日本IBM社長・橋本孝之さんインタビュー 「ITを使って、地球をより賢く、よりスマートに」
2010年06月14日公開
地球規模の課題をIT(情報技術)の活用により解決し、地球をより賢く(スマートに)していく、IBMのビジョン「Smarter Planet」について、日本IBM社長の橋本孝之さんに聞いた。
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良き企業市民であれ
―そもそもIBMは、環境というものをどのようにとらえているのでしょうか?
ふたつの大きな方向があります。ひとつ目は、IBM創立以来の伝統としてある「良き企業市民であれ」という考え方です。
IBMはアメリカの会社ですが、例えば日本に出てきて事業活動を行わせていただく上で、その国のお客様から単に利益をいただくだけでなく、事業活動を行っている国や地域に対して、それを返していきましょう、という発想がもともとあるのです。
ふたつ目は、IBMはIT(情報技術)のリーディングカンパニーとして、社会や地球を常に視野に入れ、ITを利活用することで、環境そのものに貢献できないかという考え方です。
ITで環境に貢献する
―「ITを利活用した環境への貢献」とは、具体的にどのようなことですか?
例えば、電気の問題。これまで電力全体の電力網を制御するしくみは、なかなかありませんでした。発電側である電力会社は制御できるのですが、使う側は制御できなかったわけですね。
これまで電力会社は、必要に応じて火力や原子力などの発電所を、(電力消費の)ピーク時に合わせて、どんどんつくってきました。ところがITを使って、使う側でコントロールできれば、最大の電力消費にあわせて発電所などをつくらなくて済むようになります。
すると、(電力会社の)投資額が少なくて済みますね。それによって、CO2排出量も減るし、電力に使っているいろいろな資源も使わずに済みます。要するに、それだけでもバランスがとれて、より良くなるでしょう。
あるいは、これから風力や太陽光などの自然エネルギーをどんどん取り入れていこうとすると、電力網が不安定になるという問題があります。
火力や原子力発電の場合、定常的にまわっているので、電力を安定的に供給できるのですが、例えば風力や太陽光発電の場合、風がやんだり曇ったりすると、瞬時に電力が落ちてしまうのです。
けれども、そういうものをITでコントロールすることがもっとできるようになれば、非常に品質の高い電力網の中に、新しい電気をどんどん入れることができます。
すると、化石燃料の使用量が減って、CO2排出量が削減されて、地球の資源をそのまま保持することができます。そのような意味で、技術革新がもたらす効果は非常に大きいということです。これは、ひとつの例ですよ。
ほかにも、天気をコンピュータでもっと予測できたとすれば、「○日に植えて○日に収穫すれば、収穫量が最も増えます」といったコントロールもすることができます。それによって、作物の一番最適な生育を見ることもできるでしょう。
あるいは、自動車の渋滞問題。コンピュータを使って、ある地域内に入る車に対して課金することにより、流入する車の数を減らすことができます。それによって、排気ガスそのものを削減し、CO2排出を削減する。こういうこともできるようになりますよ。
つまり、ものすごくいっぱい分野があると思うのです。
都市をスマートに
―現時点で、IBMではどれくらいの分野を把握できているのですか?未知の分野もあるのですか?
未知の部分もいっぱいありますよ。けれども、この一年半取組んできた段階で、どのようなところに投資をしていけばよいのか、かなりの部分でわかってきました。
やはり、これから一番考えなければならないことは、どんどん都市に人口が集中していくということ。今、地球上には約60億人の人が住んでいますが、2050年には、地球の総人口の約70%にあたる約64億人の人が、都市に住むだろうと言われています。
都市化がどんどん進んでいけば、交通問題や環境問題といったさまざまな課題に直面することになります。すると、ITを使って、都市をスマートにしていくことが、どんどん必要になってくるわけです。
もっともっとITを使えば、都市に住んで、少ないエネルギーでかつ利便性が高まり、生活がしやすくなる。そのような都市環境をつくることが、大きな夢ですね。
つまり、地球規模の課題をITの利活用により解決し、地球をより賢くしていく「Smarter Planet」というビジョンを、より身近で具体的なものにする施策の一つとして、「Smarter Cities(都市のスマート化)」といったことをやっているのです。
―「Smarter Cities」とは、具体的にどのようなものですか?
