温室効果ガスの「循環」を地球規模で明らかにしたい
―そもそも中澤さんが研究を通じて明らかにしたいことは何ですか?
私は、気候モデルを開発しているわけではなく、地球温暖化を引き起こす原因である温室効果ガスの研究をしています。
人間が活発に活動していない時代、例えば300年前には、温室効果ガスは、どこかで出てどこかで消滅して、バランスしていました。だから、大気中の濃度も変わらず一定でした。
ところが、そこに人間が余分に温室効果ガスを出すものですから、そのバランスが崩れる。その結果、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素などの濃度が上昇しているわけです。
そのような濃度の増加がなぜ起こっているのか、理解したいのです。どこの地域で、どのような過程で、どれくらい出て、どれくらい吸収されているのか、その結果、大気にいくら残るのか。また、その放出や吸収の強さが、時間とともにどう変化しているのか、を知ることです。
これを「循環」と言います。その解明を地球規模でやることが、私の最大の興味です。
温室効果ガスによって変化した気候が、循環をくるわせる
これから先、地球は温暖化していくでしょう。すると、循環は、そのような気候変化によって影響を受けます。温室効果ガスは、気候に影響を与えますが、同時に、気候が変わると、自身も変化するのですよ。それは循環がくるってしまうためです。
例えば、陸上植物は光合成したり、呼吸・分解したりして、大気と二酸化炭素を交換しています。人間が二酸化炭素を出して大気中の濃度を上げ、温度を上昇させるでしょう。そうすると植物は、最初のうちは、二酸化炭素を活発に吸収するんですよ。今が、そういう状態です。
そのうちに、どんどん温度が上がっていくと、今度は、呼吸・分解の効果が勝ってきます。すると、今まで長い時間をかけて、植物がため込んできた炭素を吐き出してきますから、大気中の濃度は上昇し、ますます温度を上げることになっていきます。
気候が変わると、海も変わる
海も気候変化の影響を受けるでしょう。例えば南極海は、かつては人間起源の二酸化炭素を大量に吸収していると言われていたんです。ところが人間がオゾン層を破壊したために、南極上空の西風が強くなってきています。それが今、どうも南極海の吸収を弱めているようです。
深海には、海洋の生物が運んだ、たくさんの炭素があります。それが、西風が強くなることで変わった海流により、海面へとわき上がってきているようです。このような効果が強くなると、これまでに海がため込んでいた二酸化炭素を放出することになるかもしれません。
ほかに、北極域での二酸化炭素の吸収も影響を受けるかもしれません。グリーンランド周辺では、メキシコ湾流が北上して冷たい空気と当たり、活発に蒸発が起こっております。すると表層の海水は高塩分になるので、比重が重くなり、海の底に沈んでいきます。その時、二酸化炭素を一緒に深層に輸送します。
ところが温暖化すると、そこに雨が降るようになり、高塩分になりにくくなるので、深層水の形成が弱まり、海の吸収が変わってしまうかもしれません。
海に関して、気候の変化とは直接関係はありませんが、今、皆が心配しているのが、酸性化の問題ですね。二酸化炭素は酸として働きますから、人間起源の二酸化炭素を吸収するということは、海が酸性化するということです。すると、海の化学的性質や、海洋生物、その活動が変わり、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えると考えられます。
つまり、このようなフィードバックが、たくさんかかってくる可能性があるんです。
将来予測のために必要な基礎データを提供
―とても複雑なシステムですね。そのようなフィードバックまで全部考えなければならないとなると、将来の気候予測は非常に難しそうだと感じました。
地球というのは、非常に複雑なシステムです。確かに将来の気候を予測することは簡単ではありません。正確な予測を行うためには、関係があるプロセスについて、現状をきちんと理解すると同時に、将来に起こるフィードバックについても理解しなければなりません。
気候の将来予測は、モデルを使って行われます。モデラーは、ある条件を与えて気候モデルを走らせ、例えば「100年後、どれくらいの温暖化になりますよ」といった予測をします。
その予測の正しさは、使用したモデルの性能だけでなく、条件として与える将来の温室効果ガスの濃度にも大きく左右されます。私たちの研究は、気候モデルにとって基礎となる、将来の濃度を正しく与えるために必要なものです。
対策を打つために必要な知識となる基礎データも提供
それともうひとつ、気候モデルを走らせ、非常に深刻な状況が予想されるとなれば、対策を打たなければなりません。対策を打つためには、濃度の増加がなぜ起こっているのか詳しく知り、また、循環が将来どのようなるのかを、きちんと理解しないといけません。
例えば、二酸化炭素の増加に化石燃料消費がどれくらい寄与しているのかとか。今は二酸化炭素の吸収源である陸上生物が、あとどれくらいで放出源にまわるのかとか。海が酸性化して行くと、海による二酸化炭素の吸収がどのようになるのかとか。メタンや一酸化二窒素は何から発生して、どのように消滅されるのか、それぞれの強さはいくらであるかとか。
このようなことが分かると、我々の生活に深刻な影響を与えないようにするためには、これから先の温室効果ガスの放出をどの程度にすべきか、決めることができるわけです。
やればやるほど、地球の複雑さがわかってきた
