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2024年 11月 21日 (木)

温室効果ガスの「循環」を地球規模で明らかにしたい



温室効果ガスの「循環」を地球規模で明らかにしたい

―そもそも中澤さんが研究を通じて明らかにしたいことは何ですか?

 私は、気候モデルを開発しているわけではなく、地球温暖化を引き起こす原因である温室効果ガスの研究をしています。

 人間が活発に活動していない時代、例えば300年前には、温室効果ガスは、どこかで出てどこかで消滅して、バランスしていました。だから、大気中の濃度も変わらず一定でした。

 ところが、そこに人間が余分に温室効果ガスを出すものですから、そのバランスが崩れる。その結果、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などの濃度が上昇しているわけです。

 そのような濃度の増加がなぜ起こっているのか、理解したいのです。どこの地域で、どのような過程で、どれくらい出て、どれくらい吸収されているのか、その結果、大気にいくら残るのか。また、その放出や吸収の強さが、時間とともにどう変化しているのか、を知ることです。

 これを「循環」と言います。その解明を地球規模でやることが、私の最大の興味です。


温室効果ガスによって変化した気候が、循環をくるわせる

 これから先、地球は温暖化していくでしょう。すると、循環は、そのような気候変化によって影響を受けます。温室効果ガスは、気候に影響を与えますが、同時に、気候が変わると、自身も変化するのですよ。それは循環がくるってしまうためです。

 例えば、陸上植物は光合成したり、呼吸・分解したりして、大気と二酸化炭素を交換しています。人間が二酸化炭素を出して大気中の濃度を上げ、温度を上昇させるでしょう。そうすると植物は、最初のうちは、二酸化炭素を活発に吸収するんですよ。今が、そういう状態です。

 そのうちに、どんどん温度が上がっていくと、今度は、呼吸・分解の効果が勝ってきます。すると、今まで長い時間をかけて、植物がため込んできた炭素を吐き出してきますから、大気中の濃度は上昇し、ますます温度を上げることになっていきます。


気候が変わると、海も変わる

 海も気候変化の影響を受けるでしょう。例えば南極海は、かつては人間起源の二酸化炭素を大量に吸収していると言われていたんです。ところが人間がオゾン層を破壊したために、南極上空の西風が強くなってきています。それが今、どうも南極海の吸収を弱めているようです。

 深海には、海洋の生物が運んだ、たくさんの炭素があります。それが、西風が強くなることで変わった海流により、海面へとわき上がってきているようです。このような効果が強くなると、これまでに海がため込んでいた二酸化炭素を放出することになるかもしれません。

 ほかに、北極域での二酸化炭素の吸収も影響を受けるかもしれません。グリーンランド周辺では、メキシコ湾流が北上して冷たい空気と当たり、活発に蒸発が起こっております。すると表層の海水は高塩分になるので、比重が重くなり、海の底に沈んでいきます。その時、二酸化炭素を一緒に深層に輸送します。

 ところが温暖化すると、そこに雨が降るようになり、高塩分になりにくくなるので、深層水の形成が弱まり、海の吸収が変わってしまうかもしれません。

 海に関して、気候の変化とは直接関係はありませんが、今、皆が心配しているのが、酸性化の問題ですね。二酸化炭素は酸として働きますから、人間起源の二酸化炭素を吸収するということは、海が酸性化するということです。すると、海の化学的性質や、海洋生物、その活動が変わり、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えると考えられます。

 つまり、このようなフィードバックが、たくさんかかってくる可能性があるんです。


将来予測のために必要な基礎データを提供

―とても複雑なシステムですね。そのようなフィードバックまで全部考えなければならないとなると、将来の気候予測は非常に難しそうだと感じました。

 地球というのは、非常に複雑なシステムです。確かに将来の気候を予測することは簡単ではありません。正確な予測を行うためには、関係があるプロセスについて、現状をきちんと理解すると同時に、将来に起こるフィードバックについても理解しなければなりません。

 気候の将来予測は、モデルを使って行われます。モデラーは、ある条件を与えて気候モデルを走らせ、例えば「100年後、どれくらいの温暖化になりますよ」といった予測をします。

 その予測の正しさは、使用したモデルの性能だけでなく、条件として与える将来の温室効果ガスの濃度にも大きく左右されます。私たちの研究は、気候モデルにとって基礎となる、将来の濃度を正しく与えるために必要なものです。


対策を打つために必要な知識となる基礎データも提供

 それともうひとつ、気候モデルを走らせ、非常に深刻な状況が予想されるとなれば、対策を打たなければなりません。対策を打つためには、濃度の増加がなぜ起こっているのか詳しく知り、また、循環が将来どのようなるのかを、きちんと理解しないといけません。

 例えば、二酸化炭素の増加に化石燃料消費がどれくらい寄与しているのかとか。今は二酸化炭素の吸収源である陸上生物が、あとどれくらいで放出源にまわるのかとか。海が酸性化して行くと、海による二酸化炭素の吸収がどのようになるのかとか。メタンや一酸化二窒素は何から発生して、どのように消滅されるのか、それぞれの強さはいくらであるかとか。

 このようなことが分かると、我々の生活に深刻な影響を与えないようにするためには、これから先の温室効果ガスの放出をどの程度にすべきか、決めることができるわけです。


やればやるほど、地球の複雑さがわかってきた

 実を言うとね、1977年に研究を始めた頃、世界を対象に10年間くらい観測をして、その後でモデルをつくって解析したら、地球の二酸化炭素の循環はわかると思っていたんですよ。ところがどっこい。全然だめで(笑)。やればやるほど複雑で、これは大変だと思いましたね。

 ただ、最初にも言いましたように、77年当時と今では、温室効果ガスの循環に関する知識は大きく変わっています。この30年で理解は向上し、最初の頃に全く分からなかったことが分かるようになっています。

 あと、やっぱり地球は広いですね。我々は、一つの研究室としては、世界でも非常に稀なほどに幅広く研究をやっています。けれども、それでも追いつかないですね。ですから、国際協力も強力に進めています。


国際協力でやらないとできない

―広大な地球を対象にしているため、国際協力なしには十分なデータは得られないのですね。

 例えば我々ですと、日本のテリトリーは観測できますね。また、日本(国立極地研究所)は南極に昭和基地、北極にニーオルスン基地を持っていますから、そこへ依頼して観測することができます。けれども世界中に全て、手を伸ばすのは難しいですね。

 一方、アメリカはアメリカで、世界中を観測するのは難しい。ヨーロッパの国々も事情は同じです。ですから皆でデータを持ち寄って、研究を進めています。インタビューが始まる前に、アメリカの研究者からの共同研究の申し入れに対して、受け入れるという返事を書いているところでした(笑)

 相手(地球)が変化するのも大変ですよ。固定された地球であれば、時間さえかければ、訳ないのですけどね。こっちも変わるし、あっちも変わる。海は変わるし、陸も空も変化しています。気候が変わると、それでもまた変化する。それらを全部追いかけないといけないですね。

 海外出張に出かけると、「あそこからあれが出ているのかな?」と見えちゃう(笑)。シベリアの上空を飛行すると「メタンがかなり出ているな」とか ね。ソビエトが崩壊した翌年に、ロシア全土にわたって温室効果ガスの飛行機観測をやったんです。その時もなんて広いんだと思いましたが、それ以上に広い地球を相手にしな ければならないですからね。


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取材先: 東北大学      (タグ: , , ,

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