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2024年 11月 21日 (木)

人間がより人間らしく過ごしていくうえで理解すべきもの:科学ってそもそも何だろう 取材・写真・文/大草芳江

2009年12月28日公開

人間がより人間らしく過ごしていくうえで理解すべきもの

原田 晃 HARADA Koh (独立行政法人産業技術総合研究所東北センター所長)

1952年北海道札幌市生まれ。北海道大学水産学部卒業、同大学大学院修士課程修了、水産学博士。北海道大学助手、経済産業省資源環境技術総合研究所室長、(独)産業技術総合研究所環境管理技術研究部門部門長などを経て、2009年4月より現職。

 「科学って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【科学】に関する様々な人々をインタビュー
 科学者の人となりをそのまま伝えることで、「科学とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします 


地球のなかで、ものがぐるぐるまわっている。
地球には生物がいて、地球はどんどん変わっていく。

産業技術総合研究所(以下、産総研)
東北センター所長の原田さんは、海の研究者として、
地球の大きなシステムを、ひとつひとつ調べていった。

「どうして地球って、こうなっているのだろう?」
研究を進めれば進めるほど、疑問はどんどん深まるばかり。

「地球の大きなシステムのなかで、ものが動いている。
そのうちここを、私は理解しようとしているのだな」

自分が出した疑問に、ひとつの答えを見つけるのではない。
自分は何を知りたかったのかが、だんだんと具体化していく。

「科学というのは、そういうものなのかもしれないね」

そう微笑む原田さんという「人」を通して、
ぐるぐるまわる地球の大きなシステムを、少しだけ感じ取れた気がした。

<目次>
ページ1:「科学」って、そもそもなんですか?
ページ2:「地球の大きなシステム」のなかで、海の役割とは?
ページ3:人間が出した二酸化炭素を海に貯蔵すると、どうなる?
ページ4:環境配慮と経済成長を両立させるには?


産業技術総合研究所東北センター所長の原田晃さん(水産学博士)に聞く

―単刀直入に伺いますが、「科学」って、そもそもなんですか?

すごく大きな問いですよね。
難しいよ、それ(笑)

我々が生きているなかで、
いろいろな自然の現象があります。

科学というのは、「学」とあるように、
知って理解することなんですね。

ではなぜ、そんなことをするのか?

知らなくても、ひょっとしたら、
人間が生活をしていくうえで、
そんなに困らずに、生きていけるかもしれない。

けれども、生きていく意味を考えたときもそうだし、
もっと豊かで便利で安全な社会をつくろうと思ったときも、

なぜ自然がこのように変わって動いていくのだろう?
ということを理解しておくと、行動がとれるんですね。

たとえば、「自然がこのように動いているから、
じゃあ人間がこうしたら、こうなっちゃうかもしれない」とか、

「(自然に対して)こういうことを求めたければ、
人間の行動として、このようにすれば良い」というように。

そのようなことから、私が理解している「科学」というものは、
人間がより人間らしく過ごしていくうえで理解すべきもの。

そんなところになるのですかね。
う~ん、問いが難しいなぁ・・・


最初の入り口は「なんとなく興味があったから」

―それは、これまで原田さんが自然を対象に研究してきたなかで、
 肌身で感じてきたことなのですか?

そうですね。

私が、科学の研究者の世界に入ったのは、やっぱり知りたいから。
ずっと海の研究をしていました。

本当の最初の入り口は、
なんとなく中学高校レベルの化学に興味があったから。

けれども一方では、遊びで海に行き山に行き、
外へ行くことが好きでした。

そこで、地球のなかで、
ものがぐるぐる循環する動きがあることを知りました。

なぜ海がこのような動きをしているのだろう?
その動きが地球に果たしている役割とは何だろう?
それが人間へ返っていくものは何だろう?

そういうことを、ひとつひとつ調べていこう、
というところから、スタートしてきたわけですね。

地球の大きなシステムを人間はうまく使って、
より便利なものへと文明を発達させてきている。

けれどもその一方で、人間の生活を
脅かすようなことも起こってきている。

地球全体のなかで、それをどのように解釈したら良いのだろう?
そして、どのような解決法があるのだろう?

研究を進めていくうちに、地球と人間生活との関わりについて、
というような方向へ、進んでいったわけです。


「地球の大きなシステム」をリアルに感じるには?

