どこが悪いかわからないことは謝るわけにはいかない
昭和20年、日本が戦争に負けた年、私は小学校1年生の坊主でした。東京が完全に焼け野原ですから、我々悪ガキの遊びエリアというのは、10km四方くらいあるわけですよ。もう、どこまでも行けますからね。それで、ガキ大将になって、悪ガキで遊んでいるじゃないですか。すると近所のおばさんから、「ただひろ!日本の男の子は、そんなことをしちゃ、だめ!!」って大目玉を食うんですよ。普通だったら「うぜえよ、このばああ」で済むじゃないですか。ところがね、「日本の男の子は」という枕詞がつくでしょう?すると直立不動ですよ、そりゃ。聞くんですよ、悪ガキが。そうやって近所のおばさんたちに、仕込まれたんだよね。
―日本という国を意識するベースがあったのですね。食べ物も資源も何もない日本の中で。
そうですね。あの頃は、東京は何もなかったですから。高い建物や何やらも。東京から富士山が良く見えたのですよ。やっぱり富士山というのは、日本の男の魂ですよね。
うちは男5人兄弟なのですけどね、同じ兄弟でも5人いると、親父体験が全然違うのです。それはどういうことかと言うとね、上の3人は親父が戦争に行く前から知っているわけですよ。でも、私は全然覚えがないわけね。あれは昭和22年だったかな。ある日の朝、変な奴が、家で威張っているんですね。「なんだ、あいつは」と私が言ったら、「あれが、お前の親父だ」というのが俺の親父初体験なのです。小学校3年の時ですね。上の兄貴3人はもう前から親父のことを知っているわけですよ。弟は4つ下なものだから「何だあいつは?」と思わないわけです。俺だけが、そういう風に思うわけね。
それで、なぜですかね、悪ガキだったから、よく親父に怒られてさ。「飯食わさないから、外に出てろ!!」なんて言われて。お袋が「ただひろ、謝りなさい」と言うのだけど、俺は俺のどこが悪いのかがわからない。わからないことは、謝るわけにはいかない。それで、そのまま外にいるじゃないですか。あの頃はね、冬場、東京も寒いのですよ。よく一晩外に出ていましたけどもね。すると、まぁ、お袋が食べ物や毛布を持ってくれて、一晩外にいるわけですよ。だから、凍え死なないで済むわけです。
そんなことやっていたのは、兄弟の中で俺だけですよね。良い体験させてもらいました。だけどね、自分のどこが悪いかわからないことを、謝りなさいと言われたって、謝りようがないよね、そりゃ。
必要なものは全部、大学でつくらなきゃ研究にならない
―自分が納得するまでというのが、子どもの頃から今までずっと続いている筋なのですね。
そうですね。例えば33の歳に、東京工業大学から追い出されて、東北大学へ都落ちしてきたんです。なぜ、追い出されたかと言うとですね。当時の東京工業大学も東大も、両方ともそうだったのだけどね。大学で研究をやるためには、例えば実際のデバイスや研究に必要なサンプルを自分でつくらないと駄目じゃないですか。でも、それを自分でやらないのですよ。それで企業につくらせたサンプルを持ってきてね、測定だけしているんです。「こんな仕事の仕方は、大学じゃない」って、先輩たちに何遍も喰ってかかるんですよね。
所属していたのは真空管の研究室だったのだけど、装置を一生懸命自分で立ち上げて、化合物半導体のガリウムヒ素のデバイスをつくれるようにしたのですよ。そういう仕事の仕方をしていてね。そうやってまともにサンプルつくって、研究していたのは私だけでしたね。
そして、東北大学へ来てみたんですよ。いろいろな研究室を見させてもらいました。それで本当にすごいなぁ、って思ったのはね。教授が作業服を来て旋盤を動かして、大学でものづくりを真正面からやっているんですよね。これぞ大学の研究だって、本当に感動しました。それで東北大が大好きになってね。動かなくなったのですよ、東北大から。
やっぱりね、必要なものは全部、大学でつくらなきゃ研究にならないですよ。他所にものをつくらせたんじゃね。それは絶対ですよね。それで我々は、こういう、本当に世界中どこにもないような、スーパークリーンルームをつくったのです。これも本物のサンプルを作るために絶対に必要な施設ですからね。
何が真理かがわからない限り、新しい学問に基づく産業技術なんてつくれない
―「必要なものは全部、大学でつくらなければ研究にならない」と考える理由は何ですか?
