取材・写真・文/大草芳江
2009年1月22日公開
化石といえば、山へでかけなければ、見つからないようなイメージがある。
しかしながら意外と私たちの身近なところで、化石たちは息を潜めているようだ。
このサンゴの化石、実はとても身近な場所にある。
早速だが、ここで問題。ここは一体、どこでしょう?
この化石をご案内いただいたのは、化石に似合わぬ制服姿のジェントルマン。
皆さんは、ここがどこだか、もうおわかりだろうか?
正解は、藤崎デパートの青葉通側の入口ホールである。
柱や壁をよく見てみると、驚くほどたくさんの化石を見つけることができる。
しげしげと眺めてみると、柱や壁は想像以上に穴ぼこだらけで、
他にも違う形をしたサンゴや巻貝の化石を多数確認することができた。
まさに、地球の一部を切り取ってきた、という代物なのである。
聞けばこの岩石、はるばる鹿児島県の沖永良部島からやってきたものらしい。
なんでもかんでも人工物で出来ている、といつの間にか思い込んでいた私は、
まさかこんなところで、地球の一部を感じられるとは、思ってもいなかった。
「人間は地球の上で生きている」ということは、頭ではもちろん知っている。
けれども私は、なぜこのように意外だと思うのだろうか。
やはりどこかで人間と自然が切り離されているような錯覚が、あるせいかもしれない。
けれども実際には、人間と自然はつながったままでいるということを、
もしかすると私たちは意外と身近なところで
見ること・感じることが、できるのではなかろうか。
そう予感させてくれたのが、毎週のように通う百貨店にそっと潜む、
これまで目に見えなかった化石たちと、
その居場所を教えてくれた「地学」の視点であった。
ちなみに藤崎では昔、アンモナイトの化石も見ることができたそうだが、
残念ながら今は、テナントの陰となり、見えなくなってしまったそうだ。
地学団体研究会仙台支部の阿子島充さん(名取市立第二中学校教員)らによると、
この他にも、岩石を使用している建物の壁や柱をよくよく探してみれば、
仙台市中心部でも、様々な化石たちに出会うことができるそうである。
では普段は何気なく通り過ぎてしまう場所にも、目を向けてみることにしよう。
例えば、仙台駅2F西口。
実は、この赤い壁にも、大きな化石を見ることができる。
現在の楽天イーグルスストアに変わってから、赤い壁は楽天カラーに覆われたが、
化石がある部分だけは、きちんと切り抜かれ、解説まで付いている。
これまで何度も通っていたはずの場所だが、全く目に入っていなかった自分に驚いた。
直角貝(オウムガイの仲間)の化石。
東北大学総合学術博物館の永広昌之教授の解説付き。
アンモナイト類の断面。
同じく永広教授の解説によると、
「アンモナイト類は、イカやタコ、オウムガイなどの頭足類の仲間で、古生代中期(シルル紀~デボン紀:およそ4億年前)にあらわれ、中生代の末(約6500万年前)に絶滅しました。巻いた殻は隔壁(かくへき)により多くの部屋に仕切られています。最も外側に大きな部屋があり、タコのような軟体部がそこに入っていたと考えられています」とある。
こちらは、中央通と東二番町通の交差点付近にある佐々重ビル1Fエレベータフロア。
阿子島さんらの説明によれば、
ここで「海ユリ」や「腕足類」「直角石」の化石を観察できるはずなのだが...
素人目には、どれが化石なのかが判断できず。まるでパズルのようである。
しかし化石の特徴をつかみ、探そうと思ってこれを見れば、化石はきっと見つかるはず。
そこでまた、阿子島さんに尋ねてみると
「佐々重ビルはエレベーターホールの壁にある白い点々がどれでも、すべて化石です。
ウミユリという生物そのものが、現生の生物とあまりお馴染みな点がないというところが、
どれが化石なのか判断がつかない原因でしょう。これは中高校生でも大人でも同じです」
というお返事を頂いた。
【出展】ウミユリ(ウィキペディア)
そもそもウミユリとは、その名前から植物のような印象を与えるが、
ウミユリは植物ではなく、ヒトデ・ウニ・ナマコなどと同じ棘皮動物である。
各国の海(深海)に棲み、体長は35~50cm。生きている化石としても有名である。
ウミユリのイメージを頭に入れ、後日改めて佐々重ビルを訪ねてみると、
前回は探しても探しても見つからなかったウミユリの柄の断面や節が、
今回は、不思議なほど呆気なく見つかった。
同じものを見ていても、ものの見方で、見えたり・見えなかったりする。
まるで、化石とのかくれんぼ。
ビルが立並ぶ仙台市中心街は、実は「化石の杜」であった。
そもそも岩石は、火山の活動によってできる「火成岩」と、
水のはたらきによってできる「堆積岩」のグループに分けることができる。
化石が含まれている可能性の高い岩石は、堆積岩のうち「石灰岩」であるらしい。
石灰岩とは、炭酸カルシウムが主成分の堆積岩を指す。
その成因は、海洋生物(主成分は炭酸カルシウム)が堆積して出来たものが主である。
一方、マグマが冷え固まったり、火山活動で他の岩石などと混ざって固まった火成岩には、
化石は含まれていない。
どれも学校で学んだ記憶のある知識だが、いざ応用できない自分に少し落胆もした。
「目の前にある化石、君はなぜ今、ここにいるのだろうか」
そう思いを馳せると、今ここにいるわたしが、急に小さな点に感じられるから不思議だ。
よくよく考えてみると、「地学」とは、地球を科学する「地球科学」の略ではないか。
そもそも地学教育とは、「時間・空間の科学教育を行う科目」ということらしい。
時間と空間の科学教育―。
そんな教育ならば、ぜひ受けてみたかったものである。
取材協力
おすすめ
- ・仙台ビル街『化石の森』探検!