例えば、交通。交通機関そのものをコンピュータでもっとコントロールすれば、例えば、乗客がいなければ迂回してくるとか、いろいろなコントロールができますよね。
教育も、そうですね。遠隔地でもインターネットを使いながら教育をしていく。それも双方向でやることができます。
それから、医療も。例えば医療画像などのデータを、医療機関の壁を越えたネットワーク内(クラウドコンピューティング)で共有し、それをいろいろな病院で見ることができれば、医療そのものが、もっともっと楽になります。
例えば、近くの病院で診察してもらって、大学病院に行くと、同じ診察をもう一回しなければいけませんよね。けれども、それがデータベースで共有できていれば、大学病院はそれを検索するだけで済みますよね。
市という意味では、行政サービスもそうです。例えば、結婚をすると、行政にたくさんの申請をしなければなりませんよね。保険証や年金、住民票も本籍も印鑑登録も、たくさん変えなければなりません。
それを一箇所で手続きすれば、銀行も何もかも一斉に変わるようなしくみができます。すると、いちいちそれぞれの窓口に行かなくて済むでしょう。これもITの世界です。もう実際に、世界ではできているところがあります。そういうことをやっていきましょう、ということです。
―特に最近は、例えば、行政サービスもよりコンパクトに、かつ個々の多様なニーズに対して、どう対応するかが課題と聞いています。ITは個々の多様なニーズに合わせて細やかに、かつ効率的にコントロールできる印象を持ちました。
そうですね。行政も標準化してしまえば、すべての市に同じ機能がなくても、例えば、いくつかの市で、住民登録のシステムを共有して使えば良いのですよね。
行政が本来やらなければいけないのは、宮城県なら宮城県で考えられるような税金、例えば環境税を課して、それを投資するという、企画の仕事です。
一方、日々やっているような事務的な処理は、例えば道州制のように、東北全体で7県が集まり、ひとつのシステムを一緒に使ってやれば、大きなインフラコストを抑えることができます。
それで税金の歳出が下がれば、その分のお金を使って、もっと新しいことに投資できますよね。そういうことも当然、お考えになっていくことでしょう。
ITに無限の可能性
―今このようなことが実現できるようになった前提に、何があるのでしょうか?
3つのテクノロジーがあります。
一つ目は、携帯電話やICチップなどで、どんどん勝手に情報発信できるようになったことが大きいですね。携帯電話もGPSを発信しているので、どこを歩いているか、わかるでしょう?今では車にも発信機がついていて、車がどこを走っているかわかりますよね。
これから、もっともっと、そういうものが入ってくると思うのです。将来、服といったようなものにもつくでしょう。すると、あなたが今どこを歩いているか、全部わかってしまいます。このように情報を勝手に発信する機能が、ものすごく安くできるようになりました。
二つ目は、その発信されるデータを集めるためのインターネットが、とても安くなったこと。インターネットは携帯電話にも使われていますね。インターネットによって、大量のデータを安く集めることができるようになりました。
三つ目は、それを解析するコンピュータの能力が、桁違いに速くなったことです。
この三つを英語で言うと、「Instrumented(機能化)」、「Interconnected(接続)」、「Intelligent(インテリジェント)」。ですから、三つのIと呼んでいます。この三つのが揃うことによって初めて、今まで言ったことが実現できるということです。
―お話をうかがって、ITが持つ可能性の大きさを感じました。
そうですね。まだまだいっぱい、広がりはあるのですよ。
例えば、バリアフリーの話。障害を持っていてホームページが読めない人や、字が読めないインドなどの後進国の人たちに、音声でインターネットから読みあげる技術。他にも、いろいろなものがあります。
人を豊かにするための技術ですよね。そのような意味では、ITには無限の可能性がありますよ。
Moving to the Future!!
―最後に、小中高生の読者へメッセージをお願いします。
ひとつは、環境という問題は、誰かがやっくれるものではなく、自らやるものです。ですから、学校で勉強したり、遊んだりするのと同じように、環境というものを考えなければいけません。
なぜなら、地球という小さな一つの星に、人類60億人が住んでいます。『地球丸』という船だと思ったら良いですね。地球丸が沈没しないためには、自ら行動を起こすことが重要です。そのために課せられた義務なのですね。
もうひとつは、ITの世界で言うと、ITを利活用すれば、もっともっとできることがあります。そのような希望を持ち、アイディアや智恵をどんどん発信してください。それによって、いろいろなことができるはずです。
例えば、小中学校でも、パソコンや携帯電話を皆持つ時代です。そういうものだけでも、いろいろな情報を取ることができるし、いろいろなことができると思うのですね。
皆さん、未来に向かって、頑張りましょう。
Moving to the Future!!
―橋本社長、本日はありがとうございました。
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