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2024年 11月 21日 (木)

登米市長の布施孝尚さんに聞く:社会って、そもそも何だろう? 取材・写真・文/大草芳江

2015年9月1日公開

元気な未来をつくるのは、
社会を構成する一人ひとりの主体性

布施孝尚 Takahisa Fuse
(宮城県登米市長)

1961年生まれ。宮城県佐沼高等学校卒、日本大学歯学部卒。歯科医師。2005年に登米市長選挙で初当選(当選3回)。

 「社会って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【社会】に関する様々な「人」をインタビュー。 その人となりをまるごと伝えることで、その「人」から見える「社会とはそもそも何か」を伝えます。
布施孝尚さん(宮城県登米市)から未来を担う中高生へのメッセージ。「元気な未来をつくるのは、社会を構成する一人ひとりの主体性」と語る、布施さんの思いとは。


布施孝尚さん(登米市長)に聞く


■社会とは人との関わり合い

―布施さんがリアルに感じる社会って、そもそも何ですか?

 社会と聞いてイメージするのは、「人との関わり」です。「人は一人では生きていけない」とよく言われます。しかし今、それを本当に実感している人は、どれだけいるでしょうか。昔と比べて、人との関わり合いが少なくなる中、人間関係は希薄化しています。

 一方、東日本大震災を経験し、人と人のつながりの大切さを改めて感じ、人のつながりによって、困っている人たちに手を差し伸べる自発的な行為も生まれたと思います。

 そんな時間変化の中、社会活動をする人たちが増えています。ただし、それは昔のままの形ではなく、今の時代の中でまた新しく生まれています。社会は常に動いているのです。

 現時点での様々な不平や不満がこれからもずっと続くかと言えば、そうではありません。しかし、それをつくっていくのは社会を構成する一人ひとりだということを、中高生には、しっかり認識して欲しいと思います。


■自ら関わる姿勢と視点

 一つは、選挙の投票率がどんどん下がっています。その理由は「どうせ投票したって、変わらないから」。皆さんそう言われますが、私はそうではないと思います。誰かに委ねる選択肢だけでなく、自ら関わっていく選択肢も必要だと思います。

 社会とは、自ら関わりを持とうとしなくても一定程度の関わりがあるものです。しかし、それだけで社会が営めるかといえば、そうではありません。それが今の時代の大きな課題でしょう。

 だからこそ、自分ができることはしっかり関わる姿勢と視点を一人ひとり持つことが、大切ではないかと思います。


■アンテナを高く持て

 もう一つは、アンテナを高く持て、と中高生に伝えたいです。なぜならば、情報は氾濫しているといえども、それをキャッチできるかが今、問われる時代だからです。

 情報格差は今、世界中でなくなりつつあります。今から10~20年前であれば、例えば、発展途上国では情報すら届く手段がありませんでしたが、今はインターネットで世界中、誰でもアクセスできる状況にあります。

 実は、これからの社会は、発展途上国というのはなく、世界中どこでも同じような情報が取れる時代になります。その中で関心を持たない社会、関心を持てない国は、どんどん取り残されていってしまうでしょう。

 そして、社会を良くするために、多くの人の目と意思をしっかりあらわしていくことが必要だと思います。

 色々な社会の中で求められる強いリーダシップとは大きな責任を持つことだと思います。しかし、その責任を果たすには、やはり多くの人の意思や思いをしっかり感じ取ることも必要ですし、また声を上げなければ伝わらないと思います。

 だからこそアンテナを高く持つこと。そして自らも考えをしっかりと持ちながら、その考えをどのように発信するかという視点を、ぜひ持って欲しいと思います。


■大きな責任と自覚が求められる

 学生時代の勉強には、答えがあります。しかし社会に出ると、答えはありますが、満点の答えはほぼないと言ってよいでしょう。

 つまり、社会に出ての勉強には終わりが無いということ。その努力を続けていく、そして先人がその努力を続けてきたという結果が、今の社会だと思います。

 これからの社会をつくるのは、では誰でしょうか。それは今、中学生である皆さんです。もちろん私も該当しますが、私が社会に関われる時間は、60年定年とすれば、あと7年しかありません。

 中学生の皆さんがこれから社会に出て、この社会をつくっていく時間がどれだけあるか。その大きな責任と自覚が求められると思います。

 社会は誰かにお任せするものではなく、自ら考え、自ら発言し、必要があれば行動する、そのように心掛け、努力しなければ、本当に未来をつくっていくことはできないと思います。