実を言うとね、1977年に研究を始めた頃、世界を対象に10年間くらい観測をして、その後でモデルをつくって解析したら、地球の二酸化炭素の循環はわかると思っていたんですよ。ところがどっこい。全然だめで(笑)。やればやるほど複雑で、これは大変だと思いましたね。
ただ、最初にも言いましたように、77年当時と今では、温室効果ガスの循環に関する知識は大きく変わっています。この30年で理解は向上し、最初の頃に全く分からなかったことが分かるようになっています。
あと、やっぱり地球は広いですね。我々は、一つの研究室としては、世界でも非常に稀なほどに幅広く研究をやっています。けれども、それでも追いつかないですね。ですから、国際協力も強力に進めています。
国際協力でやらないとできない
―広大な地球を対象にしているため、国際協力なしには十分なデータは得られないのですね。
例えば我々ですと、日本のテリトリーは観測できますね。また、日本(国立極地研究所)は南極に昭和基地、北極にニーオルスン基地を持っていますから、そこへ依頼して観測することができます。けれども世界中に全て、手を伸ばすのは難しいですね。
一方、アメリカはアメリカで、世界中を観測するのは難しい。ヨーロッパの国々も事情は同じです。ですから皆でデータを持ち寄って、研究を進めています。インタビューが始まる前に、アメリカの研究者からの共同研究の申し入れに対して、受け入れるという返事を書いているところでした(笑)
相手(地球)が変化するのも大変ですよ。固定された地球であれば、時間さえかければ、訳ないのですけどね。こっちも変わるし、あっちも変わる。海は変わるし、陸も空も変化しています。気候が変わると、それでもまた変化する。それらを全部追いかけないといけないですね。
海外出張に出かけると、「あそこからあれが出ているのかな?」と見えちゃう(笑)。シベリアの上空を飛行すると「メタンがかなり出ているな」とか ね。ソビエトが崩壊した翌年に、ロシア全土にわたって温室効果ガスの飛行機観測をやったんです。その時もなんて広いんだと思いましたが、それ以上に広い地球を相手にしな ければならないですからね。
コラボレーション
おすすめ記事
【特集】宮城の研究施設 一般公開特集 |
【特集】仙台市総合計画審議会 仙台の10年をつくる |
【科学】科学って、そもそもなんだろう?
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 【大草 芳江|東北大学|科学って、そもそもなんだろう?】
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 【大草 芳江|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?|防災科学技術研究所】
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 【大草 芳江|弘前大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
日野亮太さん(東北大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.02 【大草 芳江|東北大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
同じ取材先の記事
◆ 東北大学
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 【大草 芳江|東北大学|科学って、そもそもなんだろう?】
日野亮太さん(東北大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.02 【大草 芳江|東北大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
【レポート】東北大学未来科学技術共同研究センター創立20周年記念講演会/中鉢良治さん(産総研理事長)招待講演「豊かな社会とは?-科学技術の視点から-」 2020.06.05 【大草 芳江|東北大学|科学って、そもそもなんだろう?】
科学って、そもそもなんだろう?
最新5件
地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 | |
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 | |
■記事一覧を表示 記事カテゴリ > 科学って、そもそもなんだろう? |
カテゴリ
取材先一覧
■ 幼・小・中学校
■ 高校
- ・仙台一高 (15)
- ・仙台二華 (14)
- ・仙台二高 (12)
- ・仙台城南高校 (5)
- ・仙台城南高等学校 (0)
- ・仙台高専 (4)
- ・宮城一高 (4)
- ・宮城県高等学校理科研究会 (2)
- ・岩ケ崎高 (1)
- ・東北工業大学高校 (0)
■ 大学
■ 国・独立行政法人
- ・内閣府 (1)
- ・宇宙航空研究開発機構 (5)
- ・文部科学省 (0)
- ・東北経済産業局 (17)
- ・水産総合研究センター東北区水産研究所 (1)
- ・理化学研究所 (3)
- ・産業技術総合研究所東北センター (36)
- ・科学技術振興機構 (1)
- ・防災科学技術研究所 (1)
- ・高エネルギー加速器研究機構 (1)
■ 自治体
- ・仙台市 (8)
- ・仙台市博物館 (4)
- ・仙台市天文台 (12)
- ・仙台市教育委員会 (13)
- ・仙台市産業振興事業団 (1)
- ・仙台市科学館 (8)
- ・仙台文学館 (2)
- ・仙台管区気象台 (2)