世界で一番最初に新しい仕事をやろうと思ったらね、何が真理なのかを誰よりも早く見抜かないと駄目なんですよ。何が真理かがわかるためには、我々は実験に聞くしかないんですよね。例えば、実験を百回やって百回同じことが起こったら、それまでの常識とどれだけ違っていても、それは正しいのです。でも、実験をやったら絶対に正しい実験結果が出てくる環境でなければ、やるたびに違う結果が起こるわけですよ。すると、何が真理かなんて、わからないのです。
だから、もう絶対に未知の要因に結果が左右されない、完全な再現性を備えた実験技術を実現するには、こういったスーパークリーンの環境が必要なのですよね。それは何が真理かを世界の誰よりも速く突き止めるためなんです。何が真理かがわからない限り、新しい学問に基づいた産業技術なんてつくれませんから。
昔の大学の実験環境だと、やる度に違う結果が出たんですよ。何が真理かなんて、全然わからない。だからもうしょうがないからね、さもいろいろな実験をやったかの如く嘘をついて、論文をいっぱい出しました。論文を出さないと、教授になれないものですからね。罪の意識を十分持ちながら、論文を書いていましたよ。だけど、こんなことやっていたら駄目だよな、ってことが心に沁みてね。それで、文部省を一生懸命口説きに行って、片平にスーパークリーンの研究施設をつくらせてもらったのです。
もうねぇ、「なぜ大学に、こんな超高性能のスーパークリーンの環境がいるのだ?」って、答え簡単ですよ。世界で誰よりも速く真理が何かを突き止めるために絶対に必要なんです。だから、ずっとスーパークリーンの研究施設をつくってきたのですよ。
超高性能なスーパークリーンの研究施設
―その「スーパークリーンの研究施設」とは、どのようなものですか?
では、我々のスーパークリーンルームの性能について、今から説明しますね。スーパークリーンルームとはどういうものかと言うと、まず外から新鮮な空気を取り込み、温湿度調整をして、ゴミを全部取り除いた新鮮な空気をクリーンルームの中に取り込みます。その後、吹き出し風速0.35m/秒~0.4m/秒くらいでダウンフローの空気を、クリーンルームの中でぐるぐる循環させます。その空気が循環している途中にゴミを除去するフィルターを入れてあるので、クリーンルームの中にはゴミが1個もなくなるのです。
【図.10】クリーンな空気循環の稼働時と停止時のパーティクル(ゴミ)数
次に、このデータの説明をしますね。1986年3月に38億4千万円のお金を文部省からもらって片平にクリーンルームをつくりました。いろいろな準備をして、掃除の仕方から何から全部ルールを決めて、学生たちにも掃除をやらせないといけないじゃないですか。そこで、掃除することの意味を学生たちに納得させるためにね。まず、大掃除前の1986年7月24日からデータを取りました(緑線)。クリーンルームの中の空気を循環させている時は、クリーンルームには、約0.17μm以上のゴミが全く1個もないのですよ。ところが空気の循環を止めると、ゴミがわーっと出てくるのです。そして1立方フィート(ft3)、つまり30cm立方の中にだいたい2万個くらいのゴミが定常的に存在しちゃうのです(外部の大気中だと1億個位)。
その後、40人くらいの学生と一緒にほぼ丸1日、天井や壁や床や何やらを全部、超純水で拭き取り掃除するんです。そして、掃除後のデータがこれ(青線)なんですよ。1986年8月6日のものです。するとね、クリーンな空気の循環を止めると、清掃前は1立方フィートあたり2万個くらいあったゴミが、清掃後には30個くらいに減っているのです。つまり1000分の1くらいにゴミの量は減りました。これが掃除の効果ですよね。
だから例えば、一週間に1回、簡単な掃除をしなさい。1ヶ月に1回、中規模の大掃除をやりなさい。半年に1回、徹底的な大掃除をやれよ、と決めるわけですよね。やっぱり、そういうことはデータがないと決めようがないですからね。こうやって、これらデータを基にして、掃除のやり方から始まってすべてを決めて行ったわけですよ。これが1986年のことです。
15年にわたる技術開発で運転を止めてもゴミが1個も出ないクリーンルームに
それから15年が経って、ここFFF(東北大学未来科学技術共同研究センター未来情報未来産業研究館Fluctuation FreeFacility)にクリーンルームをつくりました。このクリーンルームをつくるまでに、クリーンルームの中でゴミが発生しても、絶対に壁面や床面や天井面にゴミがくっついて付着塵になることのないような技術を徹底的につくるわけです。
【図.11】FFFの稼働時と停止時のパーティクル数。15年にわたる技術開発でクリーンルーム内の空気の循環を停止しても、ゴミは全く観測されない。
ここFFFのクリーンルームができあったのが、2001年11月の終わりです。12月12日、先程と同様にクリーンな空気の循環を止めました。ゴミは全然出てきません。クリーンな空気の循環を止めても、1個もゴミは出てこないんですよ。とりあえず強制的にゴミを発生させ、1立方フィートあたり1万~数万個のゴミにしておいて、クリーンな空気の循環を始めてみると、50秒でゴミは1個もなくなります。
要するに、我々の発想とは、ゴミを中で発生させないようにすることと、ゴミが壁面や床面にくっついて付着塵になることのないよう静電気を全く帯びないようにしてあることです。すると必ず空気中にゴミは浮いていますから、クリーンな空気と一緒になってぐるぐる循環して、フィルターに全部捉えられていくわけです。クリーンルームを少し運転していると、ゴミがどんどんなくなっていくのは当前のことなのです。
―他のクリーンルームと比べると、性能は全然違うのですか?