■地域の元気を生み出す素は、主体的に考える人を如何につくるか

 地域を元気にする取り組みのひとつとして企業誘致が挙げられますが、それでは、企業誘致そのものが地域にとって元気が出る素か?と聞かれれば、私はそうではないと思うのです。地域の元気を生み出す素は、主体的に考える人を如何につくるかだと思います。

 例えば、スケートボードが好きな若者がいたとします。でも、それをやる場所がない。そこで、皆に「つくって欲しい」と働きかけるのか、それとも仲間を募って皆でつくろうとするのか。色々なやり方があります。

 自分が結局動かずに「何もしてくれない」と嘆く暇があるのなら、「どうやったらできるだろう?」と考える人になって欲しい。そういうことを考え出すと、すごく人生が楽しくなる。僕はそんな気がします。


■沢山の人と出会い、出会いを大切にして欲しい

 もう一つは、沢山の人と出会って欲しいということ。それは同級生だけとは限りません。若者の特権は図々しさだと思うので、例えば「この人に会いたい」と興味を持ったら、具体的に行動してみる。そんなアクティブさが必要だと思います。

 「チャンスはどこにでも転がっている」といえども、じっとしていたら、チャンスは来ません。人との出会いもありません。

 人は人によって磨かれるとよく言われますが、本当に人との関わりをしっかりもちながら、出会い続けていくことが、すごく大切なことだと思います。

 私は、はじめから立派な人はいないと思っています。僕が子どもの頃を考えてみても、決して優等生ではなかったし、同級生からは「お前なんで市長やっているの?」と言われます。

 けれども、いろいろな人との出会いによって気づきが生まれ、「こんな人になってみたい」「あの人のような仕事ができたらいいな」などと一つひとつ気づき、そういった思いを持ちながら、少しずつ勉強していったのではないかと思っています。

 「夢を持て」と言った時、ずっと先の夢だけ見るとなかなか到達しないと思うんですね。ですから僕は、身近な尊敬できる人のようになりたいと願いながら、また新しい出会いを通じて、少しずつ勉強させていただいたのが、一番の大きな経験だと思います。

 ですから、積極的に人と出会う機会をつくり、そして、その出会いを大切にして欲しいです。


■「どうやったら市長になれますか?」

 こんな質問を去年、中学生から受けました。「どうやったら市長になれますか?」と。

 私は、「市長になる方法はわからない。でも一つ僕が一番大事にしていることは、出会いを大切にすること。そして、信頼し合える人間関係をつくる努力を怠らないこと」と、答えました。

 例えば、選挙で僕に投票した人の中で、僕のことを本当に知っている人はどれだけいるかと言えば、全員ではないわけですね。

 僕を知らない人でも僕に投票してくれる。その理由は、その人の信頼している人が、僕を応援してくれているから、じゃあ応援してみよう。そんな人の輪が広がって選挙はあると思うのです。だからこそ、人との関わりを大切にすることが、とても大事だと思います。

 そこには、僕の友人・知人だけではなく、父や母、亡くなった祖父や祖母の人間関係もあります。「あの人の息子さん・お孫さんだから」ということもあります。自分の努力ではない部分で、今の自分があることを忘れてはいけないと思っています。


■便利になった分、人間関係が希薄化した

 実は、便利な時代になったことが、人間関係を希薄化させた大きな要因だと思っています。例えば、僕が子供の頃、僕がお使いに行かなければ、お味噌汁の具材や納豆がありませんでした。なぜならば、母や祖母は炊事が忙しいから。

 今のようにボタンを押せば何かができる時代ではなく、大変手間のかかった時代でした。だからこそ皆が協力してお手伝いをして、家庭が成り立ち、社会が成り立っていたのです。

 でも今の社会も、実は同じなんですよね。今は目には見えないけれども、例えば、震災の時によく見えたのが、電気が来ない・水道が止まった・ガスが使えない。今まで使えて当たり前だったものが、使えなくなった。でも、それはなぜなのか。

 今まで目に見えない形で、そこで働いている人たちの仕事があって、電気が途絶えないように、水道が途絶えないように、ガスが途絶えないように、多くの皆さんの力で支えられていた。

 でも今は、機械化と近代化が進み、それがあまりに表に見えなくなった結果、社会の中で多くの人に支えられている姿が見えにくくなっています。

 でも僕らの目には見えないさまざまな人たちとの大きな関わりの中で社会は成り立っているわけですよ。そのことを我々はきちんと認識するということ。ですから、世の中に不要と言われる仕事は何もないのです。

