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2024年 10月 13日 (日)

「生まれたての宇宙」再現実験、東北が候補地に/3月15日国連防災世界会議でILC講演会

2015年2月5日公開

宇宙の謎を解き明かす/山下了さん(東京大学准教授)に聞く

山下了さん(東京大学准教授・ILC戦略会議議長)

 宇宙の年齢は約138億年。ビックバン以来、宇宙は膨張し続け、どんどん広がっている。逆に、時間をさかのぼると宇宙はどんどん小さくなり、宇宙の始まりに到達する。世界中の科学者たちが知りたいのは、一番最初の宇宙がどうやって始まったかだ。

 世界の素粒子物理学者が挑戦するのが、生まれたての宇宙を再現する実験である。彼らが世界中で実験の候補地を探した結果、北上山地(岩手、宮城県)が最も良い建設候補地だと評価された。

 東北に新しく誕生する可能性がある最先端研究施設について、素粒子物理学者の山下了さん(東京大学准教授・ILC戦略会議議長)に聞いた。

円形から直線へ

2020年代の完成を目指し計画が進むILC(イメージ)

 計画中の研究施設は、「国際リニアコライダー(ILC)」という全長約30㎞の巨大装置。電子とその反対の電気を持つ「陽電子」を光速近くまで加速して正面衝突させ、生まれたての宇宙を再現する装置だ。

 この装置は「コライダー」と呼ばれ、最先端の装置は欧州原子核研究機構(CERN)の円形の加速器である。その次世代の加速器が「国際リニアコライダー(ILC)」だ。

 円形の加速器を直線にすることでカーブによるエネルギー損失をなくし、粒子をさらに速く加速できる装置を、世界中の科学者たちと一緒に計画している。

宇宙の謎に挑戦

宇宙を構成する物質のうち人類が知り得ているのはわずか4%に過ぎず、残り96%のうち、23%は未知の物質「暗黒物質」、73%が正体不明の「暗黒エネルギー」だと考えられている

 宇宙にはまだまだ謎がある。第一の謎が「ヒッグス粒子」だ。ヒッグス粒子は宇宙を「のり付け」する特殊なもの。ヒッグス粒子がなければ、皆さんの体内にある電子は留まっていられなくなり、宇宙の果てまでバラバラに飛んでいってしまう。ヒッグス粒子の謎も加速器で詳しく調べられる。

 もう一つの謎が「暗黒物質」。宇宙を観測すると、今までわかっていた素粒子以外にも、正体不明の暗黒物質がたくさんあることがわかってきた。暗黒物質も加速器で人工的につくり出せるかもしれない。

 宇宙の謎を解き明かすためにつくられた加速器は、医療や製薬など様々な分野で応用されている。例えば、癌の場所を調べるための陽電子放射断層撮影検査や、薬をつくるためにタンパク質を分析する時などにも加速器を使う。

 宇宙はどうやって始まったのか、宇宙は何でできているのか、宇宙になぜ我々はいるのか。その答えはまだどこにも載っていない。この謎解きに、皆さんもぜひ一緒に色々な形で挑戦してもらいたい。


高エネルギー加速器研究機構(KEK)で加速器を見学しました

加速器とノーベル賞

電子と陽電子の衝突点に設置されたベル測定器

 茨城県つくば市にある「高エネルギー加速器研究機構」で世界トップクラスの加速器を見学した。まず驚いたのが敷地面積の大きさだ。東京ドーム33個分(約153万㎡)もある敷地の地下11mに、1周約3㎞の円形の加速器がある。

 加速器は、電子と陽電子が2つのリングの中でそれぞれ光速に近い速度で逆方向にまわり、3㎞ごとに1箇所の的(的の大きさはわずか4μm※)で衝突するよう設計されている。その衝突性能は世界一。このようにして電子と陽電子を衝突させ、ミニビッグバンを人工的につくり、そこで生まれる粒子を詳しく調べる。

 この衝突点には高さ約8mもある測定器「ベル測定器」が設置されている。このベル測定器を用いた実験で、小林・益川理論が実験的に検証され、二〇〇八年に両氏はノーベル物理学賞を受賞している。


鈴木厚人さん(高エネルギー加速器研究機構 機構長)に聞く

小さなものを見るのに、大きな装置が必要な理由

鈴木厚人さん(高エネルギー加速器研究機構 機構長)

 素粒子の世界では、日常のニュートン力学が成立しない。量子力学という学問が必要だ。量子力学では、全ての物質は波と粒の両方の性質を持つと考える。波なので、ある大きさのものを見る時、それより長い波長の波では見えないが、それより短い波長の波なら見える。短い波長の波をつくるには高いエネルギーが必要であるため、小さなものを見るには大きな装置が必要になる。