大曽根良憲さん(現・丸森町立金山小学校校長)による、化石の森の探検ガイド。
「仙台駅からの道順でご案内」では、計13地点の探検プランが一覧表示されており便利。
この他にも、なんと仙台市内だけでも100を超える建物で、化石が見つかっているそうだ。
まだ誰も見つけていない街中の化石探検に挑戦してみよう!と思うエネルギーももらえる。
コラボレーション
おすすめ記事
【特集】宮城の研究施設 一般公開特集 |
【特集】仙台市総合計画審議会 仙台の10年をつくる |
【科学】科学って、そもそもなんだろう?
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 【大草 芳江|東北大学|科学って、そもそもなんだろう?】
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 【大草 芳江|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?|防災科学技術研究所】
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 【大草 芳江|弘前大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
日野亮太さん(東北大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.02 【大草 芳江|東北大学|社会って、そもそもなんだろう?|科学って、そもそもなんだろう?】
同じ取材先の記事
◆ 宮城県高等学校理科研究会
化石を街で見つける 2009.01.22 【大草 芳江|宮城県高等学校理科研究会|科学って、そもそもなんだろう?】
「カリスマ生物教師」に学べ 高校生物教員らで研修会 2008.12.11 【大草 芳江|宮城県高等学校理科研究会|教育って、そもそもなんだろう?】
科学って、そもそもなんだろう?
最新5件
地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 | |
前田拓人さん(弘前大学)に聞く:<東日本大震災から10年>もし東北地方太平洋沖地震が起きていなければ、地震研究はどうなっていた? 2021.10.08 | |
■記事一覧を表示 記事カテゴリ > 科学って、そもそもなんだろう? |
カテゴリ
取材先一覧
■ 幼・小・中学校
■ 高校
- ・仙台一高 (15)
- ・仙台二華 (14)
- ・仙台二高 (12)
- ・仙台城南高校 (5)
- ・仙台城南高等学校 (0)
- ・仙台高専 (4)
- ・宮城一高 (4)
- ・宮城県高等学校理科研究会 (2)
- ・岩ケ崎高 (1)
- ・東北工業大学高校 (0)
■ 大学
■ 国・独立行政法人
- ・内閣府 (1)
- ・宇宙航空研究開発機構 (5)
- ・文部科学省 (0)
- ・東北経済産業局 (17)
- ・水産総合研究センター東北区水産研究所 (1)
- ・理化学研究所 (3)
- ・産業技術総合研究所東北センター (36)
- ・科学技術振興機構 (1)
- ・防災科学技術研究所 (1)
- ・高エネルギー加速器研究機構 (1)
■ 自治体
- ・仙台市 (8)
- ・仙台市博物館 (4)
- ・仙台市天文台 (12)
- ・仙台市教育委員会 (13)
- ・仙台市産業振興事業団 (1)
- ・仙台市科学館 (8)
- ・仙台文学館 (2)
- ・仙台管区気象台 (2)
- ・塩釜市 (3)
- ・宮城県 (8)
- ・宮城県古川農業試験場 (2)
- ・宮城県教育委員会 (1)
- ・宮城県農業・園芸総合研究所 (1)
- ・気仙沼市 (1)
- ・登米市 (1)
■ 一般企業・団体
- ・DIC株式会社 (2)
- ・K sound design (1)
- ・KDDI (2)
- ・natural science (1)
- ・せんだい・みやぎNPOセンター (2)
- ・てとてと (1)
- ・ひのき進学教室 (11)
- ・みやぎ工業会 (8)
- ・みやぎ工業会会長 (0)
- ・みやぎ産業振興機構 (3)
- ・アスター (1)
- ・インスペック (1)
- ・エツキ (1)
- ・ソニー (3)
- ・ソニー教育財団 (1)
- ・ソフトバンク (1)
- ・ティ・ディ・シー (1)
- ・デュナミス (1)
- ・ドットジェイピー (1)
- ・ナノテム (1)
- ・ハリウコミュニケーションズ (3)
- ・ハード工業有限会社 (1)
- ・フジイコーポレーション (1)
- ・プレファクト株式会社 (1)
- ・ヤマダフーズ (1)
- ・全国学習塾協会 (3)
- ・公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン (1)
