取材・写真・文/大草芳江
2009年12月28日公開
人間がより人間らしく過ごしていくうえで理解すべきもの
原田 晃 HARADA Koh (独立行政法人産業技術総合研究所東北センター所長)
1952年北海道札幌市生まれ。北海道大学水産学部卒業、同大学大学院修士課程修了、水産学博士。北海道大学助手、経済産業省資源環境技術総合研究所室長、(独)産業技術総合研究所環境管理技術研究部門部門長などを経て、2009年4月より現職。
「科学って、そもそもなんだろう?」を探るべく、【科学】に関する様々な人々をインタビュー
科学者の人となりをそのまま伝えることで、「科学とは、そもそも何か」をまるごとお伝えします
地球のなかで、ものがぐるぐるまわっている。
地球には生物がいて、地球はどんどん変わっていく。
産業技術総合研究所(以下、産総研)
東北センター所長の原田さんは、海の研究者として、
地球の大きなシステムを、ひとつひとつ調べていった。
「どうして地球って、こうなっているのだろう?」
研究を進めれば進めるほど、疑問はどんどん深まるばかり。
「地球の大きなシステムのなかで、ものが動いている。
そのうちここを、私は理解しようとしているのだな」
自分が出した疑問に、ひとつの答えを見つけるのではない。
自分は何を知りたかったのかが、だんだんと具体化していく。
「科学というのは、そういうものなのかもしれないね」
そう微笑む原田さんという「人」を通して、
ぐるぐるまわる地球の大きなシステムを、少しだけ感じ取れた気がした。
<目次>
ページ1:「科学」って、そもそもなんですか?
ページ2:「地球の大きなシステム」のなかで、海の役割とは?
ページ3:人間が出した二酸化炭素を海に貯蔵すると、どうなる?
ページ4:環境配慮と経済成長を両立させるには?
産業技術総合研究所東北センター所長の原田晃さん(水産学博士)に聞く
―単刀直入に伺いますが、「科学」って、そもそもなんですか?
すごく大きな問いですよね。
難しいよ、それ(笑)
我々が生きているなかで、
いろいろな自然の現象があります。
科学というのは、「学」とあるように、
知って理解することなんですね。
ではなぜ、そんなことをするのか?
知らなくても、ひょっとしたら、
人間が生活をしていくうえで、
そんなに困らずに、生きていけるかもしれない。
けれども、生きていく意味を考えたときもそうだし、
もっと豊かで便利で安全な社会をつくろうと思ったときも、
なぜ自然がこのように変わって動いていくのだろう?
ということを理解しておくと、行動がとれるんですね。
たとえば、「自然がこのように動いているから、
じゃあ人間がこうしたら、こうなっちゃうかもしれない」とか、
「(自然に対して)こういうことを求めたければ、
人間の行動として、このようにすれば良い」というように。
そのようなことから、私が理解している「科学」というものは、
人間がより人間らしく過ごしていくうえで理解すべきもの。
そんなところになるのですかね。
う~ん、問いが難しいなぁ・・・
最初の入り口は「なんとなく興味があったから」
―それは、これまで原田さんが自然を対象に研究してきたなかで、
肌身で感じてきたことなのですか?
そうですね。
私が、科学の研究者の世界に入ったのは、やっぱり知りたいから。
ずっと海の研究をしていました。
本当の最初の入り口は、
なんとなく中学高校レベルの化学に興味があったから。
けれども一方では、遊びで海に行き山に行き、
外へ行くことが好きでした。
そこで、地球のなかで、
ものがぐるぐる循環する動きがあることを知りました。
なぜ海がこのような動きをしているのだろう?
その動きが地球に果たしている役割とは何だろう?
それが人間へ返っていくものは何だろう?
そういうことを、ひとつひとつ調べていこう、
というところから、スタートしてきたわけですね。
地球の大きなシステムを人間はうまく使って、
より便利なものへと文明を発達させてきている。
けれどもその一方で、人間の生活を
脅かすようなことも起こってきている。
地球全体のなかで、それをどのように解釈したら良いのだろう?
そして、どのような解決法があるのだろう?
