我夢中になることが大切。例えばサッカーボールに向かって無我夢中で突っ走るのと同様に、「これをやれば役に立つ」からではなく「とにかくこれはおもしろい、こういう研究をやりたい」と思ったら無我夢中になって突っ走る。東京から程々の距離がある仙台には、程良く必要な情報を得ながら、自分のやりたいことに猪突猛進できる良さがある。これからの100年も、これまで同様に研究に邁進し成果を出してほしい。
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