取材・写真・文/大草芳江
2010年02月08日
「当たり前」は多くの人の努力で成り立っている
東北電力株式会社中央給電指令所所長の中野春之さん
「社会って、そもそもなんだろう?」を探るべく、社会に関する様々な「人」をインタビュー
その人となりをまるごと伝えることで、その「人」から見える「社会とは、そもそも何か」を伝えます
わたしたちが当たり前のように使う電気は、
例えば東日本地域なら周波数は50ヘルツ(※)の値を示す。
周波数も電圧も、常に一定の値を示すのは当たり前だとわたしたちは思いがちだが、
実は、365日24時間休まず電気をコントロールしている結果だった。
ここは東北電力中央給電指令所。
東北地区の電力系統すべてをコントロールする「電気の司令塔」である。
そもそも電気は、電気エネルギーのまま貯えることができない。
そのため中央給電指令所では、3交代24時間体制で、
日々刻々と変化する電気の使用量に合わせ、
瞬間ごとに、発電する量をバランスさせている。
このコントロールが狂えば、50ヘルツの周波数は維持できない。
そんな東北電力中央給電指令所の所長・中野春之さんという
「人」から見える、社会とはそもそも何かを聞いた。
(※)周波数とは、1秒間に繰り返される電気振動の回数のことで、単位はヘルツ(Hz)。
商用電源の「交流」でもこの周波数が使われ、東日本地域は50Hz、西日本地域は60Hzとなっている。
東北電力株式会社中央給電指令所所長の中野春之さんに聞く
社会は、人がつくっている
―東北電力中央給電指令所長の中野さんという立場から見える「社会って、そもそもなんですか?」
う~ん、難しい質問ですね。
けれども私が思う社会とは、
やっぱり人がつくっているということ。
人がつくっているものには、
いろいろなものがあります。
そのなかで、私達は電気をつくる仕事をしていますが、
やはり人間の関係で社会が成り立っていると思いますね。
皆さんは電気と言うと、
当たり前のように点いていると思うかもしれません。
けれども、ひとつのものをつくってお客様へお届けするまでに、
苦労や努力をしている、ということなのです。
我々電力を供給する会社としては、
皆さんに電気を供給し続けることに、
使命感ややりがいを感じています。
私の職場である中央給電指令所で言えば、
発電した電気を、いかに効率的・経済的に、
品質の良い電気としてお送りするかで業務をしています。
ですから、それが達成できているときに、
やりがいや喜びを感じています。
電気は生き物
そもそも電気というのは、
生き物なんですね。
電力の消費カーブからもわかるように、
その時々で形は変わっていて、
電気の需要は常に一定ではありません。
例えば、昼休みには電力の使用量は減りますし、
暑くなったり寒くなったりすると需要は増えます。
また、例えば高校野球やオリンピックなど
テレビを集中的に見るようなイベントがあれば、
需要が増えることもあります。
電力需要は、社会の動きに反映されるわけです。
予測してもピッタリわからないですし、
常に動いているのですよ。
ですから私達は、
電力の需要を反映しているものを見て
それを予測をしているわけです。
3交代24時間体制で電気をコントロール
―どのようにして電力需要の予測をしているのですか?
社会の動きは、急激に変わるものではありません。
過去の実績をベースに、
曜日・月・季節毎に使われる電気の量と形は、
だいたい想定することができます。
全体に均してみれば、一般の家庭でも、
電気をどの時間にどれくらい使うかのパターンの形はあります。
大きな工場やデパートなどでは、
曜日などによって大体のパターンの形が決まっています。
あとは、電気を使う量が増えるか減るかで想定するのです。
けれども昨日と今日では違うので、
前日あるいは前週に、
さらに気象予報を加味して想定しています。
中央給電指令所には、
3交代24時間体制で勤務する者が4人5班で20人、
私のように平日の昼間に勤務する通常勤務者が17人、
合計37人の人間が予測をもとに、電気をコントロールしています。
予測不可能なものもある
今は機械化が進み、
人間がそれほど介在しなくても良いものになっています。
ただし予測不可能なものが、あるんですね。
それは、自然災害などの事故です。
そのようなものの対応は、想定していても想定通りにはなりません。
人間が介在していなければ、早期復旧はできないのです。
本来ならば人間は、昼間に働くべきで、
土日やお盆など皆さんが休むときに休むのが良いのです。
私の個人的な夢としては、夜や土日は働かなくても良いよう、
ここもすべて自動化できたら良いな、と思っています。
これまで、いろいろな見学者の方がいらっしゃいましたが、
「すべて自動的にコントロールされていると思っていた」
という感想が多いですね。
けれども実際に現場を見ていただくと、
電気は水のようにぱっと出てくるものではなく、
誰かが苦労して送られているものだということが、
実感してもらえると思います。
水だって、本当は誰かが苦労して送っているものなのですけどね。
人間関係が重要に
―「所長」としては、どのような仕事をしているのですか?
ここで働く皆が、いかに仕事をやりやすく、
やりがいを持ってやれるか、常に気をつけています。
皆が仕事を一生懸命できるよう、
声をかけるなどして話しやすい雰囲気をつくったり、
たまには一緒に酒を飲んで話したり。
話しやすい職場の雰囲気をつくることを目標としています。
この職場では、37人全員がそろう機会はなかなかありません。
けれども仕事は3交代制ですので、
今自分がやっている仕事を次の人に引き継ぐことがとても重要になります。
そのとき、自分も一緒にやっていたつもりになって、
お互いにわからないことを「こうすれば良いのでは」と
情報を共有化していくことがとても大切になります。
つまり、人間関係がとても重要になる仕事なのです。
何事も一生懸命やることが大事
―最後に、中高生へメッセージをお願いします。
ここへ見学に来た中学生などから、
例えば「どうやったら東北電力に入れるんですか?」
といった質問を受けるんですね。
それに対して、私はこのように答えています。
「うちの会社は、人間でできています。
人間がつながってできているのです。
ですから、一生懸命勉強をしてください。
もちろん電気に関心を持ってもらいたい気持ちもありますが、
電気に限らず、広い視野を持って、いろいろな勉強をしてください」
うちの会社の良いところは、やりがいを持てることです。
人のために役立っている仕事という面で、誇りが持てると思います。
ですから、とにかく何事も一生懸命やることが大事ではないでしょうか。
一生懸命やれば、達成感ややりがいが出てくると思います。
やはり、自分のためになり、まわりの人に役立って喜んでもらえること。
それが一生懸命になれる要素じゃないかなと思います。
仕事にせよ勉強にせよスポーツにせよ、
そういうところがないと一生懸命できないですよね。
これについては先ほどもお話した通り、
所員に対しても、そのような気持ちになれるよう、
常に意識をして指導しています。
やはり、社会人であれ、中高生であれ、
何事も一生懸命やるというものを持っていることが、
非常に大事だと私は思っています。
―中野さん、本日はありがとうございました。
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