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2024年 11月 21日 (木)

産学官連携で震災復興・産業振興を/産総研が仙台でワークショップ

2012年3月14日公開

「産総研本格研究ワークショップ in 東北」のようす=7日、仙台市内のホテルにて

 独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)は7日、「産総研本格研究ワークショップ in 東北」を仙台市内のホテルで開催し、地元企業や官公庁などから約240名が参加した。

 基礎研究から製品開発をつなぐ"橋渡し"的な研究を行う同研究所が、その研究成果の公開を通じて、企業との連携関係の構築・強化につなげようと、平成21年度から開催するもの。今年のテーマは「東北地域の震災復興・産業振興を目指して」。

 開会式では、産総研理事長の野間口有さんが「産業界の様々なニーズや課題に対して、全国各地にある産総研の研究成果を広く活用していただきたい」と挨拶。

 宮城県副知事の若生正博さんは、県の産業復旧状況について「9割以上の企業が震災前の水準に戻るなど、内陸部を中心に復旧が進む一方、沿岸部の本格復旧は課題が大きい」と説明。単なる復旧でなく抜本的な再構築を目指し復興に取組む姿勢を示した。

 東北経済産業局長の豊國浩治さんは、早期の復旧復興を図ると同時に国際競争力のある産業づくりが必要と強調。「グローバル化社会の中、産学官連携による新しい研究や事業化への取組みが、今後ますます重要になるだろう」と話した。

基調講演のようす

 続いて行われた基調講演では、東京エレクトロン宮城(宮城県黒川郡大和町)取締役会長の竹渕裕樹さんが「東京エレクトロン宮城株式会社の活動と地元企業への期待」と題して講演。同社の半導体製造用エッチング装置の技術について紹介した後、世界ナンバーワンにむけた戦略を語り、「産学官連携を強め、世界で戦える日本発のものづくり力を発信する場を一緒につくりたい」と地元企業への期待を話した。

 講演会では、被災地の民間企業として、千田精密工業(岩手県)とケディカ(仙台市)が復興にむけた取組みを紹介し、公的研究機関への期待を述べた。宮城化成(宮城県)と産総研の連携による新製品開発を通した震災復興の発表もあった。このほか産総研の研究成果を紹介するパネル展示会や研究開発相談会もあった。

 産総研東北センター所長の原田晃さんは「新たな科学的発見が直接すぐ産業化されるわけではないため、その間をつなぐ研究が重要だ。産学官が結集し研究を行う場と資源を提供することで、持続発展可能な産業社会に貢献したい」と話している。

展示会のようす

交流会のようす



インタビュー
(そもそもなぜ「産学官連携」は重要なのか?それぞれの立場から聞きました)

■イノベーションにおける絆が「産学官連携」
野間口有さん(産総研理事長)

―「官」の立場から、そもそもなぜ「産学官連携」は重要だと考えますか?

 鉄腕アトムをご存知か?お茶の水博士は自分の研究所だけでアトムの頭脳からボディまで全部つくった。ところが現実の社会では、一つの会社や研究所だけで、基本的なものごとを研究し世の中に役立つところまで全部つくれるところは少ない。それぞれ得意な技術を持ち込み力を合わせることで、立派なものができる。それが産学官連携である。原理・原則や新しい可能性を考えるのが「学」、産業化が得意なのが「産」だが、それを現実のものにするには様々な壁がある。その壁を乗り越える研究をするのが「官」だ。つまり、イノベーションにおける絆が産学官連携である。

―「官」の立場から、産学官連携において一番大切なポイントは何だと考えますか?

 一つは、「一日でも早く実現したい」という目的を達成すること。もう一つは、世界の人が「さすが!」と言ってくれるような成果を達成すること。二つ目は一つ目のゴールよりも時間がかかるものだが、そのような志を持つことが、産学官連携を進める上で重要な心意気だ。

―その前提から、本日のワークショップはいかがでしたか?

 一般の人から見ると、大学や研究所は敷居が高く見えるようだが、企業の皆さんが、我々を仲間だと思い、非常に率直に自分の思いや課題を表明してくれたことが、非常に良かったと思う。

―全国各地にある産総研のうち、東北センターならではの特徴は?

 例えば、東北センターの「コンパクト化学」のように、高圧力下で、反応の場を非常に狭い領域で限定しながら進める化学の研究は少なく、着眼点が非常に素晴らしい。化学反応では色々な物質が混ざり合う必要があるが、非常に狭い領域で出会うようにすれば、否応なしに上手く混ざり合うし、反応の場の条件も均一になる。すると、普通は生産性が落ちるものだが、並列に沢山そのような場をつくれば、反応がどんどん進む。よって、従来なかなか反応が進みづらかった反応も省エネルギーで実現できるという面白い成果が出ている。産総研の特徴の一つだ。

―今までのお話を踏まえ、中高生を含めた読者へメッセージを。

 視野を広く持ち、高い目標に向かって、チャレンジするマインドが大切だ。最近の一番良い例は、なでしこジャパン。チャレンジする若者を大人は応援する。


■オンリーワンの技術で世界ナンバーワンを目指す
竹渕裕樹さん(東京エレクトロン宮城 取締役会長)

―そもそもなぜ「世界ナンバーワンを目指す」ことが大切だと考えますか?