研究を進めていくうちに、地球と人間生活との関わりについて、
というような方向へ、進んでいったわけです。
「地球の大きなシステム」をリアルに感じるには?
―「地球の大きなシステム」を、教科書的な知識で学び、たとえ頭では理解したとしても、
それそのものを五感でリアルに感じることは、日常生活のなかで、なかなかないようにも思います。
原田さんは、どのようなところにリアリティを感じて、「地球の大きなシステム」を感じたのでしょうか?
また、どのようにすれば、「地球の大きなシステム」を私達は肌身で感じることができるのでしょうか?
う~ん、なかなか思ってもみなかった質問で、
どのように答えたらよいでしょうかね(笑)
日頃の生活のなかで、そういうことは意識しない。
それは、よくわかりますね。
けれども、空を見て「なぜ、そこに雲があるのだろう?」
という疑問からスタートしてもよいと思います。
また、先ほど公害問題にも触れましたが、
「自分が流した汚い水が、どうなっちゃうのだろう?」
と考えることでも、よいと思うんですよね。
人間が出した水は、陸地では川になり、
それは海に出て、海の中をぐるぐるまわって、
あたためられれば蒸発して、空へのぼって、また雨が降ります。
そういう大きな水の循環のなかに、自分の捨てた水も混じっている。
海にも川にも生物が住んでいて、その生物がいろいろなものを利用する。
すると、生物もまた影響を受ける。
大きな地球のなかで、人間は生きているわけだから、
「自分のやっていることの行く先は、どこにあるんだろう?」
と考えてみると、「地球の大きなシステム」を感じられるのではないでしょうか。
「自分が何を知りたかったのか」だんだん具体化していく
―「なんでだろう?」と疑問に思うところから地球というものにつながって、
その行く先を想像することで、いま目に見えているものだけではない、
「地球の大きなシステム」を、原田さんは感じてきたということでしょうか?
私の場合、海と化学のふたつが、スタートにありました。
「これはどうなっているんだろう?」
「あれはどうなっているんだろう?」
と研究を進めていくうちに、どんどん疑問になっていくんです。
そう進めていくうちに、
「地球の大きなシステムのなかで、ものが動いていて、
そのうち、ここの部分を、私は理解しようとしているんだな」
というように、疑問もだんだんと具体化してくる、と言いますかね。
つまり、自分が出した疑問に答えを見つけるんじゃなくて、
「自分がなぜ、そんなことを考えたのだろう?」とか、
あるいは、ほかの疑問とかに、どんどん広がっていくんじゃないかな。
「科学」というのは、そのようなものなのかもしれないですね。
―「今すぐひとつの答えが欲しい」という階層の疑問ではなくて、
自分が漠然と惹かれるものがあって、それを探求していくうちに、
「あぁ、自分はこれを知りたかったのだな」と後からわかるような、
広がり深まっていくような問いかけなのですね。
そうですね。
具体的になるときもあれば、逆に、
もっとわからないものが増える場合もありますよね。
わからないことが増えることは、なんとなく苦痛でもあるのですが、
「自分が何を知りたかったのか」が、だんだんと具体化していくことは、
まるで霧が晴れるような、爽快な気持ちですよね。
そういう面では、研究者というのは、
いろいろわくわくしていないと、いけないのでしょうね。
「どうして地球って、こうなっているのだろう?」
―原田さんの「自分が何を知りたかったのか」は、どこまで具体化しているのですか?
う~ん、また難しい質問ですね(笑)
けれども一番大きな命題は、
「どうして地球って、こうなっているのだろう?」ですね。
地球には生物がいて、地球はどんどん変わっていくわけです。
「どうして地球って、こうなるなのだろう?」というところに、
大きな疑問、興味があります。
それに対して、研究として直接アプローチしていくことは、
非常に具体的で小さなこと。
例えば、測るための測定法をつくり、それを使って何かを測って、
データが出てくれば、それを「なぜそうなっているんだろう?」と考える。
その繰り返しをやっていくなかで、
その大きな問題が少しでもわかるよう、アプローチしていくのです。
―だんだんと広がり深まっていくような大きな問いかけがあって、
それに対して、具体的で小さなことを積み重ねていくからこそ、
「地球の大きなシステム」という抽象概念にも、原田さんはリアリティーを感じるのですね。
コラボレーション
おすすめ記事
【特集】宮城の研究施設 一般公開特集 |
【特集】仙台市総合計画審議会 仙台の10年をつくる |
【科学】科学って、そもそもなんだろう?