 自分たちの暮らしが多くの人に支えられているというアンテナをしっかりと持つこと。そして、その中で、自分たちができる社会的な役割を果たすことが大切だと思っています。


■興味を持つことから始まる

 科学、僕はすごく大好きなんです。実験が本当に楽しかったですね。今は、多くのことが解明されていると言われますが、まだまだ知らないことはいっぱいあります。「なぜ?」とたくさん疑問を持ってもらうことが、これからすごく大切だと思っています。

 人の成長は、興味を持つことから始まると思うんです。「人間は考える葦である」と言います。どうして考えるかというと、「なぜ?」と疑問に思うから、考えるわけですよね。それをしなければ、動物と一緒になってしまいます。

 昔の人達に比べて今の人達は「知識はあるけど、知恵がない」とよく言われます。なぜならば、今の便利さをただ享受するだけで、その便利さに裏付けられているものを知っている人は非常に少ないからです。

 昔の人は、今の色々な情報は知らないかもしれない。でも、人が生活していくための知恵、生き抜くための知恵を、ものすごくたくさん持っていたと思うんです。

 東日本大震災で田舎がなぜパニックにならなかったか。それは、ある意味、生き抜くための知恵を知っていたから。例えば、水道が止まっても、飲んで健康を害さない程度の水づくりができたり、食べ物がなくなっても、こう料理すれば食べられるという知恵だったり。

 そういう知恵をしっかりと我々は知っておかなければいけないし、一人ひとりが知恵袋を持つ取組みを進めたいと思っています。


■自分たちは社会の一員

 実はね、僕は子どもの頃、太陽系の模型と原子構造を見た時、同じだなと思ったんです。そして、もしかすると人の体の細胞も、原子構造一つひとつが宇宙かなと思ったんですよ。じゃあ、もしかしたら、僕の体には無数の宇宙があるかもしれないと思ったら、宇宙や星に興味が湧いたんです。

 変な話ですけど、僕の体そのものが、この社会が、実は何か他の生物の細胞の一個かもしれない、すごいなって思ったことがあるんです。そういった意味では色々なことに興味を持ちました。

 やはり自分たちが社会の一員ということ。その中で、自分たちができることをしっかり取り組める社会。また、取組むことによって、ひとり一人の夢や想いが叶えられる社会をつくることが今、我々にとって大切なことだと思っています。


■口に出せば、具体的な一歩につながる

 ですから、ドラえもんのフレーズじゃないですけど、「あんなこといいな、できたらいいな」を、皆で口にすることが大切だと思います。

 僕は、地元の中学生の子どもたちに「思ったことは口に出せ」と言っています。夢や希望、叶えたいことは、できれば人に言った方がいい。もし人に言えないなら、鏡を前にして、自分に対して口に出せ、と。

 後から「あんなこと思っていたんだけどね」なんて言っても何も始まらない。想いは形にするためのものだから。そのためには、まず口に出すこと。

 一つ口に出せば、具体的な一歩につながります。夢だけでは、ただの憧れや思いだけで終わってしまいます。しかし、それが自分の体から外に出た瞬間に、具体的に動き出す一歩となるのです。

 それを人に伝えても、その人は協力してくれないかもしれない。もしくは、協力するために必要な情報を持っていないかもしれない。けれども、多くの人に伝えていくことによって、色々な形で、人との出会いのきっかけやチャンスがたくさん生まれてくるのだと思います。


■勇気と友人と心身の健康

 夢や希望、叶えたいことは、形にすべきですし、思いを形にするためには、まず自分の体から外に出すことが大切だと思います。

 そして科学とは、その思いを具体的な形にするために必要なツールだと思います。ただ、その研究は必ずしも成功するわけではありません。

 錬金術が昔のヨーロッパで流行りましたが、誰も金をつくれませんでした。そして今でもつくれていません。しかし、その夢を描いたからこそ色々な発明や発見が生まれました。

 科学は100%いつも成功するわけではありません。けれども失敗することで、成功へと一歩でも近づく試みが生まれてくると思います。

 だからこそ子どもたちには「失敗を恐れない勇気を持て」と言いたい。けれども、失敗し続ければ、絶対に挫ける時が来ます。その挫けた時に支えてくれる仲間をつくりなさい。

 それを成し遂げるためには、自分自身が心も体も健康でないといけません。だからこそ、勇気と友人、自分と周りの人たちの健康に対して配慮する人になって欲しいです。

―布施さん、本日は大変お忙しい中、ありがとうございました

取材先: 登米市      (タグ:

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