月の引力だけでなく、海岸を打つ波の影響もコントロール

 電子と陽電子を衝突させるには、nm(※)サイズで軌道を制御する必要がある。ところが、月と地球の引力による潮汐効果でμmサイズで地球が膨らんだり縮んだりする影響や、研究所から約50㎞離れた海岸に打ちあげる波が地面を揺すり nmサイズで地盤が変動する影響なども制御する必要がある。研究者はその方法も自ら考える。必要は発明の母で、誰も答えを知らないことを考えることは楽しいことだ。

※サイズについて:μm(マイクロメートル)は10のマイナス6乗メートル=100万分の1メートル。nm(ナノメートル)は10のマイナス9乗メートル=10億分の1メートル

鈴木厚人さん(高エネルギー加速器研究機構 機構長)インタビュー全文はこちら


吉岡 正和さん(東北大学・岩手大学客員教授)

東北から新しい街づくりのモデルを創造/
吉岡 正和さん(東北大学・岩手大学客員教授)に聞く

 宇宙の謎を解明するための次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」が東北にできると、どんなインパクトがあるのか。ILCを核にした新しい街づくりを提唱する、吉岡正和さん(東北大学・岩手大学客員教授)に聞いた。

モデルはCERN

CERN上空写真。加速器は赤い円の地下100mのトンネル内にある。この加速器を使った実験で、ヒッグス粒子を発見し、2013年ノーベル物理学賞に貢献した(提供:CERN)

 巨大加速器を核とした国際研究拠点のモデルは、ヒッグス粒子を発見したスイス・ジュネーブの欧州原子核研究機構(CERN)だ。

 CERNは第二次世界大戦からの復興まもない一九五四年に発足。宇宙の謎の解明という人類共通の目的の前に国境はない。欧州の英・独・仏・伊など、かつての連合国と枢軸国が協力し合い、世界の平和に貢献。昨年、創立六十周年を迎えた。

 もし今回、東北にILCができれば、日本初の国際研究拠点となる。そして、世界中からトップクラスの研究者と家族たち約一万人が長期滞在する。

 この環境は次世代育成に大きな影響を与え、さらにイノベーションを生み出す力になりうる。それは、CERNを見ても、歴史が示している。

ILC建設候補地である北上山地の位置。ILCの設置には振動の少ない固い岩盤地帯が30kmから50km広がっていることが必要。北上山地は、地下深くからマグマが上昇して花崗岩となり隆起してできた山地ゆえに硬い岩盤があるため、科学者たちは、最も最適なILC建設候補地と評価している

ILCを核に産業活性化

 日本が高度成長の時代から人口減少の時代に転換した今、日本が今後どのような新しいモデルをつくるべきか、国民一人ひとりが考えなければならない問題だ。ILCを核にした新しいモデルを東北で生み出し、ひいては、日本の進むべき道の一つを提案したい。

 ILCという最先端装置と世界トップクラスの研究者が集まる環境を活かし、住環境や交通、新産業などを取り込んだ新しい街づくりを考えている。

 例えばILCが電力を使う装置であることを逆に利用し、既存の電力源だけでなく、バイオマスや風力など、地域ならではの多様な電力源を複合的に組み合わせ、持続可能な施設にする。

 さらに発電時の排熱も農業や融雪など様々な用途に利用できる。複合的に考え、色々な産業を同時に活性化する作戦だ。

最先端を絶えず先取り

 東北には、世界遺産はじめ文化財や被災地など日本人が見ておくべき場所が多数ある。そこにILCを加え日本中の修学旅行生を東北に集めたい。

 さらに自動車や航空機など、様々な製造業が東北にはある。そこに加速器産業が加われば、東北のハイレベルな製造業がさらに幅を広げるだろう。

 将来、ILCを経験した人が地域に増え、ILCで得た技術で新しいものをつくろう、という人たちも出てくると思う。

 CERNは六十周年を迎えたが、国際研究拠点としての役割は重くなる一方だ。ILCも同様に、その時代の科学や技術の最先端を先取りし進化しながら長い歴史を刻んでいく国際研究拠点になるだろう。

 自分たちの未来をどんな世界にしたいのか。誰かに与えられるのではなく自ら創り出す発想で、ぜひ考えて欲しい。


リニアコライダー・コラボレーションディレクターのリン・エバンス氏(右)と握手を交わす東北ILC推進協議会の高橋宏明共同代表(左)

【ニュース】
ILC国際組織幹部、候補地の東北を訪問

 ILCの実現を目指す国際的な研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション」の幹部八名全員が一月、東北視察に訪れ、東北ILC推進協議会の高橋宏明共同代表らと会談した。


第3回 国連防災世界会議パブリック・フォーラム
「ILC誘致と新たな国際学術研究ゾーンを考える」



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取材先: 東北経済連合会      (タグ: ,

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