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 【大草 芳江|東北大学|科学って、そもそもなんだろう?】
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 【大草 芳江|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?|防災科学技術研究所】
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 【大草 芳江|弘前大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
日野亮太さん(東北大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.02 【大草 芳江|東北大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
同じ取材先の記事
◆ 産業技術総合研究所東北センター
2050年カーボンニュートラル実現にむけた技術革新とは?<産総研化学プロセス研究部門インタビュー> 2021.08.31 【大草 芳江|産業技術総合研究所東北センター|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
「技術を社会へ橋渡し」する産総研東北センターの産学官連携活動とは?<産総研東北センター上席イノベーションコーディネータの南條弘さんに聞く> 2021.08.31 【大草 芳江|産業技術総合研究所東北センター|社会って、そもそもなんだろう?】
産総研東北センターが新たに掲げた看板研究テーマ「資源循環技術」とは?(2/2)<産総研 資源循環利用技術研究 ラボ長の佐々木毅さんに聞く> 2021.05.25 【大草 芳江|産業技術総合研究所東北センター|科学って、そもそもなんだろう?】
産総研東北センターが新たに掲げた看板研究テーマ「資源循環技術」とは?(1/2)<産総研東北センター所長の伊藤日出男さんに聞く> 2021.05.25 【大草 芳江|産業技術総合研究所東北センター|科学って、そもそもなんだろう?】
科学って、そもそもなんだろう?
最新5件
地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 | |
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 | |
■記事一覧を表示 記事カテゴリ > 科学って、そもそもなんだろう? |
カテゴリ
取材先一覧
■ 幼・小・中学校
■ 高校
- ・仙台一高 (15)
- ・仙台二華 (14)
- ・仙台二高 (12)
- ・仙台城南高校 (5)
- ・仙台城南高等学校 (0)
- ・仙台高専 (4)
- ・宮城一高 (4)
- ・宮城県高等学校理科研究会 (2)
- ・岩ケ崎高 (1)
- ・東北工業大学高校 (0)
■ 大学
■ 国・独立行政法人
- ・内閣府 (1)
- ・宇宙航空研究開発機構 (5)
- ・文部科学省 (0)
- ・東北経済産業局 (17)
- ・水産総合研究センター東北区水産研究所 (1)
- ・理化学研究所 (3)
- ・産業技術総合研究所東北センター (36)
- ・科学技術振興機構 (1)
- ・防災科学技術研究所 (1)
- ・高エネルギー加速器研究機構 (1)
■ 自治体
- ・仙台市 (8)
- ・仙台市博物館 (4)
- ・仙台市天文台 (12)
- ・仙台市教育委員会 (13)
- ・仙台市産業振興事業団 (1)
- ・仙台市科学館 (8)
- ・仙台文学館 (2)
- ・仙台管区気象台 (2)
- ・塩釜市 (3)
- ・宮城県 (8)
- ・宮城県古川農業試験場 (2)
- ・宮城県教育委員会 (1)
- ・宮城県農業・園芸総合研究所 (1)
- ・気仙沼市 (1)
- ・登米市 (1)
■ 一般企業・団体
- ・DIC株式会社 (2)
- ・K sound design (1)
- ・KDDI (2)
- ・natural science (1)
- ・せんだい・みやぎNPOセンター (2)
- ・てとてと (1)
- ・ひのき進学教室 (11)
- ・みやぎ工業会 (8)
- ・みやぎ工業会会長 (0)
- ・みやぎ産業振興機構 (3)
- ・アスター (1)
- ・インスペック (1)
- ・エツキ (1)
- ・ソニー (3)
- ・ソニー教育財団 (1)
- ・ソフトバンク (1)
- ・ティ・ディ・シー (1)
- ・デュナミス (1)
- ・ドットジェイピー (1)