全然違いますよ。要するに、クリーンルームを運転しても、あるいは止めても、ゴミは出てこないんです。15年でそこまで技術が進歩しました、ということですね。
性能を上げながら、ランニングコストを安くしていく
今度は、この表を見てください。左から、従来方式のクリーンルーム。1986年に片平キャンパスにつくったクリーンルーム。2002年にここFFFにつくったクリーンルーム。2004年に経産省(産総研)の153億円のプロジェクトで仙台市泉につくったクリーンルームです。見てもらいたいことはどういうことかと言うと、性能はどんどんどんどん良くなっているのですよ。
【図.12】新鮮空気取込量の低減効果(クリーンエリアあたりのランニングコスト)
一方、一番下の欄には、1平米のクリーンルームを1日運転するために必要な経費が書いてあるのです。1986年に片平につくったものは164円かかったのです。 当時の日本の半導体業界が作っていたクリーンルームでは、810円かかっていました。けれども、FFFのものは95円まで減っています。さらに仙台市泉につくったものは54円。片平のものに比べると、1/3に減っているのですね。性能を上げながら、ランニングコストを安くしていくのですよ。 それが技術開発なんですよ。
―どうやって性能を上げながらランニングコストを下げていったのですか?
何をやったかと言うとね。クリーンルームの中からクリーンな空気を捨てるってことを昔はいっぱいやっていたのですね。
クリーンな空気を捨てるとその分外から新鮮空気を取り込むことになり、空調の電力代などが増えてしまうわけです。
そこで、クリーンな空気を捨てなくても良いような技術をいっぱいつくったわけですね。ところが、まだ片平にスーパークリーンルームをつくった頃は、クリーンルームの構成部材から有機物分子やら何やらがいっぱい出てきたのですよ。するとね、新鮮な空気の取り込み量が少なくなっちゃうと、そういうものがクリーンルーム内に溜まっちゃうのですね。
ですから、1平米のスーパークリーンの面積があると、片平のものは1分間に0.5立米の空気を取り込んだのですよ。ここFFFはさらにそれを0.3立米に減らし、泉のものは0.2立米に減らしているのです。このように新鮮な空気の取り込み量が減ると、温室度調整や何やらするための電力が要らなくなるわけです。
FFFや泉のスーパークリーンルームでは空調の方式も全く新しくして電力がかからないようにしています。
―最終的にはやはり実用化が前提なのですね。
やっぱり金がかからないようにしないと駄目ですよね。リーマンショック後は、企業が金を出せなくて大変だったのですよ。ここのクリーンルームも止めるかという議論も出たのですけど、止めずに済んだのはランニングコストが安いからですよ。全然違いますよね。
水道のように使いやすいガス供給系技術を実現
もう一つね、このデータも是非見てみてください。いろいろな製造装置に、窒素ガスだ、アルゴンガスだ、あるいはプロセス用の各種原料ガスなんかを、ステンレスのチュービングシステムを用いて供給しないといけません。すると、そのステンレスのチュービングシステムを作っている最中に内表面が空気にさらされるものですから、空気中から水がいっぱい内表面に吸着するわけですよ。空気中には水分が大量に存在するものですから。その水が枯れるまでに、物凄く長い時間がかかるのです。プロセスを劣化させる最大の敵役が水分なんですよ。
【図.13】技術の進歩により、ガス供給系の施工完了直後からの瞬時立ち上げが可能に