―「地球の大きなシステム」を、教科書的な知識で学び、たとえ頭では理解したとしても、
 それそのものを五感でリアルに感じることは、日常生活のなかで、なかなかないようにも思います。
 原田さんは、どのようなところにリアリティを感じて、「地球の大きなシステム」を感じたのでしょうか?
 また、どのようにすれば、「地球の大きなシステム」を私達は肌身で感じることができるのでしょうか?

う~ん、なかなか思ってもみなかった質問で、
どのように答えたらよいでしょうかね(笑)

日頃の生活のなかで、そういうことは意識しない。
それは、よくわかりますね。

けれども、空を見て「なぜ、そこに雲があるのだろう?」
という疑問からスタートしてもよいと思います。

また、先ほど公害問題にも触れましたが、
「自分が流した汚い水が、どうなっちゃうのだろう?」
と考えることでも、よいと思うんですよね。

人間が出した水は、陸地では川になり、
それは海に出て、海の中をぐるぐるまわって、
あたためられれば蒸発して、空へのぼって、また雨が降ります。

そういう大きな水の循環のなかに、自分の捨てた水も混じっている。
海にも川にも生物が住んでいて、その生物がいろいろなものを利用する。
すると、生物もまた影響を受ける。

大きな地球のなかで、人間は生きているわけだから、
「自分のやっていることの行く先は、どこにあるんだろう?」
と考えてみると、「地球の大きなシステム」を感じられるのではないでしょうか。


「自分が何を知りたかったのか」だんだん具体化していく

―「なんでだろう?」と疑問に思うところから地球というものにつながって、
 その行く先を想像することで、いま目に見えているものだけではない、
 「地球の大きなシステム」を、原田さんは感じてきたということでしょうか?

私の場合、海と化学のふたつが、スタートにありました。

「これはどうなっているんだろう?」
「あれはどうなっているんだろう?」
と研究を進めていくうちに、どんどん疑問になっていくんです。

そう進めていくうちに、
「地球の大きなシステムのなかで、ものが動いていて、
そのうち、ここの部分を、私は理解しようとしているんだな」
というように、疑問もだんだんと具体化してくる、と言いますかね。

つまり、自分が出した疑問に答えを見つけるんじゃなくて、
「自分がなぜ、そんなことを考えたのだろう?」とか、
あるいは、ほかの疑問とかに、どんどん広がっていくんじゃないかな。

「科学」というのは、そのようなものなのかもしれないですね。

―「今すぐひとつの答えが欲しい」という階層の疑問ではなくて、
 自分が漠然と惹かれるものがあって、それを探求していくうちに、
 「あぁ、自分はこれを知りたかったのだな」と後からわかるような、
 広がり深まっていくような問いかけなのですね。

そうですね。

具体的になるときもあれば、逆に、
もっとわからないものが増える場合もありますよね。

わからないことが増えることは、なんとなく苦痛でもあるのですが、
「自分が何を知りたかったのか」が、だんだんと具体化していくことは、
まるで霧が晴れるような、爽快な気持ちですよね。

そういう面では、研究者というのは、
いろいろわくわくしていないと、いけないのでしょうね。


「どうして地球って、こうなっているのだろう?」

―原田さんの「自分が何を知りたかったのか」は、どこまで具体化しているのですか?

う~ん、また難しい質問ですね(笑)

けれども一番大きな命題は、
「どうして地球って、こうなっているのだろう?」ですね。

地球には生物がいて、地球はどんどん変わっていくわけです。
「どうして地球って、こうなるなのだろう?」というところに、
大きな疑問、興味があります。

それに対して、研究として直接アプローチしていくことは、
非常に具体的で小さなこと。

例えば、測るための測定法をつくり、それを使って何かを測って、
データが出てくれば、それを「なぜそうなっているんだろう?」と考える。

その繰り返しをやっていくなかで、
その大きな問題が少しでもわかるよう、アプローチしていくのです。

―だんだんと広がり深まっていくような大きな問いかけがあって、
 それに対して、具体的で小さなことを積み重ねていくからこそ、
 「地球の大きなシステム」という抽象概念にも、原田さんはリアリティーを感じるのですね。


次へ 「地球の大きなシステム」のなかで、海の役割とは?


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