- ・ナノテム (1)
- ・ハリウコミュニケーションズ (3)
- ・ハード工業有限会社 (1)
- ・フジイコーポレーション (1)
- ・プレファクト株式会社 (1)
- ・ヤマダフーズ (1)
- ・全国学習塾協会 (3)
- ・公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン (1)
- ・勝山酒造部 (1)
- ・及源鋳造株式会社 (1)
- ・大武・ルート工業 (1)
- ・太白少年少女発明クラブ (1)
- ・宮城の新聞 (0)
- ・宮城県中小企業家同友会 (1)
- ・宮城県産業人クラブ (0)
- ・宮城県職業能力開発協会 (1)
- ・宮城県酒造組合 (2)
- ・工藤電機 (2)
- ・平孝酒造 (1)
- ・応用物理学会 (2)
- ・新東総業株式会社 (1)
- ・日刊工業新聞社 (7)
- ・日本アンドロイドの会 (1)
- ・日本技術士会 (2)
- ・日本私立大学団体連合会 (1)
- ・日本農芸化学会東北支部 (1)
- ・日本IBM (3)
- ・日東イシダ (1)
- ・有限会社 柏崎青果 (1)
- ・東京エレクトロン宮城 (1)
- ・東北ニュービジネス協議会 (1)
- ・東北活性化研究センター (3)
- ・東北経済連合会 (1)
- ・東北電力 (2)
- ・東北電子産業株式会社 (1)
- ・東栄科学産業 (1)
- ・林精器製造 (1)
- ・株式会社三栄機械 (1)
- ・株式会社悠心 (1)
- ・河北新報 (1)
- ・神田産業株式会社 (1)
- ・秋田化学工業 (1)
- ・笹氣出版印刷 (1)
- ・米鶴酒造 (1)
- ・萩野酒造 (1)
- ・農芸化学会 (1)
- ・遠藤工業 (1)
- ・鈴木製作所 (1)
- ・阿部蒲鉾 (1)
- ・阿部蒲鉾店 (1)
- ・鳴子の米プロジェクト (1)
- ・NECトーキン (1)
特別企画 「宮城の塾」
学習塾から見る 宮城の教育の「今」 塾選びに一役 |
【科学って、そもそもなんだろう?】 若手研究者座談会「地震学×情報科学の融合で得られたもの」 2024.09.16 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 【同窓生に聞く#01】中鉢良治さん(元ソニー社長、産総研最高顧問)がリアルに感じていることって、何ですか? 2022.10.27 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 |
記者ブログ
ひとり新聞社「宮城の新聞」の大草よしえが衆院選に立候補 2021.10.19 | |
最近の活動は「Twitter」に移行しました 2019.11.01 | |
【追記】テレビ朝日「モーニングバード」スタジオ生出演&iCAN'15世界大会(アラスカ)世界第1位! 2015.06.19 | |
2014年の振り返りと、2015年の抱負 2015.01.05 | |
平成25年度を振り返りました・・・。 2014.04.02 |
中野塾(泉中央・北高森) | |
ひのき進学教室(泉中央・長命ヶ丘・八幡教室・上杉教室) | |
夢学館(東照宮・福室) | |
早稲田育英ゼミナール(泉中央) | |
ソーメック個別学習院(若林区、太白区、泉区に6教室) | |
明和塾(北山・八木山) | |
JUKU ペガサス仙台南光台教室(南光台南) |
アクセスランキング
- 【宮城の塾】 宮城の塾 仙台市を中心とした学習塾・幼児教室・進学塾の特集
- 世界中の研究者が憧れる研究拠点へ/東北大学WPI-AIMR本館竣工記念式典/科学って、そもそもなんだろう?
- [vol.1] 第1回宮城の日本酒を楽しむ会/社会って、そもそもなんだろう?
- 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~/社会って、そもそもなんだろう?
- 宮城県仙台第一高等学校/教育って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 ひのき進学教室(泉中央本部教室・八幡町教室・上杉教室・五橋教室・長町教室・愛子教室・吉成教室・大和町教室、他)
- 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く)/科学って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 JUKU ペガサス仙台南光台教室
- 【宮城の塾】 質問できます!/宮城の塾|宮城の新聞
- 【宮城の塾】 明和塾(北山教室・八木山教室)