このグラフの縦軸は、コートポイントにおけるプロセスに使うガスの中に含まれている水分量です。1000ppb、100ppb、10ppb、1ppb、0.1ppb。この「1ppb」とは、「流れているガスの分子が10億個あると、1個の水の分子がいます」という意味の単位です。ですから100ppbは「流れているガスの分子が1000万個の時、1個の水分子がいますよ」という単位なのですけれどもね。一番最初、1986年につくった片平のスーパークリーンルームの時は、一番上の青線です。この時はまだ、ガス供給系の多くの部品の内部にプラスチックが使われていたのですよ。プラスチックは中に水分を含んでいて、水分を放出し続けるんだね。
また当然のことながらステンレス表面に空気中から吸着した数10分子層の水分が徐々に脱離してくるんですね。
さらには、ステンレスのチュービングシステムの施工の仕方も重要です。「突き合わせ溶接」や継手施工でどんどんチューブをつないでいくわけですが、突き合わせ溶接をやる時は、ステンレスチューブの中にアルゴンガスを流しながらやっているのです。そして、その日の作業が終わったところで、アルゴンガスを流しながらエンドシールキャップをすぽっと被せて、次の日の朝、施工を始めるまでアルゴンガスは止まっているのですよ。1986年の片平のスーパークリーンルームのときは、そういう施工の仕方をさせたのです。
するとね、500ppbに水分量が減った時点で、施工業者から我々はガス系を受け取るわけですよ。それから見ていると、延々とガスを流し続けて原料がガズの水分量である2ppbの定常状態になるまでに、1万1千時間、つまり1年3カ月という時間がかかっているのです。それだけ中に入っていた水が枯れるのに時間がかかっているのです。
それから3年経った1989年、青葉山にミニスーパークリーンルームというのをつくったのですよ。その時ステンレスのチューブには、やはり同じくプラスチックは含まれていたのです。けれども、施工の仕方を変えたのです。夜の間、今までエンドシールキャップを被せてガスを止めていたのを、その日の施工が終わったら、一番末端に、ほんの0.5ミリ程度の穴が開いたキャップを被せて、それぞれのラインに1L/分のアルゴンガスを止めずに流し続けるのです。そして次の日の朝に来たら、すぐに施工を始めますよね。それで是非見てもらいたのは、10ppbという水分量になるまでに、1986年では4ヶ月かかったのが、1日24時間で水分量が10ppbを下回るようになったのです(上から二番目の緑線)。施工の仕方だけで、これだけ変わるのです。もう圧倒的に優れたガス系になった。
そして、ここFFFの建物をつくった2001年、オールメタル材料・常時パージで、ステンレスの内表面をAI2O3とかCr2O3の保護膜で覆ったチュービングシステムにしました。するとできあがった瞬間から、水分量は0.2ppbなんですよ。わかります?これだけの進歩が15年の間に、果たされてきたということですよ。
まさに、施工終了後の瞬時立ち上げが可能になったのです。
最後にもう一つ、見てもらいたいのがこちらです。今、半導体産業界というのは、どういうことをやっているかと言いますとね。ガスのチュービングシステムから水がいっぱい出てくるものだから、1日の操業が終わると、すべてのプロセスガスラインを窒素ガスで置き換えるんですよ。そして夜中窒素ガスを流し続ける。そして次の日の朝に来ると、窒素ガスをまた実際に使用するプロセスガスに切り替えて、作業を始めるのです。それを毎日やっているのですよ。
なぜそれをやらないといけないかと言うとね。チューブの中に水分があると、HClガスやHBrガスなどの腐食性のガスが流れているラインでは、あっという間にステンレスが腐っちゃうのです。
その他のプロセスガスでは水分と反応して反応生成物(ゴミ)が大量に発生してステンレトチューブの中がゴミだらけになってしまったりするのです。
そういうことがあると困るから、毎日毎日作業が終わると、窒素ガスをすべてのガスラインに流し続けてから、皆帰るのですよ。ばかみたいなことやっているでしょう?