- ・勝山酒造部 (1)
- ・及源鋳造株式会社 (1)
- ・大武・ルート工業 (1)
- ・太白少年少女発明クラブ (1)
- ・宮城の新聞 (0)
- ・宮城県中小企業家同友会 (1)
- ・宮城県産業人クラブ (0)
- ・宮城県職業能力開発協会 (1)
- ・宮城県酒造組合 (2)
- ・工藤電機 (2)
- ・平孝酒造 (1)
- ・応用物理学会 (2)
- ・新東総業株式会社 (1)
- ・日刊工業新聞社 (7)
- ・日本アンドロイドの会 (1)
- ・日本技術士会 (2)
- ・日本私立大学団体連合会 (1)
- ・日本農芸化学会東北支部 (1)
- ・日本IBM (3)
- ・日東イシダ (1)
- ・有限会社 柏崎青果 (1)
- ・東京エレクトロン宮城 (1)
- ・東北ニュービジネス協議会 (1)
- ・東北活性化研究センター (3)
- ・東北経済連合会 (1)
- ・東北電力 (2)
- ・東北電子産業株式会社 (1)
- ・東栄科学産業 (1)
- ・林精器製造 (1)
- ・株式会社三栄機械 (1)
- ・株式会社悠心 (1)
- ・河北新報 (1)
- ・神田産業株式会社 (1)
- ・秋田化学工業 (1)
- ・笹氣出版印刷 (1)
- ・米鶴酒造 (1)
- ・萩野酒造 (1)
- ・農芸化学会 (1)
- ・遠藤工業 (1)
- ・鈴木製作所 (1)
- ・阿部蒲鉾 (1)
- ・阿部蒲鉾店 (1)
- ・鳴子の米プロジェクト (1)
- ・NECトーキン (1)
特別企画 「宮城の塾」
学習塾から見る 宮城の教育の「今」 塾選びに一役 |
【科学って、そもそもなんだろう?】 若手研究者座談会「地震学×情報科学の融合で得られたもの」 2024.09.16 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く) 2023.01.26 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 【同窓生に聞く#01】中鉢良治さん(元ソニー社長、産総研最高顧問)がリアルに感じていることって、何ですか? 2022.10.27 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 地震学×情報科学の融合で、目指すは天気予報の地震版 2022.04.13 | |
【社会って、そもそもなんだろう?】 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~ 2022.03.02 | |
【科学って、そもそもなんだろう?】 青井真さん(防災科学技術研究所)に聞く:<東日本大震災から10年>東北地方太平洋沖地震が起きて、地震研究はどう変わった? 2021.11.11 |
記者ブログ
ひとり新聞社「宮城の新聞」の大草よしえが衆院選に立候補 2021.10.19 | |
最近の活動は「Twitter」に移行しました 2019.11.01 | |
【追記】テレビ朝日「モーニングバード」スタジオ生出演&iCAN'15世界大会(アラスカ)世界第1位! 2015.06.19 | |
2014年の振り返りと、2015年の抱負 2015.01.05 | |
平成25年度を振り返りました・・・。 2014.04.02 |
中野塾(泉中央・北高森) | |
ひのき進学教室(泉中央・長命ヶ丘・八幡教室・上杉教室) | |
夢学館(東照宮・福室) | |
早稲田育英ゼミナール(泉中央) | |
ソーメック個別学習院(若林区、太白区、泉区に6教室) | |
明和塾(北山・八木山) | |
JUKU ペガサス仙台南光台教室(南光台南) |
アクセスランキング
- 【宮城の塾】 宮城の塾 仙台市を中心とした学習塾・幼児教室・進学塾の特集
- 世界中の研究者が憧れる研究拠点へ/東北大学WPI-AIMR本館竣工記念式典/科学って、そもそもなんだろう?
- [vol.1] 第1回宮城の日本酒を楽しむ会/社会って、そもそもなんだろう?
- 「仙台の地形と水との関わり」~地形から見る仙台の過去・現在・未来~/社会って、そもそもなんだろう?
- 宮城県仙台第一高等学校/教育って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 ひのき進学教室(泉中央本部教室・八幡町教室・上杉教室・五橋教室・長町教室・愛子教室・吉成教室・大和町教室、他)
- 地震の発生予測に挑む(京大防災研の西村卓也さん・京大名誉教授の平原和朗さんに聞く)/科学って、そもそもなんだろう?
- 【宮城の塾】 JUKU ペガサス仙台南光台教室
- 【宮城の塾】 質問できます!/宮城の塾|宮城の新聞
- 【宮城の塾】 明和塾(北山教室・八木山教室)