新・博士をパーティーでお祝い 東北大・物理学専攻
2009年02月23日公開
専門の異なる人でも理解できるよう、かつ発表者本人が楽しんで発表できるよう、新博士9名が講演
4年制大学を卒業し、大学院の博士課程に在籍して学位論文に合格することで取得できる、日本の最上位の学位・博士(はくし)。そもそも博士とは、どのような人なのか。新しい博士誕生を祝うパーティーで聞いた。
博士課程後期への進学率を増加させ、専攻の研究を活性化させようと、東北大学大学院理学研究科物理学専攻では、新博士による講演会と祝賀会を昨年度から開催している。
新博士による講演会は、フィギュアスケートに例えれば、エキシビションに当たるもの。専門の異なる人でも理解できるよう、かつ発表者本人が楽しんで発表できるよう、新博士9名が講演した。講演会には専門の枠を超え、院生や教員、OBらが参加し、同専攻のアクティビティと物理学最前線を楽しんだ。
新博士と昨年度より創設された物理学専攻賞受賞者を祝うパーティーのようす
講演会に引き続き、新博士と昨年度より創設された物理学専攻賞受賞者を祝うパーティーが開催された。物理学専攻賞には、黒鉛超伝導のメカニズムを解明した菅原克明さんなど博士2名、修士4名が選ばれ、山口昌弘専攻長から賞状と記念メダルが贈られた。
山口専攻長は「メダルも賞状も手づくりの賞。賞の価値は、受賞された方が、どう活用されるかで決まっていく。これまで物理で学んだ考え方をいかし、様々な分野で益々活躍されることを期待している」と話している。
新・博士(物理学専攻賞受賞者)に聞く
◆菅原克明さん(博士課程後期3年)
略 歴 | 仙台市立岩切中学校、宮城県仙台第三高等学校、東京理科大学を経て、同専攻へ進学 | |
担当教官 | 高橋隆教授(光電子固体物性研究室) | |
論文題目 | 「高分解能光電子分光によるグラファイト、グラフェン、C6Caの電子構造の研究」 |
―研究内容について教えてください
鉛筆の芯にも使われる黒鉛。黒鉛は様々な物性を示すのですが、その中でも特に、「超伝導」という現象がなぜ起こるのかを解明しようと、実験によって研究を進めてきました。
黒鉛に金属等を挿入すると、電気抵抗がゼロになる現象や、磁石を近づけるとぷかぷか浮かぶマイスナー効果と呼ばれる現象があらわれます。
これらの現象を超伝導と言いますが、なぜそのような現象が起きるのかを解明する新しい情報を得るために、実験を行いました。
研究の結果、超伝導になる原因は、黒鉛自体がそれを担っているのではなく、新たに加えた金属が重要な役割を担っている可能性があることがわかりました。
超低温に冷やさなければ超伝導は出てきませんが、2005年、超伝導転移温度が高い温度で出てくることが報告され、最近、超伝導のメカニズム解明に興味が持たれていました。
本研究ではその起源を見出し、黒鉛だけでは超伝導にはならないこと、金属に関係したものが重要だということを突き止めたのが、一番のトピックスです。
―研究生活を振り返り、何を思いますか?
いろいろな意味で、運が良かったです。
まずは、先生方に恵まれたこと。もうひとつは、2005年これまで絶対温度で2K程度だった超伝導転移温度が、金属を挿入すると11.5Kに上昇することが新たに報告されたことで、研究室にある実験装置で調べることができたことが大きかったですね。
―その中で、心の中軸においてきたことは?
ちょっとでもうまくいきそうだと思ったら、何も考えずに突き進めていくこと。諦めないでやることですね。
―これからどうありたいですか?
これからも研究を、諦めずにやることです。
―進路について教えてください
研究員として、同研究室に一年間お世話になる予定です。
◆齋藤充さん(博士課程後期3年)
略 歴 | 岩手県生まれ、山形大学、同専攻へは博士課程後期から編入 | |
担当教官 | 有馬孝尚教授(強相関固体物性研究室) | |
論文題目 | 「非反転対称磁性体における電気磁気光応答の研究」 |
―研究内容について教えてください
物質の色を磁場で変えようという「磁気光学効果」という研究です。磁石を近づけると、透明なものが、がらっと真っ黒に変わってしまう、そんなイメージです。
磁場で光応答を変える研究は昔から行われていましたが、今までは使えないと言われていた物質でも、実は使えるかもしれない、ということを見つけました。
研究では、色々な物質をつくって、色々測定して、実用化のためには、このような機構が必要だということを研究します。
ただ、「実用化」という言葉を使ってはいますが、動機としては、物の性質を知りたい、その結果として実用化できたら良いな、という気持ちで研究しています。
―研究生活を振り返り、何を思いますか?
大学院博士課程後期で東北大学に編入したため、最初は何もわからない状態でした。さらに実験装置がひとつもなかった状態でしたので、それを1からつくるのが大変でしたね。
東北大学に編入した理由は、東北大の設備環境の良さ。どうせ3年やるのなら新しいことをやろうということで、研究内容もがらりと変えました。
―その中で、心の中軸においてきたことは?
昔はお金がない研究室にいたので、実験ができること自体、幸せなことだと思ってきました。それだけは5年間、思い続けたことですね。
また、できるだけ自分ひとりで実験装置をつくってやろう、とも思っていました。もともとあった装置を使った人と、1から自分で装置をつくった人とでは、最終的に、装置に関する知識が全く違います。
自分でつくれば「この装置にはこんな癖がある」とわかるので、ある実験データが得られたとき、それが物質によるものなのか、それとも実験装置によるものなのかを、すぐに判断することができます。
このような考え方も、すべて先生に教えて頂きました。先生に恵まれた5年間だったと思います。
―どのような点に魅了されたのですか?
物の性質に興味を持ちました。物理は、素粒子に代表される「デカい」研究と、物性に代表される「ちまちま実験する」研究に大別されると思いますが、自分は「ちまちま実験する」ことが好きだったんです。
やはり物性は、自分で実験内容も考えて、自分で測定して、全部一人でできます。それが一番良いところですね。
―進路について教えてください
ニコンに就職します。光やレンズ関係の研究をすることになると思います。
―これからどうありたいですか?
今までは一人で研究をしてきましたが、これからは色々な人や、異分野の人とも仕事をしたいと思ったのが、自分が就職した理由です。色々な人と研究すると、色々な考え方ができて楽しいだろうし、これからは多くの人と研究していきたいと思っています。
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