【図.14】水道方式のガス供給系が実現
この2001年に完成させた我々のガス系ですね、ガスの流れを1日止めました、1週間止めました。ほとんど水分なんか出てこないのですよ。だから今、我々の創り上げたガス系を入れてくれると、毎日プロセスが終わったらね、ボンベのバルブとエンドポイントのバルブを絞めてプロセスガスはステンレスチューブの中に入れたまま帰ってください。次に来たらボンベのバルブとエンドポイントのバルブを開けてすぐ生産を始めてください。
要するに水道方式なのですよ。これ一番最初から私が目指したものでね。やっぱり、水道は使いやすいでしょう?「使いたい時にバルブを開ければ使いたいガスが使いたいだけ使え、使い終わったらバルブを閉めるだけで良い」。まさに水道方式ともいうべきガス供給系技術が、ここで完成したということですね。
「全部やろう」と決意したのは人生で2回
だんだんわかってきたでしょう?一つでも駄目なものがあると駄目なんですよ。超高性能超高生産性製造システムは仕上がらないのですよ。
すべて完全にならないと駄目なのです。ただ事ではないですね。40歳代半ばで教授になった時、全部始めるわけですよね。もし、これをやるんだったら、全部やらないといけない。中途半端なことをやるんだったら、全然意味がない、それなら何もしない方が良い。じゃあ、どっちにしようというのは、だいぶ考えてね。しょうがない、全部自分でやろうと決意して、全部やることにしました。
―それは相当な決意ではないでしょうか。もともと「産業立国」日本を豊かにするためという目的があったとしても、それだけ壮大だと、実際にやれるのかどうかと。
すごい量だからね(笑)。やっぱりそれはね、さすがに足がすくむんだよね。本当に、俺一代でやりきれるだろうか、って。
―では、なぜ決意できたのですか?
俺がやらなきゃ、やれる奴は誰もいないですからね。しょうがないですよね。とにかく徹底的にやろうと決意して、やり出してね。でも、もう一度、考えたことがあるのですよ。1990年代の半ばにね。いろいろな企業や組織が世界的規模で専門別に特化するってことをやり出したのです。でも我々の研究室は、必要なことを全部やっているのです。いろいろなところが専門別特化をやっている中、うちは全体を全部やるのを続けても良いのだろうか、ということを、だいぶ考えてね。
けれども、世界中の組織が専門別に特化するが故に、うちは全部やろう、このまま続けようと、また決意し直してね。それは正しかったですね。皆がそうするが故に、我々の存在感がますます顕在化するだろう、ってね。
関連する技術を全部レベルをそろえて高性能化全体最適化を追求する行き方と、個別要素技術に特化して部分最適化を追求する行き方と、どちらが勝つかですよ。
おもしろいでしょう?
ここまでやり抜いてくると、すごいですよ、本当に。完全に他所とは差がつきましたからね。これからおもしろくなりますよ。
―どこがどのように、おもしろくなるのですか?
あははは(笑)。日本が強くなるし、現在行き詰っている半導体技術がどんどん飛躍するしね。情報通信技術も進歩発展するし、世界の全部の産業が進歩発展していきますよね。どんどんどんどん伸びていきますよ。今年の終わりくらいには、製造装置をいろいろなところへ出してやれるだろうから。それは、インテル(アメリカ)だ、サムスン(韓国)だ、TSMC(台湾)だ、東芝なんかも含めてどんどん強くなっていきますよね。是非とも、そういう風にしていきますよ。 超高性能超高生産性の新しい製造装置ができ上がるわけですから、半導体だけでなく大型ディスプレイや太陽電池にも当然使うことができます。太陽電池を作るために使われる全エネルギーよりも、できた太陽電池が発電するエネルギーの方が十分大きい本物の太陽電池産業も実現できるのですよ。
自分を磨いて磨いて磨き続けること
―最後に、今までのお話を踏まえて、中高生も含めた若い世代にメッセージをお願いします。
あのね、君らと同じ世代は、世界中で1億、2億の人たちがいますよ。そういう人たちが全員、君らの競争相手なのです。今隣にいる人たちよりも、ちょっとできます、ということでは、駄目です。世界中のどこにいるかわからない、良くできる連中よりも、もっと良くできるようになるように、自分を磨き続けること。自分を磨いて磨いて磨き続けることなんです。
それが、ものすごく一生を楽しくしますよ。世界中の誰よりも良くできるようになることが、やっぱり自分の人生を最も楽しくさせますよ。ぜひ、若い人たちに伝えてやってください。自分の一生を豊かで楽しいものにした方がいい。そのためには若い時に自分を磨き続けることだ。世界中の誰よりも良くできるように、自分がなることです。
―大見さん、本日はありがとうございました。
コラボレーション
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