生態系の機能を利用して無エネルギーで水質浄化 東北大学生態適応GCOE「人工湿地」実験施設
2010年12月10日公開
生物は環境と相互作用しながら生きており、環境と全く無関係に生きている生物はいません。生態系の中で営まれている、生物と環境の間での様々な相互作用(生態系機能)のうち、特に人間がその恩恵を受けているものを「生態系サービス」と呼びます。
しかし今、人間活動の影響などによって地球環境が変化し、今世紀には生態系が激変すると懸念されています。地球環境変化に対して安定した社会を維持することは、生態系機能や生態系サービスを維持することに他なりません。
東北大学生態適応グローバルCOE(※)では、従来のように人間が自然をコントロールし、その脅威を克服する形ではなく、生態系や生物が本来持つ環境変化に適応する力を活かしながら、生態系サービスを維持していくための研究や人材育成などを行っています。
今回は、生態系の機能を活用する事例のひとつとして、東北大学生態適応グローバルCOEが設置した「人工湿地」実験施設をご紹介します。
※COE: center of excellence(卓越した研究拠点)。国際競争力のある世界最高水準の研究教育拠点を形成し、研究水準の向上と世界をリードする創造的な人材育成を図るため、文部科学省が2002年度より推進しているプログラム。
無エネルギーで畜産排水を高度処理する実験施設
東北大学生態適応グローバルCOEは、世界各国で異なる人工湿地による水質浄化技術を一同に集めた人工湿地実験施設を2009年9月に設置しました。本人工湿地では、川渡(かわたび)野外実験フィールドセンターにおいて毎日2トン弱発生する30頭の乳牛に由来する汚水を受け入れ、エネルギーを使わずに高度に浄化処理する実証実験を行います。このような実用スケールで様々な水質浄化条件を検証できる人工湿地は世界でも例がありません。
自然湿地の原理をもとに水質浄化機能を人工的に強化したシステム
人工湿地とは、自然界の湿地での浄化メカニズムを原理として、制限条件を人工的にコントロールした半自然条件下で水質浄化機能を高めたシステムです。汚水の汚濁成分は、まず物理的なろ過・吸着によりろ過層内に捕捉され、次いでろ過層内でヨシ根圏微生物群により生物学的に分解されます。ろ過層内を不飽和とすることで汚水の浸透に伴い空気が取り込まれるため、エネルギーを要する曝気操作を行わずに好気的な分解を促進することができます。
適材適所の観点で生態系が持つ機能を利用する道を切り開く
東北大学生態適応グローバルCOE人工湿地実験施設の設計者である中野和典准教授に、本研究の目的や将来のビジョンなどを聞きました。
人工湿地ならびに細倉金属鉱業・三菱マテリアル現地見学会
2010年11月9日(火)、PEMプログラム(生態環境人材育成プログラム)受講者などを対象に、国内における水質浄化などの取組みについて現地を見学するツアーを開催し、生命科学研究科や工学研究科の博士課程学生など14名が参加しました。本COEのプロジェクトとして川渡野外実験フィールドセンター(宮城県大崎市)で実験中の人工湿地を用いた水質浄化システムのほか、宮城県栗原市にある細倉金属鉱業株式会社と三菱マテリアル株式会社にご協力いただき、坑廃水処理施設や旧鉱山敷地の緑化事業などの取組みを見学しました。
コラボレーション
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