 オンリーワンは素晴らしいが、ビジネスの世界ではオンリーワンであっても必ずしも成功するとは限らない。お客様の数が限られる中、値段や情報量等の競争で有利なのはナンバーワン。ビジネスで社会に貢献するにも、世に大きく広めることが必要だ。マインドとしても、ナンバーワンを目指さなければ、モチベーションや技術等が向上しない。だから我々は、サッカーでワールドカップを目指すように、オンリーワンの技術をもってナンバーワンを目指す。

―「産」の立場から、そもそもなぜ「産学官連携」は重要だと考えますか?

 利益を上げるための活動が我々産の役割だが、資源が限られる中、買いたくても買えない時や、やりたくてもやれないことがある。そんな時、純粋に研究をする学が、そこでつくった技術等を最終的に世の中に広げようとする時、どこかで産と結びついてくる。それがうまくつながれば、お互いメリットがあり、ユニークなものを生み出せる可能性が高い。産がきちんと儲からなければ、税金も入ってこない。産と学がうまくつながるコーディネイトの役割を、日本の官にお願いしたい。

―「産」の立場から、産学官連携において一番大切なポイントは何だと考えますか?

 官も学も公的機関としての公平さが必要なため難しい部分もあるが、規制がなくなることではないか。産学官のうち最も自由な立場が産だが、何をやるにしても規制があると、なかなか進められない。イノベーション創出のためには、自由な発想が生まれる場や仕組みをつくることが重要だ。

―今までのお話を踏まえ、中高生を含めた読者へメッセージを。

 一頃お金が儲かる金融機関を目指す人たちが増え、それに伴い中高生も文科系を志望する人が増加した一方で、理科系の人気は下がったと言われる。しかし、新しいものを生み出すのは、理科系の仕事。目指せ理科系。


■自社独自では難しい研究開発を連携により実現
小山昭彦さん(宮城化成 代表取締役)

―貴社は産総研と共同研究されていますが、「産」の立場から、そもそもなぜ「産学官連携」は重要だと考えますか?

 我々中小企業は、進めたい事業や良いアイディアがあっても、技術的・金銭的な面で、なかなか自社独自で開発まで進めないところがある。そこで我々は、産総研の研究者に相談したり、産学官連携で助成金を申請するなどして研究開発を進めてきた。産総研との連携により、新素材の開発や新分野への切り込みができつつある。今後はそれを商品化し次の事業につなげたい。また、異分野の人とも関係性ができ、従来とは違った仕事が入ってくるなどのメリットもあった。

―「産」の立場から、産学官連携において一番大切なポイントは何だと考えますか?

 まずは自分たちのアイディアを、きちんと研究者に話せること。次に、研究者の研究成果や特許などを、自分たちの企業や製品にどう利用できるか、それがうまくマッチングできれば、共同研究などは進むだろう。

―今までのお話を踏まえ、中高生を含めた読者へメッセージを。

 若者のアイディアやヤル気で技術力をもっと上げていかなければ、日本の技術力は落ちてしまう。世界ナンバーワンを目指す気持ちを、若いうちからぜひ持って欲しい。


■製品化のためには継続的な連携が重要
蛯名武雄さん(産総研コンパクト化学システム研究センター先進機能材料チーム長)

―「官」の立場から、そもそもなぜ「産学官連携」は重要だと考えますか?

 産総所は、日本のものづくりに関する最も大きな研究所のひとつ。つくばの他にも東北や北海道などに地域センターがあり、地域のものづくり企業と積極的に連携しようとしている。地元のものづくり企業のニーズに合わせ、我々の知識や研究成果を活かし製品化していただくことで、東北発ものづくりの後方支援的な役割を果たしたい。実際にいくつかの製品ができ始めているので、それを更に推し進めると同時に、引き続き支援させていただくことで、一緒に成功事例を出し続けたい。

―「官」の立場から、産学官連携において一番大切なポイントは何だと考えますか?

 地元企業との継続的な連携が大切だ。一般的な産学官連携は、競争的資金に申請し、一時的な連携で終わってしまうが、2~3年では製品化まで大抵いかない。本当のものづくりは、もっと長い時間がかかるものなので、一時的なサービスではなく、継続的な連携が大切だ。そのためにはお互い近くにいることが重要。特に我々は仙台にいるので、地元企業との継続的な連携を心がけ製品化まで支援を続けたい。

―今までのお話を踏まえ、中高生を含めた読者へメッセージを。

 「科学はこういうものだ」とか「これはこういう用途に使われるものだ」など、決まりきった考え方にとらわれず、自由な考え方でイメージを膨らませた先に、本当の答えがある。今ある材料や技術が必ずしも解ではない。新しい人が新しいアイディアをもって工夫していけば、新しく世の中に役立つことになりうることは、昔も今も変わらないし、可能性は小さくなっていない。だから、自由に新しいものをつくる考え方は、新しい人にこそ、より持ってもらいたい。ぜひ自信をもって挑戦して欲しい。

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