- ・塩釜市 (3)
- ・宮城県 (8)
- ・宮城県古川農業試験場 (2)
- ・宮城県教育委員会 (1)
- ・宮城県農業・園芸総合研究所 (1)
- ・気仙沼市 (1)
- ・登米市 (1)
■ 一般企業・団体
- ・DIC株式会社 (2)
- ・K sound design (1)
- ・KDDI (2)
- ・natural science (1)
- ・せんだい・みやぎNPOセンター (2)
- ・てとてと (1)
- ・ひのき進学教室 (11)
- ・みやぎ工業会 (8)
- ・みやぎ工業会会長 (0)
- ・みやぎ産業振興機構 (3)
- ・アスター (1)
- ・インスペック (1)
- ・エツキ (1)
- ・ソニー (3)
- ・ソニー教育財団 (1)
- ・ソフトバンク (1)
- ・ティ・ディ・シー (1)
- ・デュナミス (1)
- ・ドットジェイピー (1)
- ・ナノテム (1)
- ・ハリウコミュニケーションズ (3)
- ・ハード工業有限会社 (1)
- ・フジイコーポレーション (1)
- ・プレファクト株式会社 (1)
- ・ヤマダフーズ (1)
- ・全国学習塾協会 (3)
- ・公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン (1)
- ・勝山酒造部 (1)
- ・及源鋳造株式会社 (1)
- ・大武・ルート工業 (1)
- ・太白少年少女発明クラブ (1)
- ・宮城の新聞 (0)
- ・宮城県中小企業家同友会 (1)
- ・宮城県産業人クラブ (0)
- ・宮城県職業能力開発協会 (1)
- ・宮城県酒造組合 (2)
- ・工藤電機 (2)
- ・平孝酒造 (1)
- ・応用物理学会 (2)
- ・新東総業株式会社 (1)
- ・日刊工業新聞社 (7)
- ・日本アンドロイドの会 (1)
- ・日本技術士会 (2)
- ・日本私立大学団体連合会 (1)
- ・日本農芸化学会東北支部 (1)
- ・日本IBM (3)
- ・日東イシダ (1)
- ・有限会社 柏崎青果 (1)
- ・東京エレクトロン宮城 (1)
- ・東北ニュービジネス協議会 (1)
- ・東北活性化研究センター (3)
- ・東北経済連合会 (1)
- ・東北電力 (2)
- ・東北電子産業株式会社 (1)
- ・東栄科学産業 (1)
- ・林精器製造 (1)
- ・株式会社三栄機械 (1)
- ・株式会社悠心 (1)
- ・河北新報 (1)
- ・神田産業株式会社 (1)
- ・秋田化学工業 (1)
- ・笹氣出版印刷 (1)
- ・米鶴酒造 (1)
- ・萩野酒造 (1)
- ・農芸化学会 (1)
- ・遠藤工業 (1)
- ・鈴木製作所 (1)
- ・阿部蒲鉾 (1)
- ・阿部蒲鉾店 (1)
- ・鳴子の米プロジェクト (1)
- ・NECトーキン (1)
特別企画 「宮城の塾」
学習塾から見る 宮城の教育の「今」 塾選びに一役 |
【科学って、そもそもなんだろう?】 若手研究者座談会「地震学×情報科学の融合で得られたもの」 2024.09.16 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 【同窓生に聞く#01】中鉢良治さん(元ソニー社長、産総研最高顧問)がリアルに感じていることって、何ですか? 2022.10.27 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 |
記者ブログ
ひとり新聞社「宮城の新聞」の大草よしえが衆院選に立候補 2021.10.19 | |
最近の活動は「Twitter」に移行しました 2019.11.01 | |
【追記】テレビ朝日「モーニングバード」スタジオ生出演&iCAN'15世界大会(アラスカ)世界第1位! 2015.06.19 | |
2014年の振り返りと、2015年の抱負 2015.01.05 | |
平成25年度を振り返りました・・・。 2014.04.02 |
中野塾(泉中央・北高森) | |
ひのき進学教室(泉中央・長命ヶ丘・八幡教室・上杉教室) | |
夢学館(東照宮・福室) | |
早稲田育英ゼミナール(泉中央) | |
ソーメック個別学習院(若林区、太白区、泉区に6教室) | |
明和塾(北山・八木山) | |
JUKU ペガサス仙台南光台教室(南光台南) |
アクセスランキング
- 【宮城の塾】 宮城の塾 仙台市を中心とした学習塾・幼児教室・進学塾の特集
- 世界中の研究者が憧れる研究拠点へ/東北大学WPI-AIMR本館竣工記念式典/科学って、そもそもなんだろう?
- [vol.1] 第1回宮城の日本酒を楽しむ会/社会って、そもそもなんだろう?
- 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~/社会って、そもそもなんだろう?
- 宮城県仙台第一高等学校/教育って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 ひのき進学教室(泉中央本部教室・八幡町教室・上杉教室・五橋教室・長町教室・愛子教室・吉成教室・大和町教室、他)
- 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く)/科学って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 JUKU ペガサス仙台南光台教室
- 【宮城の塾】 質問できます!/宮城の塾|宮城の新聞
- 【宮城の塾】 明和塾(北山教室・八木山教室)